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第53話 蓮
始発の新幹線に乗った。主任はきっと心配している。呆れてるかもしれない。電話をかけ直さなきゃいけない。けれど主任は今頃、飛行機だ。
じっと携帯の画面を見つめて考える、何と言えば良いのだろう。
その時、携帯がぶるぶるっと震えた。
慌てて携帯を持って新幹線のデッキに移動する。主任の声を聞くとなぜか、きゅぅっと身体の中心が締め付けられたようになる。
出社予定時間には間に合いますと伝えて電話を切る。自分の心臓が早足で駆け出したのに気がつく。
どうしよう、俺はやっぱりおかしい。
荷物を引きずりながら会社に向かって歩いていると。肩を掴まれた。
主任が俺の事を待っていてくれたのかと思うと申し訳けなくなる。主任はまるで何もなかったかのよう、いつもと同じ。
昨日の事はどうなんだろう。主任は酔っていて覚えてないのだろうか。そんな事は無い。酔ってたのは俺の方。
聞きたくても、怖くて聞けない。と言うより、主任は後輩から絡まれて困っていただけだ。勝手に新幹線で帰って怒ってるのかと思っていたけれど、それもない。
頭の中ではいろいろな事がぐるぐると回っている。
何も無かった。多分主任の中ではそう言う事だろう。
何事も無かったかのように主任が振る舞うのなら、俺もこれ以上踏み込んではいけない。せめて、仕事でくらいは認めてもらう。それくらいしかない。
会社に着くと山中さんがニコニコしてやってきた。
「上原君、今日の約束忘れてないよね?。」
ああ、そうだ。気乗りはしないが約束は約束だ。
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