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第66話 匠

 上原の顔見ていたら、このままここで口付けても大丈夫なのではないのかと思うほど上気している。  俺の恋人を気にするのはそう言う事なのか。そうとしか考えられない。だが、こいつが自分から俺を好きだとか言うとは思えない。  「上原、俺は」  俺が口を開いたその時、会議室の内戦がプルプルとなった。邪魔だ。  「主任、あの。電話?」  上原が椅子に手をかけ、立ち上がろうとする。 「上原、出なくていい。今は会議中だ」  電話を無視したら、ドアが軽くノックされてガチャリと開いた。  「主任、3番にアズマ商事の紺野さんからお電話です。会議中なので折り返しますと、お伝えしたのですが急用だそうです」  上原の表情が凍った。  「主任、私は失礼します。デスクに戻りますので」  そう言う上原はすっと会議室から出て行った。  苛つきながら点滅しているボタンを押す。この時間は紺野も就業中のはずだ。どういうつもりだ。 「はい、田上です。ご用件を伺いますが?」  あくまでビジネスライクに応答した。

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