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第87話 蓮

 少し落ち着くと、ついうとうととしてしまったようだ。目がさめると主任はすぐに出かけられる格好でにこにことして俺を見ている。どうして俺まだ裸なんだろう。  「すぐに着替えます」  そう言うと驚く返事が返ってきた。  「見ててあげるよ」  主任はちょっと意地悪く笑う。俺の服を一式ポンとベッドに投げてよこすと、ソファをこっちに向けて足を組んで座った。ズボンは一晩中床にあったらしく少し皺になっている。  これって何の拷問なの。  恥ずかしくて死にそう。もう十分に恥ずかしいとこ見せてるけれど、スーツを着た主任の前で服を着るってどういう事だろう。今は何ひとつ身につけていないのに。  「あの、主任。お願いですから、あちらを向いてください」  泣きそうになると、主任はぷっと吹き出した。そして立ち上がると窓際に移動してコーヒーを飲み始めた。  ああ、またからかわれた。主任は、こんな性格だったったのかと驚く。仕事の時とはまるで別人のようだ。  「主任、もう出かけられますけれど」  「なあ、蓮、俺の事を仕事以外で主任と呼んだらペナルティにしよう」  「え?ペナルティ?ですか」  「罰として三回まわってわんと吠えるか、それとも俺にごめんなさいと自分からキスをするか。どっちかお前に選ばせてやるよ。」  主任はにやっと笑うと、両手を開いて待ってる。やっぱり別人のようだ。三回まわって吠えた方が恥ずかしくないかもしれない。  そっとそばに寄って頬に軽くキスをする。「今回だけはこれで許してやるか」そう言って主任は声を立てて笑った。

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