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第108話 匠

 何もする気が起きなくて、ぼんやりとしていた。  コンビニへ行きパンを買ってきてかじりながら手紙を眺めて、どうするかなと考えていた。  いつの間に時間が経ったのか、外が暗くなってきた。今日はあっという間に夜が来そうだと思いながら窓を眺めていたら、ばたんと大きな音がして扉が開いた。  「匠さんっ、匠さん!」  半泣き状態の仔犬が腕の中に飛び込んで来た。  ええっ?状況がのみ込めない。何がどうしてこうなったのだろう。  「良かったあ。匠さん、生きてた。具合は大丈夫ですか?怒って、怒っていませんか?」  「何を怒るって?俺が?」  「だって、携帯にかけても出てくれないし」  ああ、そういえば、昨日の夜は充電してない。テーブルの上の電池切れの携帯を上原に見せる。  「良かったぁ」  仔犬がポロポロと泣き出した。大の男が泣く姿を見て可愛いと思っていしまう。……でも仕方ない。可愛いもんは可愛いんだ。  「手紙読んで怒ってるんだと思いました」  あ、手紙か、それまだ読んでいない。テーブルの上の封を切られていない手紙をみて上原は「あれ?」と驚いた  「いや、今から読もうかと」  そう言うと、上原は自分の口できちんと伝えたいと、俺の誕生日に従兄弟の結婚式が入った事。本当は俺と一緒に行きたい事。けれど、家族に紹介できなくて苦しい事。  そして最後の大好きですからと言うメッセージは耳に口を寄せて小声で恥ずかしそうに呟いた。  「俺もう、餓死寸前」  そう言うと上原がご飯食べてないのですか?と聞く。  「んー、蓮が足りなくて、このままだと餓死だな」  抱え上げてそのまま寝室へと連れて行く。とりあえずこいつを補給してから、食事に行こう。

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