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第335話 匠

 「蓮、おはよう、喉か渇いたろ?水持ってきてやろう」  上原は昨日の夜、意識を手放してそのまま俺の腕の中で眠っていた。  少し……いや、かなり無理をさせた。  「ありがとうございます」  自分の掠れた声に上原が驚いている。そして何を思い出したのか、そのまま赤く染まった。俯いてしまった可愛い恋人に水を渡す。 「今日はレイトチェックアウトにしてあるから。もう少し寝てろ。動けないだろうし。お腹すいただろう。何かルームサービスで頼もう」  頭をくしゃくしゃと撫でると、気持ち良さそうな顔をする。ああ、やっと戻ってきた。  「あの、田上さん」  「その呼び方禁止な、匠って昨日の夜は呼んでくれたろう?」  「はい……あの……」  「どうした?」  「た、匠さん、服を…服を取ってもらえますか」  「どこへ行きたいの、蓮?」  「シャワーを浴びたくて、その……」  「服どうせ脱ぐのに着るの?」  くすくすと笑うと耳まで赤くなった。  「おいで、足もまだ本調子じゃないんだし、俺が連れて行ってあげるよ」  目を丸くして驚く上原をシーツで包んで抱き上げだ。  「どう?これなら良いだろう?」  そう言うと小さい声で  「降ろしてください」と言われた。  降ろしてと言われて素直に従うわけもないのに。可愛い恋人をしっかりと抱き抱えてバスルームへと俺は向かった。  「蓮、今日帰ったら。お前の家に挨拶に行こう、改めてお前の家族に認めてもらおうと思うよ」  上原はことんと俺に頭を預けて小さく頷いた。

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