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テスト4 《剣介》

その後も微妙な空気のまま勉強をし始めた。 まずは俺が苦手な数学。 「なぁ、ここってさ」 「んーと、そこはこの公式つかうんだよ」 いつもと変わらず親切に教えてくれている。 「それはわかるんだけどさ……ああ、そう解くのか」 「あ……う、うんっ」 けど、早苗のノートを覗いて顔が近づくとやっぱり顔を赤くする。 こんな反応初めてで、どうしたらいいかわからない。 やりづらい。 でも、ちょっと期待してしまっていた。 もしかしたら、早苗が俺のことをって……。 まぁ、だからと言って行動に移せるほどの勇気はない。 『意気地なし』 いつか榎本に言われた言葉を思い出した。 確かに、その通りだ。 いつもいつも、大事なとこでびびって行動に移さない。 意気地なし。 「……さっきさ」 思い切って声に出してみた。 少しだけ自分にブレーキをかけずに言う。 「さっき、何言おうとしてたんだ」 「……な、なんでもないよ」 やっぱり早苗は何も言おうとしない。 「すげぇ、気になるんだけど」 俺を無視して問題を解こうとする手を掴む。 「早苗」 自分でも、もはやどうしたらいいかわからなくて頭は真っ白だ。 名前を呼ぶと早苗はゆっくりと顔を上げた。 頬が火照って赤くなり、瞳が揺れて、決心したように俺を見つめる。 「あ、あのね、僕……」 早苗の右手を握る手に力がこもる。 けど、そういういい雰囲気もちょっとした俺の勇気も結局は砕かれる。 バタバタと足音が外から聞こえ、インターホンがなった。 「にいちゃーん!」 下の弟の声がして、気分もそがれ二人きりの時間も終わり。 もやもやしたまま手を離して、仕方なく玄関のドアを開けに向かった。

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