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恋人《龍太郎》
「というわけで、なんと付き合っちゃいました!」
上機嫌で話すと、食い入るように聞いていた秋良の目が大きく見開かれた。
江も驚いているし、ヒロちゃんは大きく息を吸ってうっとりと目を細めた。
「まさか、本当に……」
「き、聞き間違いじゃなく?」
「いやぁ、アオハル感じちゃうなぁ」
三者三様の反応に満足しながら、飲み干すコーラはなんともうまいものだ。
幼馴染の二人の親や兄弟、もちろんうちの家族も俺の話に愉快そうに笑っていた。
週末の夜、こうして俺の家に家族ぐるみで集まることがよくある。
「で、どうやって落としたんだよ」
中でもやっぱりヒロちゃん達三人は興味津々に俺に詰め寄っていた。
「男らしくびしっと告白をね」
「何回目だよ」
早速冷静にツッコんでくる江。
確かに告白自体は何度もしていた気がする。
「私がはっきりしてよって言ったからかな?」
「え? なんで秋良が」
「だって……付き合ってもないのに、その、ちゅーしたり……思わせぶりで、龍太郎が期待しすぎちゃうんじゃないかって」
いつの間にそんなことを言っていたのだろう。
「え、そのせいだったらどうしよう。俺と付き合ってくれたのって、秋良に詰められたから?」
事実として付き合えていることは嬉しいのには変わりないが、事情があってのことだったなら素直に喜びきれない気もする。
「でもさ、話聞いてる感じ、そう言われたから付き合おうってタイプでもないんじゃないかなぁ」
心配する俺に、ヒロちゃんはビールを飲みながら言った。
「確かに押しには弱そうだけど、流されやすいならとうの昔に付き合ってそうだし」
「それも、そうか……」
「なにより、前出掛けた時に会っただろ? あの時、なんか龍太郎には心を開いてるっていうか、心を許してる感じあったよ」
心配を通り越して、なんだか今度はドキドキしてきてしまった。
俺はずっと自分の気持ちに精一杯で、そんな風に見ることはできなかったから。
ある種、諦めている節があった。
男同士だし、付き合えるわけはないって。
ただ好きで、好きって気持ちを伝えることに、好きでいることに臆病でいたくなかった。
投げやりにならずに自分の気持ちに向き合いたかった。
少しずつ期待が膨らんだのは事実だった。
涼香ちゃんが俺の言葉に、笑顔に反応して、困って、側にいることを許してくれたから。
誰よりも笑っていて欲しい。
できれば、ううん、その隣にいるのは俺だって確信していたい。
「それで……付き合うって、その、どう違うの?」
俺達の話を聞いていた江がそんないじらしい質問を投げてきた。
思わず頬が緩む俺達三人の前で、江は頬を赤らめる。
「付き合う前にキスとかしちゃってるのに、何かその変わるのかなぁって」
「やだわぁ、こうたんってばハレンチ」
「ち、ちが! だから、そういうんじゃなく、男同士って……友達とどう違うのかなって」
シンプルな疑問だ。
恋愛は男女でするものだって意識は、漠然とあるものだ。
俺だって、そう思い込もうとしてた時期がある。
「そりゃ友達の好きと恋人への好きは違うでしょ?」
俺の言葉にそうかもと言って、江は頷いてみせる。
「異性だろうが同性だろうがきっと変わらないよ。その人に夢中になって独り占めしたくて……ってまぁ、俺は男しか好きになったことないけどな」
ヒロちゃんはそう言って笑って見せる。
江は噛み締めるように頷いた。
まるで、恋でもしてるように。
「え、江……好きな子でも出来たの?」
「!?」
真っ赤になって固まる江。
「だれだれ? どんな子なのよ~!」
真っ先に食いつく秋良とヒロちゃんにも見つめられ、江は居心地悪そうに席を立った。
そうか、とうとううちの江くんにも春が来たか。
そんな風ににやけていると通知音が鳴って、すぐスマホを手に取った。
『暇だから、いいよ』
シンプルでそっけないけど、彼らしい返事。
「涼香ちゃんから? お前顔に出過ぎだぞー」
ヒロちゃんに小突かれ、それでも緩んだ顔は戻らない。
だって、大好きな涼香ちゃんと二人で遊べることになったから。
『やったー!超楽しみ!!』
友達じゃなく恋人として、初デート。
なんていい響きだろう。
『俺も』
すぐ送られてきたメッセージに思わずソファに倒れ込んだ。
『ちがうなんでもない』
続けてそんな風に慌てて送られてくる。
『とにかく遅れるなよ』
あぁ、なんて、なんてかわいいんだろう。
「あーもう、大好きだ」
「おう、おじさんも龍太郎のこと好きでちゅよ~」
思わず抱きついたヒロちゃんに絡まれ、頭をくしゃくしゃに撫でられる。
夢みたいだ。
だけど夢じゃない。
付き合ってデートして、その横に涼香ちゃんがいる。
なんて幸せなんだろう。
涼香ちゃんが俺の恋人。
浮かれる気持ちに包まれながら、夜は更けていった。
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