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雪下出麦 7*(最終)

 英策の愛撫を身に受けながら、どうして自分は英策を愛するようになったのだろうと考える。  おそらくは、英策がつねに悲しみを胸に沈めて笑うひとであったからだ。どうしたら英策に晴れやかな微笑みが浮かぶのか、気になって仕方なかったからだ。 「やッ……いや――ァッ…」  中心を英策に含まれ、シーツを爪先で蹴りながら射精感に身悶える。この美しい人が自分を舐め尽くすように愛するさまに、啓介はいたたまれない気分になる。 「そんなこと、しなくて、いいです……」 「僕は君を食らい尽くしたいんだ」  音を立てて鈴口を吸いながら、英策が淫蕩な笑みを浮かべる。 「君に飢えていたんだから、おとなしくしていたまえ」  英策は喉を使って啓介を絞り上げた。 「や……出る……イクッ……!」  英策の髪を掻き乱しながら、啓介は英策の喉に熱を吐き出した。解放される快楽に、目の裏が真っ白に染まる。  英策は芯をなくした中心を慈しむように舌を這わせている。 「……飲んだんですか」 「飲んだよ。君の胤だからね」  英策は蕩けるような笑みを浮かべると、啓介のとなりに横たわった。啓介の身体を抱きしめる。 「君に娘がいればよかったな。そうすれば僕は君の娘と結婚して、子供を作ったのに」  英策が啓介の胸の突起へ指を這わせる。 「君と僕の血を引いた子供ならば、愛せたかもしれない」  英策の低い笑い声が、啓介の胸に落ちる。このひとはどうしてそこまで自分を好きなのだろう。 「なぜ、私だったんですか」 「僕の夢が形になって、目の前に現れたからだよ。美しいものにはつい手が出ると、君も言ったじゃないか。最初は君に惹かれまいと努力したんだ……無駄な抵抗だったよ」  英策はやはり、啓介に自分の夢を重ねていたのだ。子供のころになりたかった、夢の具現。飛ぶことができない自分の代わりに、英策は啓介に羽を与えてくれた。  英策の美しい目でいよう。澄んだ目で万物を見よう。そして世界の美しさを英策と共有するのだ。彼の心に空いた真空を埋めるために。  啓介の欲望がふたたび萌してくる。英策は身体を離すと、啓介の後孔をほぐしていった。英策は自分を穏やかに見下ろしている。啓介の口元にも笑みが浮かぶ。  緩やかに笑いながら、身体を繋げた。愛おしい男が内側へ入ってくる感覚に、深いため息をつく。 「ようやくひとつになった」  ほっとしたような英策の呟きを、繋がった身体の振動で感じる。自分も同じ気持ちだと、身体を持ち上げて英策に口づける。 「あっ……いい、やァ……っ、いい――」  身体の敏感な部分を攻められて、自然と嬌声が洩れる。  甘い痺れが背筋に湧き上がって、わけもなく泣きたくなる。 「ずっとこうしていたい」  英策は腰を使って啓介を穿ちながら、熱にうかされるような顔で呟く。 「君が離れていくのが怖いんだ」  揺れる視界に、不安げな英策の顔が映る。啓介は身体のもっとも深い部分を明け渡しているのに、英策はそれでも泣きそうな顔をしている。 「どこにも行きませんよ」  顔を上げて、英策の舌をきつく吸う。 「私はいつでも、あなたのところへ帰ってきます」  英策が涙の滲んだ目を細めて微笑む。幾度となく口にした言葉を、舌に乗せる。 「愛しています」  波頭に乗り上げる船のように、身体を激しく揺さぶられる。啓介は英策の背中に腕を巻きつけながら、英策が果てるまで、切れ切れの睦言を英策の耳に注ぎ込んだ。

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