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第43話 未来へ

「さて、春斗。話は聞いたぞ。」 「お恥ずかしい限りで……」  やはり身近な人に自分の本心を聞かれるのは恥ずかしかった。 「恥ずかしがることはない。私は嬉しかったよ。実は、春斗がここに来たことを後悔しているのではないかと案じていたのだ」 「そんなことはないですよ。前にも桜の木の丘でお話ししましたが、俺はここが大好きです」 「そう思ってもらえて嬉しいよ。ほら、ここは冷える。中に入ろう」  そう言って七瀬に手を引かれた。 「っ……!」  思いの外力強く手を引かれ、重なった唇。  七瀬はしたり顔。 「もうっ! 不意打ちはやめてください!」 「不意打ちでなければよいのか?」 「……そういうことでは……」 「ははは、春斗は可愛いなあ!」  七瀬は、ぎゅうぎゅうと春斗を抱きしめ、自身が満足すると、今度こそ部屋の中へと入っていった。  そして春。  二人は例の桜の丘に来ていた。  桜の巨木が見事に開花し、ひらひらと花の雨を降らせている。 「見事だな」 「ええ、こんなに素晴らしい桜は見たことがありません」  二人は岩に並んで腰かけ、桜を見上げた。  桜の季節とはいえ、時折吹く風はまだ冷たい。  春斗は、里緒と菜緒が用意してくれた温かい茶を取り出し、湯のみに注ぐ。 「あ……」  春斗の茶に花びらがひらりと舞い降りた。 「いいことがありそうだな」 「はい! あ、でもここに七瀬さんと来られたことが十分いいことですけどね!」  春斗は湯のみの茶を飲み干すと、勢いよく立ち上がった。 「七瀬さん! どっちが多く落ちてくる花びらを取れるか勝負しましょう!」  そう言って春斗は、舞い落ちる花びらに向かって走り出す。両手を広げて飛びあがったり、しゃがんだり。  夢中になって花びらを追いかける春斗。  七瀬は、ふふっと込み上げてくる笑いを止めることができなかった。 「よし、私に勝てるかな?」  七瀬も春斗に倣って、花びらを追いかける。  丘の上には二人の楽しい無邪気な笑い声が木霊していた。  どれくらいそうしていただろうか。  春斗は荒い息を整えながら、七瀬を睨んでいた。 「もう、ちょっとは手加減してくださいよ!」 「ははは、春斗が不器用なだけだ」  七瀬の花びらを掴まえる姿は圧巻だった。  それはもう、優雅に踊るように花びらを手に入れるのだ。全くもって春斗に勝ち目は無かった。 「来年は絶対に勝ちますからね!!」 「そうだな、楽しみにしているよ」  七瀬は軽やかに笑った。 「さぁ、そろそろ帰ろうか。里緒と菜緒も待っているだろう」 「はい!」  ひらひらと舞い落ちていた花弁は、二人を祝福するかのように、爽やかな風と共に一斉に舞い踊った。

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