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第19話※

 しゅん、と晴也は、自分の立てた膝に顎先を埋める。秀一は隣に腰を落として、自信なく目じりを下げる晴也へ励ましの声をかけた。  もし本当に晴也が弱いなら、家族のために傷ついても大丈夫とは言えないと思う。  何も持たない生身の晴也が自分の身を投げ打つのと、その気になれば権力を動かせる秀一が身体(からだ)を張るのと。どちらに勇気が必要だろう。  晴也は十分に強い。その綺麗な心根が、秀一の知る誰よりも。 「謝るなら俺でしょ。面倒なことに巻きこんじゃってごめん。なるべく早く、事態が落ち着くように努力する。窮屈かもしんないけど、しばらくはここにいてね」 「窮屈とか、思ってないよ……っ。日高さんは悪くないよ。喫茶店の騒ぎは、あんなところで騒ぎを起こした人が悪かったんだよ。日高さんが、謝ることじゃない、し……、その、かばってくれて、う、嬉しかった、よ……」 「晴也さん……」  ――ああもうなんていじらしい!  巻きこまれただけなのに。危ない目にあうかもしれないのに。熱いコーヒーをぶっかけられた晴也こそ被害者なのに。  一生懸命、秀一を慰めてくれる、不器用な晴也の優しさと強さをしっかり受け取った。これは惚れ直しても、仕方がないというものだ。  可愛さ百倍、愛しさ千倍。無意識に、隣に座る晴也の目元をちゅっと吸った。調子に乗って、晴也についばむ唇を移してゆく。  目元、耳たぶ、白い頬。ぽかんと開けて固まった、可愛い口の端っこも。 「あ、あ、の……、ひ、日高、さん……っ」 「嫌ですか? 俺、今すごくしたい。晴也さんを今すぐ……俺の腕に抱きたいです」 「ぁ…う……。い、いや……。じゃ、ない……んだ、けど……っ」  きょときょとと動揺する視線のすぐ前で、熱い眼差しを送る。直視していれば、晴也は顔を真っ赤にして、ぎゅっと目を閉じた。  緊張と恥ずかしさにがっちり結んだ唇にも、優しいキスをかぶせる。小さく身震いした身体を、毛並みのいいラグに押し倒した。 「あっ」  甘い響きが秀一の耳をくすぐる。シャツも下着も奪いとり、晴也の裸体を秀一の全身で感じたい。一枚ずつ、服を脱がすのももどかしかった。今すぐ力ずくで、剥ぎとりたい。  上位αの厄介な性質だ。征服欲が強すぎて、常に上位に立ちたいと本能が働く。  組み敷いた身体のすべてを貪り、隠された腹のなかの、奥の奥まで突き破って。晴也の細胞を暴き、分解し、ひとつ残さず支配したい。 「ん……っ、ぁふっ、ま……っ、こ、な…昼間、から……っこんな、とこ、で……」 「恥ずかしい? 俺は覗き見してる奴がいたら、見せつけてやりたいな。俺のものだって」 「んぁッ」  強烈な欲を抑えつけるかわりに、丸裸にした晴也の素肌を嬲っていく。隅から隅まで。あますところなく滑らかな肌を愛撫し、獰猛さを秘めた視線と、唇と舌で味わう。  窓が大きい室内は明るい。おかげで晴也の白い肌がより引き立つ。白い肌は、秀一が触れた赤い痕跡を残す。誰ひとり侵していない真っ白な雪の上に足跡をつけるように。 「乳首と、それに、ここも。晴也さんの弱いところ。晴也さんの身体は、ちゃんと覚えてくれてるでしょう?」 「あぅっ」

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