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第18話
不安だ。とてつもなく。ちゃんと伝わっただろうか。通話音はすでにプープープーと虚しい音を奏でる。
握った携帯を胡乱な視線で眺め、後ろ髪を引かれながらスマホをポケットにしまった。
うまく伝わってなかったら、もう一回最初から指示を出そう。そう思い、すぐさま出かける準備に取り掛かった。
***
夢を眺めているのだ。晴也が秀一の部屋にいるなんて。
「えと、お世話になります……?」
訂正する。夢ではない。小さく首を傾げる唇から発せられた、遠慮気味で、穏やかな声を聞く。すると秀一のなかで現実味が急激に加速した。
本物の晴也が目の前で座っている。秀一の頬は緩みっぱなし。
「かしこまらないで。提案を受けてくれて嬉しい。楽にしてて」
秀一がひとりで暮らす室内は3LDKの高級マンションだ。日高グループの所有マンションだが、秀一ひとりで暮らすにはあり余る。
本当は実家から離れたかったけれど、防犯対策されたマンションのうえ、緊急事態のときは日高がすぐ動けるようにと説得された。だがやはり、おんぶにだっこは嫌で、家賃はとうぜん秀一が払う。
にしても……ソファーがあるから、そこに座ったらいいのに。なぜか晴也は、ソファー前のフローリングに体育座りだ。緊張しているのか。
「そこのソファー、使っていいよ?」
「あっ、えっ。あ、うん。でも、なんか座ったら、しわになりそうで……もったいないっていうか」
「ううん? ソファーだから、座っても、そんな簡単にしわになんないと思う」
一般家庭で育った晴也は、室内の広さと上品な内装に落ちつかない様子。きょろきょろと視線を動かし、身の置き所なく、ソファー前の隅っこで縮こまった。
しかし、荷物がずいぶんと少ない。数週間の短期間ならこんなものか。少々寂しい気もするが、大事なのは、今から晴也と一緒に住むということ。
晴也が迷子になって……というか、帰宅途中で何者かにつけられた翌日だった。晴也から連絡があったのは。
本当はあの日、晴也を迎えに行ったその足で自宅に連れこみたかった。けれど、知らない道をあてもなくさまよって、しかも正体不明の気配を感じた晴也は、心身ともにひどく疲れているようだった。
仕方なく、秀一は、晴也を家族のもとまで送り届けた。晴也がゆっくり休めるように。だがやはり心配で、もう一度だめ押ししようとする矢先だ。念願の返事をもらった。
秀一の話も重なり、晴也はたちまち不安になったそう。直接的な被害はもちろん出ていない。秀一が手出しさせない。けれどもしも、晴也の家族が巻き添えを食ったら。
自分自身が痛い目にあうのは我慢できる。だけど、大事な両親と姉が傷つくのが怖いと晴也は言った。
「日高さんに……迷惑がかかってごめん。俺が、頼りなくて、どんくさいし……弱いから」
「そんなことないよ。そんなふうに、自分をおとしめちゃだめだよ。俺が好きな晴也さんをバカにしないで。そんなの、晴也さんでも許さないからね?」
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