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第22話※

 振り絞った吐息を晴也がわななかせる。震える裸身を腕に囲い、ぎこちない息継ぎすら逃すまいと喘ぐ口を深く塞いだ。  隆々とする腰を恥骨があたるくらい大きく突き挿し、晴也の身体ごとゆさゆさと揺さぶる。逞しい秀一の熱に浮かされた晴也は、顎を突き出し、綺麗な汗を飛び散らせた。 「んぁ…っあっちぁ……あっ、日高さ……っ好き、なるの、こぁい…っ……!」 「俺を、好きになるのが怖いの?」 「んっんぅっ、んっ……おれ…、おめ…ぁっじゃ……っ、ない……か、っあ!」  Ωじゃないから。上位αの秀一を好きになるのが怖いのか。晴也は、ただのβだから。  腹の奥を突き上げられながら、晴也が潤んだ瞳をくしゃりと崩す。乱れた吐息とともに、秘めた思いを吐き出してきた。けれど。  晴也が秀一を、好きだと言ってくれたら。たとえ秀一に運命の番が現れても振り切るし、晴也が運命の刻印と出会ったら奪い取るのに。 「はっ……、俺はβの……、晴也さんが好きなんだよ」 「ひぁっ! あ、あっあぁっ、あぁっんっ、ふぅ……っ」  見返りが欲しかったわけじゃない。なのに、晴也の身体を手に入れたら心まで欲しくなった、なんて。勝手だと言われるのかも。  強引にこじつけて始めた関係だったから、これで満足すべきかもしれない。だけど、秀一は、貪欲になってしまった。晴也が恋しくて。  どんなに手間がかかっても、どれほどαの欲望を殺そうとも。Ωならかけなくていい時間をたっぷりかけて愛する。手間暇かけた分だけ愛着もひとしおで、愛しさが増すのだと、知ったのだ。  泣きそうな顔で秀一の首にしがみついてきた晴也は、最後は激しい律動も受け入れてくれた。  飢えて貪りつく秀一を抱きとめてくれるのに、βとαの結ばれぬ性に囚われて、心は受け入れられないという。秀一を欲しがる同じ口で。  晴也の最奥をこじあけ、まっさらな晴也のなかを、秀一の精で溢れるほど満たしていく。もしかしたら晴也にぎゅっと抱きしめられた秀一のほうこそ、泣きそうになっていたのかもしれない。 ***  器用なようで不器用な恋路は一歩ずつ。晴也の心を聞けただけでも、一歩前進としようか。こういうときこそ焦らずにポジティブに。  ただいま断然無職中の秀一は、鼻歌交じりに朝食を作っていた。ひとり……じゃなくて二人分だ。  晴也が好きなモーニングセットを見栄えよく食卓に再現し、明るいリビングテーブルに並べていく。温かいコーヒーも用意した。  時計は朝の七時を指す。食事も整ったところで晴也を起こしにいこう。実のところ晴也の職場は、秀一のマンションから歩いてもいける距離だ。  晴也はバスの到着時刻と出勤までの、時間合わせに近場の喫茶店へ寄っていたそう。秀一のマンションは喫茶店から近い。ならば必然的に、晴也の職場も近くなるわけで。  さらに同居してからは喫茶店に行かなくても、店にも劣らぬ食事を秀一が準備する。出勤日は朝の六時起きだったという晴也は、今は見事に七時起きになっていた。  一人暮らしの広い室内で向かうのは、ごくたまに遊び仲間が泊まるときに使う空き部屋だ。  滅多に使われない一室は、普段は閑散としている。しかし部屋の扉を開ければ、今はベッドの布団がこんもり山を作っていた。  すぅすぅと小さい寝息が聞こえる。空調がきいた部屋でも、顎先まで布団を覆う晴也の寝顔が健やかだ。覗いた、秀一の頬がほころんだ。 「おはよう。晴也さん朝がきましたよー。七時だから、そろそろ起きないと遅刻しちゃうよ」 「んぅー……、はよぅ……」
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