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第23話
片足をベッドに乗り上げ、布団を下ろし、眠る頬っぺたにキスをする。秀一の唇が触れたところで、晴也は寝ぼけ眼をパチッと開いた。
「七時!?」
「おっ、と」
がばっと大きく起き上がった晴也を両腕で受け止める。混乱した晴也に、もう一度秀一は唇を寄せた。
「大丈夫、もう朝ごはんできてるから。晴也さんの好きな、コーヒーも入れてるし。ほら顔洗ってきて」
「あ……」
ぱちぱち瞬きする晴也の目元をちゅっとする。軽いキスをされた晴也は、やっと状況がわかったらしい。
安堵とも腑抜けとも取れる溜め息をつき、大きく肩を落とした。ぴょこぴょこ跳ねた寝ぐせも一緒に項垂れる。
晴也の片腕が、先ほど秀一が触れた目元を覆った。
「俺……。なんか、日高さんのそばにいたら、どんどんダメになっちゃう……」
「くくっ、なにそれ。俺は、もっとダメになって欲しいけどね。晴也さんが俺なしじゃ、生きていけないくらいには、ね?」
「な、な、な、にっ……」
晴也は顔を真っ赤にして布団からもぞもぞと抜け出す。にやつく秀一を両手でぐいと押しのけ、洗面所へ向かっていった。
秀一の唇が弓なりに曲がる。晴也の身体も日常生活も。秀一なしではいられないようにしたいのだ。
寝起きパジャマの後姿を眺め、秀一は、先ほど口づけた唇の端を、親指の腹でそっと拭う。
連日抱くのは晴也の身体に負担がかかる。あり余る性欲をセーブしつつ、どうやって晴也の周辺を固めようか。そんな構想を、頭の中で密かに練った。
じわじわ追い詰められているのにまったく気づかない晴也は、本当に、可愛らしいと思うだろう。
***
「あの、これ、は……、やっぱ、ヘンだと、思う……」
フリフリのピンクのエプロンを着て、晴也は恥ずかしそうにもじもと短いフリルの裾を引っ張る。
実際恥ずかしいのだろう。顔を真っ赤にして、困惑に潤む瞳はきょときょとと落ち着きがない。極めつけは、事後のあとだ。
逞しい秀一に挑まれて、へばった晴也が散らばった服を手にする前に、洗濯するからと秀一が取り上げた。今はサイズがまったく合わない、秀一のルームウェアを身に着ける。
とくに大きい、上着とズボンを選んだのはわざとだ。こうすると晴也の線の細さが際立って卑猥だからだ。
さらにはミニサイズのピンクのフリルエプロンが、男の願望を具現化するのだからしょうがない。
身動きすると、動きに合わせ、晴也の薄い肩がするすると剥き出しになる。大きすぎるズボンも、細腰にはフィットしない。
晴也がわずかに歩こうものなら、だぼっとする上着から見え隠れする、丸いお尻がちら見しそう。
ちなみにパンツも秀一のだが、残念ながら秀一にはサイズが小さかったものだ。新品のブリーフパンツは晴也にはぴったりで、ぴちぴちしたお尻の形がよく見える。
始まりは、晴也の一言だった。今日は、晴也の仕事は休み。
秀一ばかり家事をさせては悪いと、晴也は自分もすると言いだした。想像どおり晴也は不器用で、はっきりいって家事には向かない。
だが少しでも秀一の役に立とうと、献身的に家事をこなそうとする健気な姿は、秀一の庇護欲を大いに掻き立てた。
掃除、洗濯、観賞植物の水やり。そこまでは順調だ。しかし料理に突入すると暗転した。
不器用で、細かい作業がすごく、苦手で……と……。
申し訳なく恥ずかしそうに。頬を赤らめながら呟いた晴也が掴む、光る包丁は、一個のじゃがいもをめがけダイナミックにダンッと捕食者のように振り下ろされた。
どれだけ秀一が悲鳴をのみこんで、青ざめて、泡を吹きかけたのか晴也は知らない。
具材のかわりに可愛い指が吹っ飛ばないかとハラハラし、豪快に飛び散る油で火傷をしないかビクビクし。うっかりすべって割れた茶碗で、いつ怪我をしないかとドギマギした。
結果、血を見ることはなかったが、床が水浸しになった。ついでに晴也の服もびしょ濡れになって、服を脱がせていたら、『お約束』だ。
そういう雰囲気になって、とろとろに蕩けるくらい甘やかして、今に至る。
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