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Two Drifters 4(最終)
「僕もあのときとは違う。自分の意志で自分の将来を決められる」
三崎の肩を抱き寄せた。容易に腕が回る、細い身体。頬にかすめる、三崎の高い体温。
「僕といっしょに生きてくれないか。できれば、一生」
三崎の目から涙が盛り上がった。ふるえる口元が引き結ばれる。声を殺して、三崎が泣き始めた。主人を心配したエルザが、僕らの周囲をぐるぐる回っている。
「あのとき、三崎をここへ置いていって、悪かった」
「あれは僕が……」
「ほんとうは、別れたくなかっただろう」
「すごい自信だね」
泣いていた三崎が、ため息をついて笑う。涙を拭う僕の指に、三崎がそっと唇を寄せる。
「君は僕を置いて東京へ行くのが嫌だった。だけど、男の僕を本気で好きになるのも怖かった。君には将来がある。病気の人を幸せにするという使命もある。そんな君に、僕はふさわしくないと思った」
でも、と僕の手に頬を添わせて、三崎が話を続ける。
「最後に君とここへ来たとき」
三崎がまばたきをしながら涙を払う。
「僕は海側を歩いていた。後ろを振り返ると、僕の足跡は波に洗われて、ところどころ消えかかっていた。こうやって君のなかから僕が消えていくのかと思った。怖かった」
僕は涙を浮かべて笑う三崎の顔に見とれた。こんな美しい人にずっと悲しい思いをさせていたのだと、今さらながらに思い知る。
「僕は君を忘れられなかった。エルザと散歩に来ながら、何度もここへ座って君を思い出した。僕は君にも、君の取り巻く空気にも、神様にもなりたかった。ほんとうはもう一度ここで、君に会いたかった」
僕の手に涙を零しながら、三崎は笑った。霧雨が僕らを覆って、午後の光が細かい雨粒を金色に染める。
「願いが叶うとは思わなかった」
僕らは微笑みながら唇を合わせた。甘い吐息に、吐息を重ねる。三崎の唇はやわらかく、かすかに涙の味がした。海水をうすめたような、塩の味。
規則的に打ち寄せる波の音と、唇の立てるひそやかな水音が重なった。頭に血が上りすぎて、目眩がする。このまま君のなかへ溶けていきたい。君の耳の奥にある迷路へ迷い込んでしまいたい。
「一生僕といっしょに歩いてくれますか?」
唇を離した僕は、三崎の頬を手で包み込んで聞いた。
「もう二度と波打ち際を歩かせないから」
金色の霧雨に包まれながら、三崎がふわりと笑った。僕の視界で三崎の笑顔が滲んで、やわらかい光に溶けて消える。
「春森まで泣かないで」
三崎が僕の涙を指で拭った。
「もう一生、離れないから」
誓いの言葉を、エルザが黒く濡れた瞳で僕らを見上げて聞いていた。
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