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第四章 銭湯・炬燵・姫初め② ♡
家に帰り着く頃には年越しも間近だ。炬燵で暖まりながら天ぷら蕎麦を啜り、大晦日の特別番組を流し見しながらミカンを食べる。口を開けて待っていれば、歩が剥いてくれたミカンを放り込んでくれる。
「白いの全部取って~」
「いちいち注文が多いんだよ」
文句を言いながらも、歩は丁寧に筋を取ってくれる。口に放り込まれたそれは、甘くて酸っぱくて瑞々しくて、少しひんやりしていて旨い。
大晦日をこんな風にのんびり過ごすのは初めてかもしれない。世間の浮かれた空気からいつも取り残されていた。働き始めてからは、元日から通常通りに仕事だったこともあり、大晦日はただ夕飯に立ち食い蕎麦を食べるだけの日になっていた。
しかし、今年は勝ち取った。正月という名の休日を。十二月は働き詰めだったこともあり、休みを取っても嫌な顔はされなかった。
「なぁ」
「何だ」
「くっついていい?」
「狭いから嫌だ」
「まぁお前に拒否権ねぇから。くっつきま~す」
「だったら聞くなよ」
俺は、邪魔なテーブルの脚を乗り越えて、歩の隣に無理やり潜り込んだ。
「やっぱ狭めぇな」
「分かってたことだろ」
「でも嫌じゃねぇよ」
炬燵の中で足を絡める。指の先まで温かい。ぎゅうっと体を密着させて抱き寄せる。キスしようとすると、口にミカンを押し込まれた。
「何だよその顔。筋は全部取ったぞ」
「いや、みかんはうめぇけど……」
不貞腐れた俺を見て歩は笑ったが、戯れに軽くキスしてくれた。
「これだろ」
「分かってんじゃん」
「ふふ、みかん味だ」
どちらからともなく、再び唇が重なった。ちゅっ、ちゅ、と唇を交わらせて、小鳥の啄むようなキスをする。甘くて酸っぱくて、初恋のような味がした。
「なぁ」
「ん?」
「エッチしながら年越ししてぇ」
「ふん。できるもんならやってみな」
歩は挑発的に微笑んだ。
「しかし、ずいぶん子供っぽいことをしたがるもんだな」
「子供っぽい?」
「だってそうだろ。年越しの瞬間にジャンプしたがるガキと変わらねぇよ」
「あー、確かにあるね。そういうの」
「だろ」
「でも、ガキはこんなことしねぇだろ」
炬燵で暖まりながら、背面座位で交わった。俗に炬燵篝と呼ばれる体位だ。体を冷やさず、程よい密着感で、長いこと行為を楽しめる。歩は、俺の太腿に跨るようにして腰を下ろし、時折テーブルの天板に手をついて体を支え、腰をくねらせる。
「んっ、……確かに、ガキはこんなとこ、こんなに硬くしねぇよな」
くいっ、くいっ、といやらしく誘うように腰が揺らめく。炬燵布団に隠れていて結合部は見えないが、汗ばんだ肌の擦れる感触が伝わってくる。
俺は歩をバックハグで抱きしめた。スウェットの裾に手を入れて、白い腹を撫で上げて、薄い胸を弄った。自然と歩が振り向いて、唇が重なる。角度を変えて何度もキスをし、やがて舌が絡んだ。
歩の小さな口は、俺の舌ですぐにいっぱいになってしまう。前歯の裏側を舌先でくすぐってやると、抱きしめた体が嬉しそうに震える。応えるように、歩は俺の舌を甘噛みし、ちゅうと吸った。腰がじんわりと痺れていく。
繋がったままキスをするのって、どうしてこんなに気持ちいいんだろう。ただ気持ちいいだけじゃない。心の底から幸福感が湧き上がる。このまま一生を終えても悔いはないと思えるほどだ。
「っ……今日はずいぶん、粘るじゃねぇか」
歩の瞳が期待に潤んでいる。呼吸は弾み、抱きしめた体は火照っている。固く主張している胸の尖りを捏ねてやれば、堪らないとばかりに肚の奥が疼いた。
「今日はゆっくりしたいから、これでいいんだよ」
「でも、っ……いいのかよ? もう、年明けだぞ」
「いいのいいの。カウントダウンと同時にイキたいから」
歩は卓上の時計に目をやった。0時を回るまで、あと十分もない。期待に肚の奥が濡れる。直に触れている俺にももちろん伝わった。
「だったら、もっと……っ」
「ちょっと動いたらすぐ出ちまうから」
「っ、早漏め……」
半分本当で、半分嘘だ。素直に動いてほしいと言えない歩がもどかしそうに腰をくねらす姿を堪能したいがために嘘を吐いた。くちゅ、ちゅぷ、と控えめな水音が炬燵の中に響いている。
遠くに鐘の音が聞こえた。除夜の鐘だ。煩悩を消し去り真っ新な状態で新年を迎えるために鳴らすのだと歩が教えてくれたが、俺の煩悩は鐘撞きごときで消し去れるものではないらしい。
それはきっと歩も同じことだ。僅かに腰を浮かしては、媚びるように擦り付けたりして、来たるその時を待ちわびていた。
「歩」
真っ赤に火照った耳たぶを食みながら、俺は囁いた。
「っ、ん……」
「今年一年、ありがとな」
「いま、っ、言うのかよ……」
「今しかねぇじゃん。来年も再来年も、ずっと一緒にいてほしい。んで、毎年こうやってカウントダウンしような」
「っ、准、……」
俺は歩の括れた腰をしっかりと掴み、最奥まで届くように深く腰を突き入れた。歩の掠れた悲鳴が漏れるが、終わるにはまだ早い。ぐりぐりと奥を捏ね、強弱をつけて突き上げる。歩はテーブルに突っ伏して、ガリガリと爪を立てた。
「あっ、あっ、もう、っ……」
「もう少しだから、気張れよ」
「あぁ、っ……!」
カチッ、カチッ、と時を刻む。秒針の音に鼓動が速まり、やがて時を追い越していく。
カチリ、と時計の針が重なった。「ハッピーニューイヤー」とどこからか声がした。盛大な花火の音が聞こえてくる。俺と歩は、共に煩悩の果てを見た。
歩は激しく胸を喘がせて、テーブルに身を伏せた。真冬にも関わらず、二人とも汗だくである。炬燵なんかとっとと切ってしまおう。
「あけましておめでとう」
「ん、……今年もよろしく……」
「んじゃ早速」
俺は歩の腰を掴み直し、再びバックで突き上げた。奥に放った白濁の液が押し出され、歩の内腿を濡らす。歩は目を白黒させて振り返った。
「っ、おい、なんでまたっ……!」
「一回で足りるわけねぇだろ。姫始めってやつだよ。一回やってみたかったんだ」
絶頂の余韻に浸り、いまだ敏感なままの体は快楽に従順だ。蕩けた襞が小刻みに収縮し、俺のモノにしゃぶり付く。
「やっ、ばかっ、そんなにしたら……っ」
「イッちゃいそう?」
歩は肩越しに俺を睨んだ。赤く潤んだ目元では迫力も何もない。
「なにその顔。かわいいの」
「っ、だまれ」
歩は怒っている風を装っているが、かわいいと言えば嬉しそうにナカが締まる。あまりオヤジ臭いことは言いたくないが、まさに体は正直というやつだ。
「ホント、かわいい」
「やめろ、ばか……っ」
抽送を再開すれば、憎まれ口を叩く余裕もなくなる。歩は、テーブルに身を伏せてどうにか姿勢を維持しながら、繰り返しぶつけられる快楽を健気に受け止めた。
煌々と明かりの灯る中で改めて見ると、歩の肌は本当に白い。雪のようだ。でも触れば温かく、汗のせいで湿ってもいる。陶器のような見た目をしているが、ちゃんとした生の人肌だ。
歩の丸く小ぶりな尻を、俺は両手でむんずと掴んだ。鞠のように弾力があって、手に馴染む。まるで俺のために誂えられたようだ。
尻を両手で掴み、親指で谷間を押し広げると、繋がった部分が丸見えになる。ほんの小さなはずの蕾が、俺のモノをぎっちり咥え込んでいる。腰を引くと唇が捲れ、赤く熟れた果肉が覗き、奥へ押し込むと嬉しそうに露を零す。
「っ、やめっ、みるな……っ」
「無理だろ。エロすぎる」
「やだっ、やっ、ひろげんなっ」
恥ずかしい場所を直視されていると思うと羞恥が煽られるのか、歩のナカは一層きつく締まった。俺はもう我慢している余裕もなく、本能に導かれるままに腰を振りたくった。何度も激しく奥を突き、歩を強く抱きしめる。
「歩……っ、かわいい、好きだ、たまんねぇ」
「准、じゅ……っ、おれもう、もうっ……!」
「イク? イクの? なぁ、好きって言ってよ。俺のこと、好きって言って。好きって言いながらイけよ。なぁ、歩」
「っあ、あぁ……!」
激しく揺さぶられながら、歩は振り返った。何か言いたげに唇を尖らせる。
「キス、してくれ」
「っ……!」
もちろん、俺は即座に応えた。歩の顎を掴み、力任せにキスをした。抱きしめた体が痙攣する。ガタガタッ、ガタンッ、とテーブルが大きく揺れた。
年明け早々、濃密な絶頂を得た。余韻に浸りながら、いつまでも唇を重ねていた。唾液の溢れるのも構わず、舌を擦り合わせていた。熱を孕んだ吐息が混ざり合い、室温までもが上昇した。
「は、ぁ……っ」
ようやく唇が離れれば、唾液がねっとりと糸を引く。光を浴びて雫が煌めき、やがてぷつりと途切れた。
「じゅん……」
歩はぐったりとテーブルの上に突っ伏して、しかし何か訴えるように俺を見た。期待と不安の入り混じった眼差しだった。
「……もう一回、いい?」
俺が尋ねると、歩は小さく頷いた。
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