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第四章 銭湯・炬燵・姫初め③ ♡

「だからって、なんで、こんな……」 「お前が暑い暑いうるせぇからだろ? 俺の思いやりだよ」 「こんなの、いやに決まって……っ」    外気に冷やされた窓ガラスは氷よりも冷たい。火照った体を冷ますため、俺達は窓際で交わっていた。歩は窓に手をついて、時には体を密着させて、涼んでいる。   「いやだっ、こんな……、外から見えちまう」 「こんな時間にこんなとこ、誰も通らねぇよ」    閑静な住宅街の外れにある、昼間でも人通りが疎らなエリアだ。俺が言うと、歩は恨めし気に顔を歪めた。窓ガラスが鏡の役割を担い、朧気ながらも反射して見える。   「電気だって消したし。万が一誰か通っても、どうせ見えねぇって」 「豆球はついてる……」 「真っ暗じゃ困るだろうが」    歩は窓ガラスに縋り付き、腰だけ突き出して俺を迎え入れる。暗がりの中に、なだらかな曲線を描く白い背中が、ぼんやりと浮かび上がる。後ろから突き上げられる度、その衝撃を受け止めて淫靡に波打つ。  俺は、歩の背中に舌を這わせた。滑らかな舌触りで、少ししょっぱかった。たぶん汗の味だ。しつこく舐めていると、アイスみたいに溶けていくように感じた。   「……あと、つけんなよ」    窓を曇らせて、歩が呟いた。   「また、見られたら……」 「ガキに見つかったら恥ずかしい?」 「ったりまえだろ……!」    学童クラブに通う子供達。歩と共に放課後を過ごし、おやつを食べ、宿題を見てもらい、サッカーやキックベースで遊んでいる子供達。俺の知らない歩の姿をたくさん知っているのだろう。でも俺だって、いや、きっと俺の方が、子供達の知らない歩の姿をたくさんたくさん知っている。   「あの歩先生が、まさか毎晩俺に抱かれてるなんて、あのガキンチョは夢にも思わねぇだろうな」    俺が意地悪く言うと、歩は窓越しにこちらを睨んだ。   「やらしいケツにチンポぶち込まれて、アンアン善がってるなんてな」 「そんな言い方……っ」 「毎晩毎晩、とろっとろのどっろどろになるまで、俺に愛されまくってるなんて。まさか、あの歩先生がねぇ」 「やめ、っ……」    歩の膝がガクガク震える。力が抜けてくずおれてしまわないように、俺は歩をしっかりと抱きかかえた。  歩の乱れた姿を知っているのは俺だけだ。俺だけが知っていればいい。他の誰も、知る必要はない。快感に震える背中も、いやらしく反り返った腰も、快感を訴える白い喉も、全て俺の目に焼き付けておきさえすればいい。  俺は歩の首筋に噛み付いた。柔い肌を突き破り、鋭い歯を突き立てる。「いくっ」と歩が叫んだ。ナカが渦を巻くように波打って、搾り取るように締め付けた。ビクッ、ビクン、と蕩けた果肉が痙攣しては、媚びるように絡み付く。  全てを吸い取るように腰が何度も突き出され、俺のモノをしゃぶった。俺もまた、種が確実に芽吹くよう、歩の奥に自身の先端を擦り付けた。  あまり激しくはない動きで、ぐりぐりと肚の奥を擦った。その刺激だけで、歩は何度も軽く達した。ついには立っていられなくなり、腰をガクガク震わせながら、窓ガラスにもたれ掛かるようにして座り込んだ。  歩の手の跡だけを残し、氷よりも冷たい窓ガラスが真っ白に曇っていた。今にも溶けてしまいそうだった。窓の向こうは雪がチラついていたが、迸る熱気のためにすぐに蒸発してしまった。   「じゅん……」    雪よりも白い肢体が、薄暗がりに浮かび上がる。白い靄が輪郭を霞ませた。火照り過ぎた体から湯気が上っているのだと、今になって気が付いた。  力なく座り込んだまま、歩は俺を見上げた。言葉はなくとも、心は繋がる。歩の恍惚とした眼差しが、全てを雄弁に物語っていた。   「歩……っ!」    俺は歩に抱きついた。脚を開かせると、三回分の精液がどろりと溢れた。それを塗り込むようにして、ゆっくりと自身を沈めていく。    *    その後はもうお察しの通りだ。熱を冷ます暇もないほど、俺達は何度も繰り返し愛し合った。体を重ね、唇を重ね、共に絶頂を味わい、最も深いところで互いの熱を確かめ合った。そのうち歩が意識を飛ばし、俺も疲れ果てて眠りに落ちた。当然、初日の出は見逃した。   「おい、いい加減起きろ」    ばこん、と力任せに頭を叩かれ目が覚めた。初夢は、残念ながら全く覚えていない。覚えていることといえば、昨晩の歩の痴態だけだ。   「お前って……なんであんなにエロいわけ……? エロエロの実でも食っ――」 「まだ寝惚けてるみてぇだな」    もう一度強めに頭を叩かれ、俺はようやく覚醒した。  卓袱台に、お雑煮とおせち料理が並ぶ。雑煮はもちろん、おせちも大半は歩が手作りしたものだ。数日前からせっせと下準備に取り組んでいたのを知っている。   「すごい正月感」 「正月だからな」 「こういう正月、マジでいつぶりだろうって感じなんだけど」 「おれもだ」    一人暮らしの時も餅くらいは食べていたが、言ってしまえばその程度だ。出汁から作った雑煮は優しい味で心に沁みるし、重箱に飾られた料理の数々は新年の始まりを祝っているように思えた。   「食ったら出かけるぞ」 「今からぁ? 寝正月でいいじゃねぇかよ」 「初詣行く約束だったろ。本当は午前中に行きたかったが」 「寝坊したから?」 「てめェのせいだ。新年早々盛りやがって」 「お前がねだるからだろ? もっともっと♡って散々甘えてきやがったくせに」 「……」 「ゴメン」 「とにかく、出かけるぞ」    美人が凄むと迫力がある。たとえ、餅を食いながらであろうとも。

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