2 / 33

プロローグ2

『時間が解決してくれるよ』……なんて、そんな事誰が言い出したんだろう。  リクがいない現実から、目を背け続ける日々。  どれだけ時間(とき)が過ぎても、軽くなるどころか、重くなるばかり。  そんな日々に、僕は希望を見出すことが出来なかった。  リクの両親に罵倒され、僕の両親にも責められた。  当然だよね。大切な息子をオメガなんかのせいで失った。大切なアルファの人生を、オメガなんかが奪ってしまった。  僕が、あの時ちゃんとリクの話を聞いていれば、リクの愛を信じることが出来ていたら。  リクは……命を落とすことなんて、なかったのに。  ここからなら、君の元へ行けるのかな……。  僕は、歩道橋の上から車の行き交う道路を見下ろした。  傘もささずに佇む僕を、ちらりと見ながら人々は通り過ぎていく。  鼻の奥がツンと痛くなる。  あれ……? 僕、泣いているの?  リクがいなくなってから、僕はずっと泣けなかった。  泣いてしまったら、リクがいない現実を認めてしまう気がしたから。  でも、自分が泣いていると気付いてしまった。  雨と涙が混ざりあってぐちゃぐちゃになる。  ごめんね、リク。約束、守れそうにないや。僕、疲れちゃったよ……。  僕は、橋の欄干に手足を掛けた。 『俺に何かあっても、絶対に自ら命を断つなよ』  突然、リクの顔が浮かんだ。  僕は、ハッとして、慌てて欄干から降りた。  幸せだった頃、生まれ変わりを信じるか? ……そんな話をしたんだ。  リクに会えなくなるのは嫌だなぁ……。  もしまたどこかでリクに会えたとしても、約束を破ったって怒られちゃうよね。  もう少しだけ、生きてみようかな……。  先ほどまで欄干を握っていた手の中に、ポケットから指輪を取り出し乗せた。  リクからもらった指輪をじっと見つめてから、決意をするようにぎゅっと握りしめた。  僕はまだ止まぬ雨の中、ゆっくりと、だけどしっかりと地面を踏みしめて、歩き出した。  ちょうど信号機のある交差点に差し掛かったころ、反対側の道路で、こちらに向かって手を振る親子連れがいた。  僕の隣に立つ男性は、きっと父親なんだろう。同じように手を振り返した。  幸せそうな家族、羨ましいな……。  そう思いながら隣の男性を見て、改めて前方に視線を向けると、スピードを落とさず走ってくるトラックが見えた。  えっ?  横断歩道が、青に変わる。トラック側の信号は赤だ。  なのに、トラックのスピードは落ちない。  横断歩道を渡り始める、親子連れ。  女の子が母親の手を離し、父親に向かって走り出した。 「危ない!!」  僕は考えるより先に駆け出し、女の子の身体を突き飛ばした。  時間にしてほんの数秒だったと思う。けれど、まるでスローモーションを見ているようだった。  ブレーキ音がすることもなく。  僕の身体は宙を舞った──。

ともだちにシェアしよう!