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1. 目覚め
『おにいちゃん、だいじょうぶ?』
『お医者様に見てもらったし大丈夫よ。ほら、部屋に戻って休みなさい』
『いやだ。ぼくは、おにいちゃんのそばにいる』
『お兄ちゃんがゆっくり休めないと困るでしょ?』
これは……。いつの頃の記憶だろうか。
たしか、僕が十歳で弟が五歳くらいだったように思う。
この頃の僕は、体調を崩しやすく、頻繁に熱を出していた。
「まだねつ、さがらない?」
そう。こんな感じで、弟は頻繁に僕の部屋に来ては、母に尋ねていた。
「そうね。まだ熱は少しあるけど、だいぶ下がったわよ」
安心させるような、優しい声がする。
その言葉を聞き、僕もホッとして胸をなでおろした。
あの日の弟も、母に止められるのも構わず、頻繁に僕の部屋へ様子を見に来ていた。
ほんと、弟には心配をかけてしまったなぁ……。
「ミッチ、ぼくのせいで……」
あの時の弟と、同じ年頃の男の子だろうか。今にも泣き出しそうな、震える声が聞こえてきた。
ミッチっていうのかな? 熱を出してしまったのは。心配をしているのは……誰だろう? 家族? 友達? でも、なんで自分のせいだと思っているんだろう……。
僕で良ければ、話を聞いてあげられるかな?
思い出の中の弟の声と、近くで聞こえる幼い子の声が、僕の頭の中で重なり合う。
少しでも元気づけてあげたいなと思って、体を動かして起き上がろうとした。
でも何故だろう。体がめちゃくちゃ重い。そして、だるくて頭も重くて、ふわふわする。
あれ? さっきまでそんなことはなかったのに。
とにかく目を開けなきゃ。そう思って、重いまぶたをゆっくりとひらいていった。
「あっ! おかあさま! ミッチおきたよ!」
僕の目の前に飛び込んできたのは、ストロベリーブロンドのふわりとした髪の少年だった。眉をへの字にし、髪色と同じくピンクの大きな瞳で僕のことを心配そうにじっと覗き込んでいる。
「ミッチ、へいき? もういたくない?」
目の前で僕を覗き込んでいる少年は、僕と目が合ったことが分かるや否や、立て続けに言葉をかけてきた。
これはきっと、心配してくれてるんだよね。……んーでも、この子が誰なのかわからないんだ。
「……あの、ごめんね。……キミは、誰?」
僕は申し訳ない気持ちを抱えながらも、今の正直な気持ちを言葉にしてみた。
心配してくれるのは嬉しいけど、知らない人に心配してもらうのも、なんだか気が引けてしまう。
「えっ!? ミッチ、ぼくのことわからないの?」
僕の言葉に、相当ショックを受けたらしい。驚きを隠せず、大きな目をさらに大きく見開いて言葉を失った。
「うん……。それに、ミッチって誰? 僕のことをミッチと呼ぶ知り合いはいないんだ。リクだけはミチって呼ぶけど、ミッチじゃないし。……人違いじゃないのかな?」
いたって真面目に答えたのに、目の前の少年はさらに驚愕した様子で、バタバタと大きな音を立てて慌てて部屋を出ていった。
バタバタと出ていった少年を理由もわからないまま呆然と見送ると、改めて部屋の中を見回してみた。
まるでどこかの貴族が住むような装飾の施された部屋。明らかに自分の部屋ではないし、リクの部屋でもない。
出かけた先で具合が悪くなって、近くのホテルで休ませてくれたのかな?
この部屋がホテルの一室だと考えると納得も出来た。非日常的、言うならばファンタジー世界に飛び込んだような部屋だった。
「ここがホテルだったとして……。僕はどうしちゃったんだろう?」
誰もいないのを確認し、独り言を口に出して言ってみた。そうすることで、現状の整理が出来るような気がしたから。
でも、自分の口から発し耳に届いた音は、全く聞き馴染みのないものだった。
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