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15. 第二の性

「はぁ……」  僕は誰もいない部屋のベッドの上で、大きなため息をついた。  朝は少し熱が落ち着いたかなと思ったけれど、またぶり返してしまったようだ。さっきから頭が重くボーっとするし、座っているのに体もふらふらする。  最近は前にも増して体調を崩すことが増えてしまった。僕たちのどちらかが家を継がなければならないのに、僕がこんな状態では、お父様もお母様も期待などしなくなるだろうし、そろそろ見切りをつける頃かもしれない。  でも、僕は転生者。本当のミッチェルの中に、無理やり入り込んでしまったんだ。  お父様もお母様も、フィルも。……僕が本物のミッチェルじゃないと知ったら、どう思うだろうか。返してくれと罵倒するのだろうか。  ……あの時の、リクの家族のように。 ◇ 「だからオメガなんかと付き合うことには反対だったのよ! 疫病神! 返してよ! あんたが代わりに……!」  僕の前で、目を真っ赤にして強烈な言葉を投げかけてくるのは、前世の恋人リクの母だった。彼女がさらに言葉を続けようとしたその時、隣から差し出された手が彼女の口元を覆い、言葉を遮った。 「もういい。これ以上顔を見ていたくない。どれだけ罵声を浴びせたって、リクはもう戻ってこないんだ。ここにいるだけで気分が悪くなる。一秒だって顔を見ていたくない」  リクの母の言葉を遮り、辛そうに顔を背けながらそう言ったのは、リクの父だった。その言葉を聞くと、リクの母は大きな泣き声を上げ、リクの父の胸に顔を埋めた。  僕は「申し訳ありませんでした……」そう言いながら、深く頭を下げることしか出来なかった。 「本当にもう、なんてことをしてくれたのよ。オメガとわかってから、人様に迷惑だけはかけないようにって育ててきたのに、なんでこんなことに……」  リクの両親が去ったあと、次に待っていたのは、僕の両親からの絶望に満ちた言葉だった。  将来有望なアルファを奪ったオメガとして、そのオメガを育てた最悪な家族として、これからはずっと肩身の狭い思いをして生きていかなければならない。  父さんも母さんも、散々僕を責め立てたあと、何度目かの大きなため息をつき項垂れた。 ◇  一般的とされている男女の性別の他に、「アルファ、ベータ、オメガ」という第二の性がある。鎌倉時代にはすでに存在していたとされるが、当時の医学では解明されず、と見なされていたという記録がある。  アルファは社会の頂点に立つエリートで、知能や身体能力が高く、リーダーシップに優れている。彼らはしばしば重要な役職に就き、いわゆる人生の勝ち組とされる。  ベータは一般的な人々。特殊な身体的特徴もないため、アルファのようにはなれなくともそれなりの地位を築いたり、オメガのように不自由したりすることなく、安定した生活を送っている者が多い。  オメガは生殖に特化した性であり、男性でも妊娠が可能とされる。おおよそ三ヶ月に一度、一週間程度ヒートと呼ばれる発情期があり、アルファ、時にはベータでさえ、引き寄せるフェロモンを出す。ヒート中は自我を失うこともあり、その体質から定職にはつけず、社会の下位層に位置する存在と言われる。  そして僕は……社会の下位層に位置付けられるオメガだ。  ちゃんとした知識もないのに「匂いで誘惑し、男でも妊娠できるなんて気持ち悪い。病気なんじゃないの?」そう言われたこともあった。第二の性が十分解明されていない頃に、とされ、疎ましく思われていた時代と大して変わらない。  こんな世の中なので、オメガには人権など無いに等しかった。自由に生きることも許されず、肩身の狭い思いをして生きていく。  だから僕は、オメガと判明した日から、何の希望も(いだ)かず、ただただ生きているだけの存在だった。

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