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16. 新たな道
そんな僕の真っ暗で何も見えない人生に、光を灯してくれたのが『リク』だった。
リクとの出会いは、高校生の時だった。
中学校入学前検査でオメガと判明した僕は、本来ならばバース対応の学校に通うべきなのに、普通の公立中学校に進学した。バース対応の学校は家から遠く、通うのにお金がかかるためだ。
学校には配慮をお願いしたけれど、クラスにオメガはたった一人だったから、みんなから物珍しい目で見られた。決して近付こうとはせず、皆僕を避けるように過ごしていた。
なので、ひとりぼっちでいることがほとんどだった。とはいえ、いじめられたわけでもないし、急なヒートに襲われることもなかったおかげで、大きなトラブルもなく、比較的穏やかに過ごせたと思う。
そして、無事中学校を卒業した。
保護者は子どもに教育を受けさせる義務があるため、中学校までは通わせてもらえた。
でもその先の進学は、簡単ではなかった。
両親には『オメガは相手を早く見つけて嫁ぐのが幸せ。それまでは、家で花嫁修業をするといい』と言われた。暗に、オメガが知識をつける必要はない。家で迷惑をかけないようにおとなしくしていなさい。そう言われているのと同じだった。
僕はもともと、中学校を卒業したら家を出るつもりでいた。前から色々と調べていて、オメガの保護や支援を目的とした施設がいくつかあることが分かった。
普通の高校に進学するのは難しかったけど、オメガを受け入れてくれる学校もあった。寮も完備されているし、奨学金制度も充実している。
幸いなことに、ぼっちで勉強をコツコツ頑張ったおかげか、それなりの成績を残していた僕は、返済不要の給付型奨学金にかけてみることにした。
◇
「なんでお兄ちゃんが家を出るの?! うちから通えばいいじゃないか!」
オメガ支援施設を度々訪ねて、僕にとってのベストな方法を探し、着々と準備を重ねてきた。
そして、給付型奨学金試験にも合格し、進学の目処がたったため、家族に家を出ることを告げた。
「美智留 が決めたことなんだから、いいじゃないか」
「そうよ。自分で調べて行動して偉いじゃない」
口では偉いなんて言ってるけど、両親は厄介者がいなくなると清々した様子だった。
そんな両親に対して唯一怒りをあらわにしたのは、五歳年下の弟『ソラ』だった。彼は拳を握りしめ、涙を浮かべながら僕を見つめていた。
僕たちには兄も姉もいるけど、二人ともアルファだ。仕事で海外を飛び回っている。たまに帰ってきても、オメガの僕には目もくれず、弟のソラだけに声をかけて、またいなくなる。
僕はそんな待遇にも慣れっこだったけど、ソラは違った。兄と姉が僕を無視する理由がわからなくて、「どうして無視するの?」と、憤慨して兄たちに言い寄っていた。
もちろん兄たちは、ソラから問い詰められても、何事もなかったように話題をすり替えていた。
「ねぇ、お兄ちゃん、うちから通えばいいよ。お願いすれば、お父さんもお母さんも良いって言ってくれるよ」
両親に伝えるだけ伝え、僕は自分の部屋に戻り、荷造りを再開した。お気に入りの本や日記、数枚の服をスーツケースに詰め込む。事前に見学した寮の部屋は、広々としていて思ったより物が置けそうだった。
「もう、決めたことだから。ソラ、家のこと頼むな。兄さんたちは忙しくてなかなか家に帰れないから、お前が頼りなんだよ。オメガの僕には、父さんと母さんを守ることは出来ないから……」
僕は荷造りする手を止めて、ソラと向き合った。唯一僕を好きでいてくれる弟。甘えてくれる可愛い弟。一緒にいられなくなっても、ソラの幸せを願っているから……。
家族からの僕への態度を、嫌と言うほど見てきたソラは、僕の言葉の意味を感じ取ったのか、それ以上何も言わずに静かにうつむいた。
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