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38. 隠し通路の声

 フィルの婚約者とご両親の食事と同じタイミングで、僕のところにも食事が運ばれてきた。早朝や夜遅くに食事を運ばせるという案もあったけど、同じ時間に合わせることで、逆に僕の存在が見つかりづらいだろうということになった。  一日の食事の中で、お昼が一番豪華であり、しっかり摂るのが一般的だ。フィルの婚約者とご両親をお招きしての食事会ということもあって、使用人たちも力を入れて作っているようだった。  僕のところに運ばれてきた食事も、いつもより贅沢なもののように感じた。僕が少食というのはわかってくれているから量は控えめだったけど、今日はいつ見つかるかもしれないという緊張感の中では、食事が喉を通りそうになかった。  ゆっくり時間をかけてでも残さず食べたかったのに、やはり残してしまった。申し訳ないと思いつつ、ドアの外に出しておくと、タイミング良く使用人がトレイの回収に来た。 「ごめんね、残してしまって……」  周りに聞こえないように極力小さな声で伝えた。 「大丈夫ですよ。夜のお食事はどうなさいますか?」 「うーん……。ごめんね、今日は遠慮するよ」 「わかりました。明日の朝のお食事はお運びしますね。それと、体を拭くように温めた布を夜にお持ちします」  そう言って軽く会釈をすると、トレイを持って部屋を出ていった。  ここは周りから隠されるように建てられた離れだ。それに加え、僕がここで寝泊まりすることになった時に、なるべく光が漏れないようにと、周囲と同化するようなデザインの木製シャッターを設置してくれた。  だから見つかる可能性はかなり低いのだけど、そうは思っても緊張して夜も眠れなさそうだな……そう考えていると、隠し通路の方からかすかな物音が聞こえた。 「……?」  隠し通路からやってくるのは、フィルの婚約者が滞在している今は、決められた一人の使用人だけだ。それに、今日の夜の食事は断ったし、体を拭く布は先程受け取ったばかりだ。  だからもう今日は来ないはずなのに……。もしかして、すぐ回収に来たのかな? と思いながら、様子をうかがうために、静かに扉に近づいた。うっかり開けてしまって、使用人じゃなかったら大変なことになる。  こちらからは音も立てず、声も出さずにじっと耳を澄ませていると、聞き馴染みのある声が聞こえた。 「ミッチ?」  え……っ?  確認もせずにここを開けたらダメだとわかっているのに、向こうから聞こえるのはたしかにフィルの声だ。僕と全く同じ声だから、久しぶりなのに久しぶりじゃない馴みのある声だ。  勢いよく開け放ちたいのを我慢して、そーっと扉を開ける。 「ミッチ!」 「フィル!」  ほぼ同時にお互いの名を口にしたけど、少しばかり声の音量が上がってしまい、二人で慌てて口をふさいだ。 「これ、読んで。僕、すぐ行かなきゃ」  フィルはそう言うと、僕の手に手紙を握らせ、かがんだ姿勢のまま通路の向こうに戻っていってしまった。  何がどうなってるのか良くわからなかったけど、僕もいつまでもここを開けておくわけにはいかないと、すぐに扉を閉めた。  ベッドの上に腰掛け、手の中でくしゃりと握りしめられた、軽くて薄い紙に書かれた手紙をそっと広げた。  この紙は、僕が塔の上の部屋に閉じ込められている時、手紙の交換で使ったものと同じだ。そう考えると、感慨深いものがある。 「フィル、見つからずに戻れたのかな……」  夜遅い時間とは言え、まだみんな起きていてもおかしくない時間だ。  僕は心配しながらも、気になっていた手紙の内容を目で追い始めた。

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