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46. 未来への誓い

 僕とフィルはその日の夜、子供の頃に戻ったような時間を過ごした。  いつも僕たちは一緒で、二人分のベッドがあるのにもかかわらず、寝る前はどちらかのベッドの上で一日の出来事を話す。それが当たり前だったし、ずっと続くものだと思っていた。  けれど、大人になればそれぞれの道に進むし、別々の人生がある。子供の頃はそんなことを考えもしなかったけど、今なら分かる。ずっと一緒になんていられないということを。 「今よりもっと勉強を頑張って、仕事を頑張って、この家を前みたいに賑やかになるように頑張るよ」 「……うん、大変だけど頑張って。フィルならできるよ」 「僕がこの家を継いだら、ミッチにいろいろと手伝ってもらうんだ」 「そう……だね」 「ミッチと一緒なら、心強いな。楽しみだなぁ!」 「たのしみ……だね」  フィルのことをそばで支えてあげられるなら、どんなに幸せだろうか。  二人でハイネル家を立て直せるのなら、どんなに喜ばしいことだろうか。  でもきっと、僕はこのままこの家にはいられない。  お父様が、このまま黙っているとは思えない。きっとなにか動きがあるはずだ。  それでも僕はもう一人じゃない。フィルも、お母様も、久しぶりに会った使用人のペーターもいる。  それに、今はどこにいるかわからないけど、フレッドも僕の支えになってくれるはずだ。……ううん、違う。会えなくても、ずっとフレッドは僕の心の支えになっている。  少し不安になっていた心に、フレッドのはにかんだような笑顔が浮かんできた。 「きっと、大丈夫……だね」  思わず口に出た言葉に、フィルがニッコリと笑った。 「僕たちがいるから、ハイネル家は大丈夫だね!」  脳裏に浮かんだフレッドのはにかんだような笑顔と、目の前で太陽のように笑うフィルに元気をもらい、僕も精一杯の笑顔を見せた。  久しぶりの二人きりの夜を過ごした次の日、フィルは『またすぐ帰ってくるからね!』と、元気良く寮に帰っていった。  傷が完全に癒えるのにはもう少し時間がかかるかもしれないけど、フィルなら乗り越えられる。頑張れ! と、心の中でエールを送った。 ◇  フィルが寮に戻り、しばらくは穏やかな日々が続いていた。  あまりにも静かすぎて、まるで嵐の前の静けさのようだった。  フィルの婚約が白紙になってから、半年ほど過ぎた頃だった。  いつもと同じように使用人としての仕事をこなしていると、他の使用人が困ったような顔をして近付いてきた。  そして僕に「旦那様がお呼びです。塔の部屋に来るようにとのことです」と耳打ちした。  オメガと判明してから、僕はもうそこにいないものとして扱われていた。  一度だけ向けられた視線は、実の息子に向けるような優しい眼差しではなかった。  だから、もう二度とお父様直々に呼び出されることなんて無いと思っていた。  それなのに呼び出されたということは、あまり良い知らせではないことは、容易に想像できる。  僕は不安で締め付けられる胸を抑えながら塔へ向かうと、カツンカツンと靴音をたて、一歩一歩ゆっくりと階段を登った。  階段を登りきり、改めて周りを見渡すと、孤独で気が狂いそうだった日々を思い出す。  僕をかばって、フレッドが怪我をしたあの瞬間を思い出す。  心臓の音がバクバクと大きな音をたて、破裂してしまうのではないかという恐怖に襲われ、思わずぎゅっと目を瞑った。  扉を前にして、なかなか進めない僕の耳に、遠くからもうひとつの足音が近づいてくるのに気付いた。  その足音はあっという間に、僕を視界に捉えたようだった。 「まだそこにいたのか。話がある、早く中へ入れ」  追いついたその足音は、僕を呼び出したお父様のものだった。  僕と視線をかわさないまま、お父様は、地の底から響くような低い声で言った。

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