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第2話
街路樹の木々がさわさわする心地いい風といい季節。そして今日はいい天気。
ほんのり肌寒くなってきて上着を着こなす行き交う人々。
もう秋か。夏は長かったなぁなんて思いながら二人で歩いている。
そう、二人。一人じゃなくて二人。これ重要。
そうなのだ。
俺は、大学生にしてやっと彼女といふものを手に入れたのだ!!
しかもスタイルが良くて胸がデカい!
そして顔が可愛い!
さらに向こうから告白してきたのだ。
『あのね、千明(ちあき)くん。お願いがあるんだけど……付き合ってほしいことがあるんだけど……だめかな?』
『へ?おおお俺??』
『うん、君じゃないとダメかなって……私に付き合ってほしいの』
『い……いぃぃイイ、けど…』
『よかったぁ!じゃぁここだと話しにくいから、あっちの街路樹のトコ話そっか』
──俺の人生のモテ期キタコレ!!
そう俺は、舞い上がっている。だって人生の勝ち組だもん。そうだろ?
「ねえ千明くん」
千明。幸村千明(ゆきむらちあき)。俺の名前。
俺の彼女は俺のことを下の名前で呼んでくれる。それがまた……うん、可愛い。
「ん、何?」
「千明くんのね。んとね」
うんうん、上目遣いも可愛いなぁ。
「……アナル調教、してみたいなってずっと思っててぇ」
「うん…………────は?」
付き合って間もない彼女からの突然の打診に一瞬固まりかけた俺。
「千明くん可愛いしお尻の形綺麗だからアナル調教向いてるだろうなってずっと思ってたの」
なにを言ってるのか全然わからない。
「ね。お願ぁい……」
やっと出来た彼女の上目遣いのお願い。可愛い……。
「ぅん……。い、ぃい、けどぉぉ〜〜……」
「よかったぁ〜〜!!千明くんなら断らなさそうって思ってたの!ホントよかったぁ!」
手を合わせて喜ぶ姿も可愛くて。
ああぁぁぁ〜〜……ホントに良かったのか??
……チラ。
上目遣いの彼女と目が合う。
ニッコリされて。
ドギマギしてしまう俺。
────あああああ!!……俺の彼女可愛いなあァァ!!!!
「んふふ、よろしくねっ」
可愛い彼女からのお願い。
ぐうう、かわいいなぁ。
人生勝ち組ってこう言うことを言うんだろうなぁ。
まあ俺が我慢?すれば済むことだし。彼女の喜ぶ姿はやっぱり良いもんだし。
彼女のためにしてやってる感ってなんかデキる彼氏っぽくね?
俺超かっけえじゃん!!
「じゃあまたね〜〜後で連絡するねっ」
「ぉ、おう。またね〜〜」
手を振る彼女を見送る俺。やっべ、俺今彼氏してるわぁ。
そんなこんなで。
日にちは何事もなく経過する。
あれから三日後の日曜日の午後のこと。
なんとなくリビングソファに横になりつつ。まだ読んでなかったマンガをなんとなく読み進めていて。
それもなんだかなんとなくモヤっとしてて。
「部屋でも掃除すっかぁ……」
せっかくの休日なんだからと、その日の予定をなんとなく脳内決定して大きく伸びをしながらヨイショと椅子から立ち上がる。
立ち上がったと同時にスマホの通知音が鳴って。……お、彼女からだ。
俺に会いたくなったのかな?可愛いやつめ。
『ごめん通販で頼んだ調教グッズ間違えたとこに送っちゃったわ。住所教えるから取りに行ってくれる?あ、玄関前に置き配にしたからさっさと引き取ればいいだけだからお願いね』
……は?
なんの話?
一瞬頭が宇宙猫になる。
なるが……。
『──ねえ千明くん。アナル調教、してみたいなっ』
「アレかッッ!?」
ウッソだろ。あれマジだったのかよ。
一種の気の迷いだと思ってたのに。
そして俺。──確か断れなくて。……というか上目遣いの彼女が可愛すぎて承諾しちゃったような気がする……んだよな。
もう一度あの時のスマホのメッセージを確認してみる。
なんかもうやること前提で話進んでるし。
え、グッズ購入とか。
行動はやくない?
え、何されんの俺??
しかも俺が取りに行くの?
『じゃあよろしくね〜〜。楽しみにしてるねっ』
うわ、もう確定してるし。
行くしかないのかよ。
住所どこだよ……──って。
チラ見した住所を知って。
──嗚呼。そんなに遠くないのがこれまた別の意味でやだな。
歩いて行ける距離じゃん……マジかよ。
行くしかない……のかぁ。うわぁ足取りオモ。
ため息をつきながら、わりと重たい腰をあげて外出の準備をする。
……。
……。
……ぅぅ。
あああもう!!
──しゃあない。暗くなる前にささっと向かうか。
サッと行ってサッと帰りゃいいだけじゃん!
──穏便に済めばの話だけど……。
少しずつ状況を自分の中で飲み込みつつもため息が止まらない。
頭の中は全然状況が処理出来てなくてずっとグルグルしたまんまで。
それでも行かなきゃどうしようもないから。
ちくしょう、嫌だけど。
外の気温を想像して上着をきて靴を履いて、自室のドアを開けて外に出る。
ああああァァァァやだなぁ行くの。
外気温に触れて、案の定寒くなったなぁと思いながら扉の鍵を閉めてスマホで住所を再度確認する。
届けられた先は歩いてだいたい二十分くらいのところ。マジで近い。
しゃあねぇ、行くかぁ。
ちょっと肌寒くなってきたなと両手をすり合わせて歩き続ける。
重い足取りになけなしの勇気を振り絞ってちょっとずつ歩いていく。
……穏便に済むといいなぁ。
……荷物受け取り拒否されたらどうしよう。
いや。
そういや置き配指定って言ってたから、玄関先にある荷物を持ってきちゃえばいいだけなのでは?
それなら話は楽だけど……。
──もし、もしもよ?
……玄関先に荷物がなかったら……??
考えれば考えるほどサアァと血の気が引く。
はやく行かなきゃ!
早く取り返さなきゃだ!!
歩く速度が嫌が応にも早くなる。
急げ俺!!
歩き続けて。
歩き続けて。
スマホでときおり位置を確認しつつ。
歩き続けて。
歩き続けて。
歩き続けたら。
青い屋根の建物が目の前に現れた。
住所はここであってる。はず。
「着いた。けど、ここで合ってる……よな?」
住所に書かれているアパート名が合致している。
着いた先は俺の家と同じような二階建てのアパートだった。
ここの二〇六号室────お。二階の端の部屋だ。
おそるおそるゆっくりと、鉄の階段を上がっていくと二階の通路が見え始める。
……のだが。
あれ?
目をしぱしぱさせて。
思いたくはない現実を受け入れたくなくて。
念のためと、確認がてら通路をさらに進んで。ついには二〇六号室の前に着く。
が。やっぱりそれらしき荷物はなくて。
どこ見てもない……よなぁ??
「嘘だろ……?」
嫌な予感は的中したらしい。
玄関先の荷物を取りに行けばいっかって思ってたのに。
まさかと思うけど。
いや、それしかないよな。
う〜んう〜んと二〇六号室前で悩んでいたら。
ガチャ、と中から扉が開いて。
「「……ぁ」」
家主。──出て、きちゃった……。
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