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第1話 ボーイ・ミーツ・ボーイ
月の光に輝く白い髪の毛。たっぷりと腰のあたりまである。
息を飲むくらいの美しさに見惚れて、足から手から力が抜けた。
陸橋の手すりの向こうに乗り出していた身体が重力に引かれ落ちていく。気付いた時には十数メートル先の線路に身体が落ちていく感覚があった。
「……っ!」
手すりから滑っていく掌を掴まれる。
眼鏡が吸い込まれるように地面に落っこちていき、ぶらぶらと揺れる足元に風を感じた。
「何やってる、はやく登ってこいっ」
強い語気でまくしたてられるが、その声の透き通った響きに威圧感はかき消され、なんとも言えない感覚に陥った。
言われるままに手すりに手を伸ばし身体を持ち上げた。
その美しい青年に助けられ橋の上に引き上げられ、地面に足をつけたところで、今更だが、膝が笑っているのに気付いた。どうやら、恐怖を覚えていたようだ。
「はぁ、死ぬつもりだったんだろうが残念だったな」
そうだ、彼の言う通り、俺は死ぬつもりだった。
「いくらどうでもいい相手とは言え、目の前で死なれるのは気分が悪い」
震える膝を抑え込むように腕で抱えながら、しゃがみ込んで、一方的に話される言葉をぼんやりと聞いていた。
「おい、聞いてるのかよ」
ぺちぺちと頬を叩かれる。
「おい、無視して」
視線を合わせるように屈む彼の真っ白な髪の毛が視界に映る。肌も同様に真っ白で新雪のようだ。眼鏡が無くぼやける視界の中でその白だけが異質なくらいはっきりとしていた。
「はぁ……もういい、めんどくさい。邪魔して悪かったな」
ため息。立ち上がり、彼が背を向ける。
その背中に手を伸ばして彼の足に抱きついた。
「わっ、なにすんだよ……」
困ったような声を上げる彼を見上げる。
そう、俺は死ねなかったんだ。
「せきに……よ」
俺は死ぬつもりだったのに。
「あぁ? なに? はっきり言えよ」
今日死ななくちゃだったのに。
「責任とれよ……」
自分の声が酷く掠れてる。
「はぁ? なんの?」
「俺を生かした責任」
自分でもめちゃくちゃなことを言ってる自覚はあった。
「……一人じゃもう、耐えられないんだ」
こんなこと通りすがりの他人に言ったって意味のないことくらいわかっている。それでも、そんなのにさえすがりたくなるくらいいっぱいいっぱいだった。
「頼んでないのに助けたんだから、責任、とって……」
再度そう言って見上げると、彼の手が伸びてきて腕を掴んだ。
「はぁ、わかったから立てよ」
自分で言っといてこんなふうに受け入れられるとは思わずに、しばし呆けてしまう。
ぐいと引かれるままに立ち上がり、長い白髪をなびかせて歩く彼の後ろをとぼとぼとついて行った。
風が冷たくなり始めた、とある初秋の夜のことだった。
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