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新月
あの日から、俺はNeko-Moonlightの二人とは別の部屋に住むようになった。
距離を置きたいと素直に言ったのもあって、事務所で少しだけ騒がれた。
しばらくは気まずくて、上手く話せなかった。
それでも仕事では嫌でも顔を合わせる。
央華は、一定の距離を保って、いつもより気を使うようになった。
慧菜は、泣きそうな顔で俺を見ていたが、数日たつとまたいつもの彼に戻った。以前よりボディタッチや甘えたりといったことは、無くなっていた。
「それじゃあそれぞれの印象を教えて下さい。まずは照月くんお願いできますか?」
雑誌の取材ではよく聞かれる質問だった。
「央華は、誰よりも努力家で実力もあって……彼を見ていると、負けられないなって思うんです。央華がいるからもっと上を目指そうって、思えるっていうか」
記者の質問に答えながら、確かにそうだと自分の気持ちを確かめていた。
「慧菜のことは尊敬しています。自分と同い年だっておもえないくらいしっかりしていて、いつもチームを支えてくれていて。慧菜を見ていると見習わなきゃなって部分がたくさんあるんです」
こじれてしまった関係を取り除くことは、すぐには難しいとしても、距離を置こうとしたことで勘違いされているかも知れないけれど、俺は二人が好きだった。
Neko-Moonlightはこの3人だから輝けるんだって信じていた。
できることなら、わがままだとしても、もっと上に行きたい。この3人で。
「素敵な関係ですね。央華くんの2人への印象は?」
記者の視線が央華に向かう。
ちらりと見ると目が合った。
「楓季は……俺以上に完璧主義でストイックなんで、俺も刺激を貰ってます。それに加えて近くにいるとこっちまで気分が上がってくるくらい明るくて、優しくて。背中を預けられる大事な……仲間だと思って、ます」
仲間と強調されて、少しは俺の気持ちも伝わってるのかなって、嬉しくて、微笑みかけた。
央華は少しさみしそうに微笑んだ。
「それから慧菜は、周りによく気が回って、楓季が言うようにいつも助けられてます。泣き言
も言わずに、努力して努力して……プライドを持ってて。自分にはない芯の強さがかっこいい」
慧菜は少し驚いたように央華を見ていた。
「最後に慧菜くん、お願いします」
ミルクティー色の髪の毛を耳に掛けて、微笑む慧菜と目があった。
あの日から久々に見るかも知れない。
慧菜の優しい微笑み。
「ふうくん、大好きです」
そこでわざと区切って、くしゃっと笑う慧菜。
「ぼくのことぼくとして見てくれるところが好きです。同い年だけど、お兄ちゃんって感じ。あとは、もう少し自分に自信もったらって思います。歌もダンスもお芝居も、なんでもこなしちゃってかっこよくて優しくて、メンバーですけどほんとファンなんです」
楽しそうに話す慧菜に記者も顔を緩めた。
俺は少し泣きそうだった。
「央華のことも大好きです。ぼくのまだまだなところをはっきりと言ってくれるので、ダンスとか歌とか。できないから仕方ないじゃなく、一緒のとこまで行けるように助けてくれていつも、感謝してます。でもちょーっとだけガキっぽいっていうか」
「あぁ?」
「ほら、こうしてすーぐ挑発乗るし」
「お前なぁ」
調子の良い慧菜の頭をぺちっと央華が叩いて、それでじゃれ合う二人。
慧菜が央華の手から逃れて俺の後ろに身を隠す。
「おい、逃げんなよこら!」
「やだー! ふうくん助けて」
「あはは!」
俺を盾にして追いかけ合う二人につい笑みが漏れた。
なんだ、思ってたよりずっとはやく前に進めそうだ。
過去は変えられないから、こっからまた始めよう。
俺達Neko-Moonlightはもっと輝けるはずだから。
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