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【慧菜×楓季】暁に咲くレディ・ブルー 7
あっという間に時間は過ぎていく。厳しい寒さの冬が、いつしか春らしい日差しの暖かな日も増えてきた。
相変わらず俺達は忙しい日々を過ごしていた。
昨年の春にデビューしたNeko-Moonlightは、その熱量そのままに一周年を迎えようとしている。ライブに新曲に雑誌、テレビに動画配信と盛りだくさんの企画を目の前に、俺達もスタッフも皆気合いを入れて準備に取り掛かっていた。それに加えてありがたいことにドラマなど個人の仕事ももらい多忙を極めている。
以前のままの俺ならきっと、わくわくよりも重圧に押しつぶされそうになっていただろう。
抱えきれないくらいの悩みを一人で抱えていたのだから当然だけど。
「あ、やっぱりふうくん。連絡したけど、返事なかったからここだと思った」
夜のレッスン室で一人ダンスを練習していると慧菜が扉を開けて入ってきた。
「慧菜、撮影はもう終わったの?」
「うん、ばっちり」
自信ありげに微笑む慧菜。今日は彼が昔モデルをしていた雑誌での撮影だったはずだ。昔からの縁といえばそうなのかもしれないが、特集を組んで貰えるくらいに実力があるのだとこちらが誇らしくなる。
曲を止めてタオルで汗を拭くと慧菜が横にやってきた。
「久々に編集長にも会ってさ、バカ息子が迷惑かけてごめんなさいねって。それと……いつでも戻ってきていいのよって」
「ほんと? すごいね」
「ね、社交辞令だとしても嬉しかった」
慧菜と目が合うと彼はにっこりと微笑んで見せる。
「けど今は央華とふうくんと3人でネコムンやるのが、やっぱやりがいあるっていうか」
彼の言葉に俺も頬が緩む。
「俺も、そうだな」
歌もダンスも負けたくないって思える央華も、誰よりもきれいで努力家で尊敬出来る慧菜も、一緒にいて張り合えて息もあって……ここが俺の居場所だって思える。
「ねぇ、ふうくんの頑張り屋なところ好きだよ」
慧菜に何気なく言われて、少し照れくさくて視線を彷徨わせた。
「もっと努力しないと……俺なんてまだまだ」
「ね、こっちきて」
慧菜に言われるままに、彼の近くに寄る。すると慧菜は背伸びして俺の頭を撫でた。
「いつも頑張ってるね」
不意打ちに優しくされて思わず頬が熱くなる。
「けーど、もう遅いから帰ろ? 頑張り過ぎは身体に障るんだから」
優しい優しい声に心が解れる。慧菜はいつも、俺が自分では気付けない無理し過ぎな所のバランスを取ってくれて、足りない自信もくれる。
何気ない優しさに大げさだけど救われるような感覚がある。
彼がいるから壊れずにいられるのかもって、そんな風に思うときだってある。
「慧菜」
頭を撫でる彼の手を掴んで引き寄せて、唇を奪った。
「ありがと」
触れるだけのキスをしてそう言うと、慧菜の頬が真っ赤に染まっていく。余裕あり気に見えて、ふいうちには弱いんだって最近気づいた。
「さ、帰ろ」
まだまだ日の入りの早い初春の道を二人で歩いて帰路につく。
明日も仕事だから早く帰らなくちゃいけないけれど、微かに温もりの残る夜の道をゆっくりとゆっくりと歩いた。
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