20 / 20
第20話※上書きセッ。なんでも許せる人向け
⑳
次の日、ダイキが仕事終わりに病室を訪れた時、スーツを着た刑事があれこれと愛崎から事情を聞いているところだった。ダイキは病室の外で聞き耳を立てながら、終わるのを待つことにする。
「では、事件当時の状況を、聞かせてください」
(……酷なこと、聞くよな……)
同じ刑事として、仕事だということも、裁判を有利に進めるために必要なことだともわかっている、わかっているが、やるせない気持ちで、胸が圧し潰されそうになってしまう。
(でも、薫さんが、闘うって決めたから……)
救急車で運ばれたとき、愛崎は被害者として出廷することを望んだ。身体に残っている証拠を採取してほしいと──それはつまり、事情聴取や裁判の度に、当時の状況を何度も説明しなければならない苦痛が伴うのだ──。
『絶対に、死刑台に送ってやる……』
そう言って気を失ったのだ。
それをダイキはもう〝強い〟とは思わない。また一人で抱え込んでしまわないか、それだけが心配なのだ。
「気づいた時には手足を縛られ、あの男が運転する車に乗せられていました──小屋に放り込まれ、逃げようとしたんですが──」
(……ッ)
これ以上聞いていいものかと、ダイキはためらう。だが、身体がその場を離れようとしない。
「……注射を打たれて、動けなくなって、柱に手首を括りつけられました。それから──」
愛崎の言葉が途切れる。しばらく沈黙し、覚悟を決めたようにまた、話し出す。
「……っ、シャツのボタンを外され、胸、を……舐められ、ました……それから、下半身に、……びを、指を入れられて、そのあとすぐ──」
犯されましたという言葉を聞いて、ダイキはその場にゆっくりと崩れ落ちてしまう。
(きっと俺なら耐えられない──!)
ダイキは口元をおさえ、嗚咽を必死に殺す。それと同時に、自分の中の劣情が暴走してしまうのを抑え込む。
だが、愛崎の告白は続く。
「……首を絞められたんですが、足で砂をつかんで男の顔を蹴りました──そのあと、すぐに男がガラス片を持ってむかってきましたが、間一髪のところで、仲間が助けに来てくれました」
そう言った時、愛崎の声が少し明るくて、ダイキはほっとする。
(俺に見られたくなかったかな、とか、紅先輩のほうがよかったかな、とか思ったけど……たぶん、俺で、良かったってことかな──)
「わかりました。ありがとうございます。また、お聞きすることがあるかもしれません。その時は──」
「わかっています」
愛崎の声に、担当刑事はうなずき、失礼しますといって、病室を出て行く。その時、ダイキの存在に気づくが、涙で目を腫らしているダイキを見て何かを察したのか、ぺこりと頭を下げて、何も言わずに去っていった。
(やば……聞き耳立ててたこと、薫さんにバレたらまずいな)
ダイキは赤い目が戻るまでしばらくトイレや売店で時間を潰し、落ち着いたところで、病室に顔を出した。
「薫さん」
「ダイキ、来てくれたのか」
愛崎は上体を起こしたまま、窓の外を眺めていたが、こちらに気づき、表情を和らげる。検査着のままのところを見ると、着替える暇もなかったのだろう。
「もちろんですよ。着替えも持ってきました。身体の調子、どうですか?」
「ありがとう。いいよ、身体は。すぐ退院できそうだ」
そう言って、ほほ笑む、がすぐにその顔が崩れていく。
「っつ……ぁっ……あれ?」
涙が溢れて止まらなくなったのか、愛崎が困惑する。
「? はは、っ……なんか、おまえのかお、みたら、あんしんし、て……? っ……」
「薫さん……」
気丈に振る舞っていた彼の緊張が解けたのだろう。ダイキはそっと肩を引き寄せ、腕の中に抱きしめる。
「大丈夫です……もう、大丈夫ですから」
「っ……、……っつ……」
ダイキの胸に顔をうずめ、愛崎はしばらく、子どものように泣いた。
「はは、わるい、なんか、なきすぎた……」
そう言って照れくさそうに、ゆっくりと顔を上げる。
「いいですよ。落ち着きました?」
「うん……お前の匂い、落ち着く──」
それからまた、ダイキの胸に顔を埋める。視線を落とすと、首を絞められたときの痕が見える。昨日よりも濃くなっているようだ。
「──ッ……」
気づいた時には、その痕を指で辿ってしまっていた。それに呼応するように愛崎がダイキを見つめ、そのまま唇を重ねてくる。
「んっ、っ……」
ちゅ、ちゅっと啄むようなキスから、だんだんと舌が絡まってきて、口づけが深くなっていく。こちらの情欲を煽るようなキスに、ダイキもたまらなくなってくる。
「ハッ……んっ」
──縛られて……犯されました
──そのまま、首を絞められて──
「──ッツ……!」
ふいにさきほどの告白が、ダイキの脳裏をよぎる。愛崎の首についた痕を指で撫で、揉むようにしてしまう。力を入れたくてたまらない。
(ああ、まずい──)
これ以上は、めちゃくちゃにしたくなる!
「……っ……!?」
そっと離したつもりだったが、思ったよりも勢いよく唾液が糸を引いて、垂れおちる。
「ダイキ──?」
「っつ……薫さん……我慢、できなくなるんで……今日は、もう──」
嘘はついていない。だが、愛崎はどこかあきらめたようにほほ笑む。
「そうだな……明日も仕事だろ? 面会時間も終わるし、そろそろ……」
「……っ……あ、はい……」
ふいに言いようのない不安がダイキを襲う。なぜだかわからないが、愛崎が急によそよそしくなった気がするのだ。
(まさか……いや──)
今の一瞬で、劣情がバレてしまったのだろうか──そんなはずはないと、ダイキは不安を打ち消す。
「あの、退院するとき、連絡ください。迎えにきますから」
「ああ、ありがとう」
「絶対ですよ」
「わかったって」
どこか距離を感じる笑顔に、一抹の不安を覚えながら、ダイキは病室をあとにする。
真夏の生ぬるい風が、ダイキの身体にまとわりつく。
(バレようがないじゃないか……思い過ごしに決まってる)
罪悪感があるから、そう感じてしまったに違いないと、ダイキは気づかないフリをした。
三日後、愛崎はとくに問題はないとのころで、早々に退院することになった。
「はぁ、つかれた……」
そう言って寝室への扉を開け放したまま、ベッドにうつ伏せでダイブする。いつもは、きちんとスウェットに着替えるから、黒のTシャツの上に黒のカジュアルなシャツを羽織り、下はジーンズのままというのは、かなり疲労が溜まっているのだろう。
「今日はゆっくり休んでください」
ダイキはリビングから声をかけながら、洗濯機をまわしたり、歯ブラシなどの小物を元の場所に戻していく。
「……お前、今日仕事は?」
「休みくれました。今日退院だって言ったら、蛇山主任が行ってこいって」
「……そうか」
「何か買ってきて作りますよ。何がいいですか?」
「とりあえず……水飲みたい……」
「ふふ、今日暑いですもんね」
コップに注ぎ、突っ伏したままの愛崎の下へ持っていく。
「はい。持ってきまし──ン゛ッ!?」
急に下から腕を引かれて抱きつかれ、勢いよく水がこぼれる。だが、愛崎は構わず、そのまま唇を重ね、濡れた舌を絡めてくる。
「んっ、ちょっ、かお、るさっ!?」
貪るような激しいキスが繰り返されるが、どこか彼らしくない行動に、ダイキは困惑する。
「ッツ、ん、どうしたんですかっ」
「したい、いいだろ?」
ゾクゾクするほど濡れた視線に、ダイキもあやうく歯止めがきかなくなりそうになる。だが、額の傷や首の痕が、ダイキを思いとどまらせる。
「だ、ダメですっ、めちゃくちゃうれしいけど、まだ退院したばっか……」
ピタリと愛崎の動きが止まり、今度は一転、ダイキの下からするりと抜け出したかと思うと、突き離したように背を向け、ベッドの縁に座る。
「じゃあいい」
「え……?」
様子がおかしい。ひどく怒っているようにも、哀しんでいるようにも見える。
そして突然、大きくため息をつく。
「……別れるか」
「……え、は?」
思考が追いつかない。頭が真っ白だ。
「そのほうがいいだろ」
「いい、ってなにが? なんですか? 意味わかんないですよっ! 俺、なにか」
ダイキは後ろからその腕をつかんで、揺さぶるが、愛崎は一向にこちらを向くこともせずに続ける。
「お前は悪くない」
「悪くないって、じゃあなんで」
「言いたくない。言わせんな」
「どういう意味ですかっ!? ぜんぜんわかんないですよっ!」
本当に思い当たる理由がなくて焦る。せめてこっちを向いてほしいが、頑なに、愛崎はダイキを見ようとしない。
「どうしてですかっ!?」
痺れを切らしたダイキは愛崎の正面に回り込み、下を向いたままの彼の顔を覗き込む。
「……ッ……」
だが愛崎もひどく辛そうで、とても別れたいようには見えない。ダイキは中腰のまま、彼の手をつかんで、すがりつく。
「薫さんっ! 言ってくれないと、わかんないですっ!」
その言葉に、愛崎が唇を噛み、しばらく考え込むように視線を巡らせる。それから長く息を吐いてから、言いにくそうに話し出す。
「……今までのお前なら、病室、とか、俺の体調とか、カンケーなくがっついてきただろ……」
「え」
「抱けねえなら、そう言えよ……っ」
「あ」
確かに彼の言う通り、愛崎から誘ってくれたのに、ダイキは二度も断ってしまったのだ。だが、それでどうして別れ話にまでなるのだろうか──未だ混乱したまま、ダイキは必死に弁解する。
「! ち、違いますっ! 誤解ですし、なんでそれで別れ話になるんですかっ!?」
「なにも違わねーだろっ! 二度も同じ男にヤラれた俺なんか、間抜けで、バカで、かわいそうすぎて勃たねえんだろーがっ!」
「!? ──え……」
「ハァッ、ハッ……っ、ぅ……」
そんな風に自分を責めていたのかと思うと、ダイキは胸が締め付けられてしまう。愛崎もまた、溢れてしまった感情が止まらないのか、そのまま今度は仰向けにベッドに倒れこみ、顔を両腕で隠す。
「ッ……何度、風呂入っても……気持ちわりーのが、取れねんだよっ……!」
「……薫さん」
ダイキは迷う。言ってしまっていいものかどうか──。
「ッ……ほんと、ばかっ……みてーだよ。セックスなんて、いらねーと思ってたのに、俺は今っ……」
そこで声を詰まらせ、顔を覆う。
「どうしようもないくらい、お前にめちゃくちゃにされたいっ!」
「────!」
「……ドン引きだろ? わかったら帰れよ、もうっ……」
涙を耐えるように唇を噛み、黙ってしまった。その姿に、ダイキは今までにないほど劣情を覚えてしまう。
本当にいいのだろうか、この隠し続けてきた欲を、ぶつけてしまっても──。
「…………」
重い空気の中、ダイキはゆっくりと愛崎のそばに腰かけ、ちらりと見えている首の痕に、指の腹でなぞるように触れる。
「っ……?」
「俺も、絞めていいですか?」
「…………え?」
「首の痕、上書きしたい」
「…………なに? え?」
両手をゆっくりと外し、困惑気味に、ダイキを見上げる。その手首をとって、今度は縄の痕に口づける。
「ずっと、思ってたんです。やさしくしても忘れられないなら──、あいつよりも、もっとひどく、あんたを抱きたいって」
「ッツ……」
「ひどい記憶も、いい記憶も全部、俺で埋めたいんです」
ちゅ、と手首にキスを落としていく。
「……バレたら嫌われると思って、ずっと言えませんでした……」
そう言って愛崎を見つめると、どこか信じられないという顔で、ダイキを見つめている。
「じゃあ……断ったのって……」
「……身体中、あの男の痕つけたまま誘ってくるから、耐えるのに必死でしたよ」
そう言って微笑んでみるが、愛崎は固まったままだ。
(ああ──終わったな……)
あの男以上のことをされたいと言われて、さすがにいいとは言えないのだろう。
「…………」
ダイキは名残惜しむように彼の手首に口づけ、そっと離れようとする。だがその手を、今度は愛崎がつかむ。
「……やれよ」
聞き間違いだろうか。ダイキは恐る恐る、確認する。
「ほんとに?」
「いい。されてみたい」
言うなりダイキの顔を両手でつかみ、早くしろとばかりに乱暴に口づけてくる。
「ぅんっ、かおるさっ──」
「埋めろよ、全部お前で」
「ッツ」
ダイキは思わず、愛崎の首を片手でつかんで、ベッドに押し付けてしまう。
「ッツぅく!?」
「あっ」
ダイキは飛びのくように彼から離れる。愛崎が首に触れ、少し苦しそうにする。
「す、すみませんっ、俺──っ!」
「なんで謝る? したいんだろ?」
「ッ、ひどくしたいとは言いましたけど、傷つけたいわけじゃないんですっ!」
「……わかってる」
「わかってませんよっ!」
怖い──自分の中に、父親と同じように暴力的な部分が存在していることを、今、ハッキリとダイキは自覚してしまったのだ。
「っつ……俺のせいで、もし、トラウマが増えたり、ひどくなったりしたら──」
涙で前が滲んでしまう。それを見た愛崎が上体を起こし、ダイキの頬に、やさしく触れる。
「前にも言っただろ? お前は俺を傷つけたことなんかない。だから、好きにやれよ、な?」
そして、ことさらにやさしく、ダイキの唇を啄んでいく。何度も、何度も──。
「俺もお前に、上書きされたい」
そう言って、誘うようにダイキを見る。
「ッツ……もう……本当に、知りませんからねっ……」
苦笑する愛崎に口づけを返しながら、ダイキはスーツのジャケットを脱ぎ、彼の上にゆっくりと覆いかぶさっていく。
「んっ……」
首の痕にやさしく舌で触れながら、愛崎のTシャツをめくり、露になった乳首を両方の指でカリカリと素早く何度も弾く。
「ぁっ、それっ、ぅっ!」
首筋へのキスと、胸をいじられただけで、彼の中心が熱く張りつめていくのがわかる。
「……ここ、舐められたんでしたっけ?」
硬くなった乳首をキツめに吸うと、あっと声を上げて、のけぞる。
「噛まれたりは?」
「ッ……」
愛崎が答えに窮するのを見て、ダイキは歯を立てる。
「アッ! おまえっ、聞いてっ……んっ!」
愛崎が、ビリッとした刺激に、身をふるわせる。
「聞きましたよ。どうやったら、あいつよりひどく抱けるか、そんなことばっかり考えて、気が狂いそうでした」
「っ……」
もう隠すつもりはない。愛崎も、ダイキのぎらつく視線を見つめたまま、こくりと唾液を呑み込む──ダイキの告白に、愛崎の熱も上がっているようだ。視線を交錯させながらぷっくりと勃ち上がった乳首に舌を巻きつけ、いやらしく吸い上げる。
「ぁあっ」
さらに指でしつこく弾きながら、何度も噛んだり吸ったりを繰り返すと、ダイキの髪の毛を掴み、切羽詰まった声を上げる。
「は、ぁっ! も、ひどく、すんじゃ、ね、のかよっ」
「期待してるんですか?」
「おまえがしたいんだろっ」
「相変わらず、ズルい」
首筋にやさしくキスをして、ジーンズを緩め、そのまま引き抜く。
「すごい濡れてる……」
「ぁっ、み、んなっ……」
腕で顔を覆ってみじろぐ。その仕草だけで、ダイキは中心がもう痛いほど張りつめていくのがわかる。だが、まだその時ではない。外れそうな箍をぐっと堪え、愛崎の下着を少しずらし、濡れているモノを指で撫でる。
「後ろまで垂れてる……ローション、いらないですね」
「あ! ……んんっ!」
指で中の柔らかさや締め付けを確認するようにかきまわす。
「ぁっ、やっ」
「あいつの、どこまで入ったんですか?」
ぐっと中指を奥にすすめると、愛崎の腰が跳ねる。
「そ、んなの、おぼえてな」
「俺より太い? 長い?」
中指を追いかけるように、人差し指と薬指を束ねて中をかきまわしていくと、今度は内ももをふるわせる。
「ぅあっわ、かんなっ」
「感じました?」
「ッツ、んなわけ、ねーだろっ!」
だがほんの一瞬、愛崎の目が泳いだことを、ダイキは見逃さなかった。素早く自身のモノを取り出し、十分すぎるほどほぐれているそこにあてがう。
「うそつき」
「!? ぁっ! ぁあ゛ぁ」
奥にすすむたびに、背中を弓なりにそらし、ぎゅうっとダイキを締め付けていく。
ダイキは全部突き入れてしまいたいのをぐっとこらえ、半分入ったところで止める。最後まで来てくれないことに、愛崎が困惑した様子でダイキを見上げる。
「っ、しょうが、ねーだろ、へんな、薬で頭、朦朧として──」
「わかってます。でも、嫉妬しちゃうんです」
そう言いながら、ゆっくりと愛崎の首にもう一度手をかける。
「っ……んっ」
舌を吸って、また唇を重ねていく。首の痕をやさしく撫でる度、彼の中が、誘うようにダイキをきゅっと締め付けてくる。耐えがたい誘惑の中、それでもダイキは、首を両手でくすぐるように可愛がりながら、緩慢なキスを繰り返し続ける。
「ぅんっ、ンッ」
じれったくてたまらないのか、次第にダイキの舌を、切羽詰まったように吸い返してくる。
「はっ……」
ふいに濡れた視線が交錯する。唾液が垂れて、口元がいやらしく光る。お互いにもう、限界が近い──。
「薫さん……」
「……ダイキ」
首まわりを撫で続けている手に、愛崎の手が重なり、促すようにそっと押さえてくる。その意味するところを受け取ったダイキは、もう一度最後にキスをする。
「……っ……」
ゆっくりと、唇が離れていくのを、名残惜しむように見つめたまま、愛崎が息を吸う。
「ハァ、ぐっぅ~~~~~~ッ!!」
愛崎が息を止めると同時に強く首を締める。彼の中がうなるようにしがみついてくるのがわかる。
「くっ……!」
その収縮する襞に吸い込まれるように、ダイキも奥へと突き入れる。
「~ぅ゛ん~~~ッツ!!!」
愛崎が全身を硬直させて、達する。だがダイキはやめない。首を両手で絞めたまま、痙攣する中を何度も奥へ突き入れて、激しく揺さぶり続ける。
「ッツ! ゥッぐツ!」
奥を突かれる快感と酸欠の苦しさが同時に彼を襲うのか、ダイキの手の甲に、がりっと爪を立て、皮膚が削れるほど激しくかきむしりながら、ガクガクと身悶える。
「ッツ、ぁ゛、~~~~!」
「ハァッ、ハァッ──!」
ダイキはぐっ、ぐっと奥のさらにそのまた奥を揺さぶるように強く刺激する。
「ッツ~~~~~~~~~~~~──!」
ビクンッと、愛崎の身体がダイキの下で再び大きく跳ね、痙攣を繰り返す。ダイキも搾り取られるのに任せ、彼の中に思い切り吐き出した。それから愛崎の震えが次第におさまっていくのに合わせ、ダイキも首を絞めていた手の力をゆっくりと緩めていった。
「ハア゛っ! はっ! げほっ!」
「……すいません、やりすぎちゃいました……」
ひどくむせている愛崎の背中をさする。
「ばっか……しぬ゛かとっ……!」
「でも……キレイに上書きできてますよ」
「……ッ」
新しく着いた痕に舌を這わせ、ダメ押しとばかりに強く噛んで色を濃くする。
「い゛ぅっ……!」
「……絞められながら、イッちゃいましたね……」
まだ小刻みにふるえている身体をいらずらに撫でる。
「うる、せーよ……」
「…………」
ぶっきらぼうだが、快感の余韻を残した横顔は、煽情的だ。
(本当に……受け入れてくれた……)
どくんと心臓が脈打つ。まだ、終わりにしたくない。抱え込んでいた劣情を、もっとぶつけてしまいたい──!
「ちょ、おい……」
少しぼんやりとしている愛崎の服を脱がして裸にし、両手首をネクタイで頭の上に縛り上げ、ヘッドボードに固定する。
「手首、縛られてましたよね? ほかに、どこ触られました?」
愛崎の上半身を、手のひらでくすぐるように撫でながら尋ねる。
「どこ……って、とくにねーよ。もうこれで、終わ──!? ひぁ? や、ぁ? ちょ、なにっ!?」
戸惑う愛崎をよそに、ダイキは露になった脇のくぼみに、舌を差し込んでいく。
「やぅ!? ふぁ、そこ、なんか、やらぁ♡!??」
じゅぶっと吸うと、愛崎から信じられないほど濡れた声が漏れ、ダイキは思わず動きをいったん止める。愛崎はというと、困惑した表情のまま、首まで赤くしている。
「なんですか? 今の声……」
後ろや前を責めた時より、よほど崩れた声だった。
「ッツ……そこ、まじでやめろ」
「…………」
ダイキは答える代わりに、よりねっとりと舌でなめまわしていく。
「ふ、ぅうっ♡ や、だってぇ、ぅあぁっ♡ や、だ! だ、めって! はぁ、ん♡!」
一番奥の、深いところを吸われると、どうしようもないほど感じてしまうのか、腰までなまめかしく揺らして、身をくねらせる。
「や、め、ろ! ほんと、だめ、だ、てぇっ♡♡!」
変な声を出すまいと、一語ずつ必死に区切っても、声が崩れてしまうのを止められないようだ。手首が縛られているせいで、声を抑えることも、涙で濡れた顔を隠すこともできず、ただ喘ぐ姿にたまらなく興奮してしまう。
(声、聞いてるだけでイキそう……)
さきほども、何回分かと言うほど思い切り射精したというのに、すでに中心が痛いほどはりつめてきてしまっている。だがそれは愛崎も同じのようだ。
「こんなにしてたら、説得力ないですよ」
見せつけるようにふれ、ぎゅっと根元を掴む。
「あっ!」
「乳首とここ、同時に責めたら、触らなくてもイケるんじゃないですか?」
「バカなこと言うな。そんなの無理──ふぁ! んっつ、めってっ!」
しつこく脇のくぼみを舐めたり吸ったりをしながら、同時に乳首をカリカリと引っ掻くと、どうしようもないほど、身もだえていく。
「ぃあ、ふ、うぅうっ! らめ、むり、イケない、そこもう、むりぃ♡!」
(えろすぎる。かわいい、もう、もっと良くしてあげたい、もっと、もっと!)
これでもかというほど時間をかけて脇をなめまわし、強く吸うと同時に、乳首をぎゅっとつねると、腰が跳ね、愛崎の身体が痙攣する。
「あ゛! はぁ゛ん♡♡♡!!」
恥ずかしくてたまらないのか、唇を噛み、縛られている腕に顔を埋めるようにする。
汗で濡れた身体に、手のひらを這わす。
「出さずに、イッちゃいましたね」
「……っ……も……ぅ、いい、もう勘弁してくれ」
「……やめませんよ」
「っつ……」
「本当に嫌なら、頭突きでもなんでもして、力づくで抵抗しますよね?」
そこは信用することにしましたと伝えると、悔しそうに睨んでくる。その瞳に、ダイキはぞくぞくしてしまう。
「じゃあ今度は、俺の、舐めてください」
手首は縛ったまま、ヘッドボードからは解放し、上体を起こさせ、彼の目の前に膝たちになり、硬くなっているソレを突き出す。
「ッツ……」
戸惑いながらも舌を出して舐めはじめるが、咥えようとして止まる。
「……でかすぎだろ」
どう頬張ったらいいのかわからないという様子だ。
「さっきの声聞いてたら、こうなりますって」
はい、あーんと言うと、素直に従うその口に、思いっきり突き入れる。
「んぶっ! ぅん゛っ! ぅんん!」
頭を掴んで逃げられないようにし、腰を前後に揺らしていく。口内のやわらかい舌と、少し硬い上顎を擦っていく度、愛崎の喉奥が震えるのがわかる。
「んぐっ、う゛、んん゛っ!」
乳首に触れると、変わらず硬く張りつめており、ダイキはふいに確信する。
(ああ、気のせいじゃなかったんだ。この人、乱暴にされるの、好きなんだ)
そうでなければ、とっくに嚙みちぎられているだろう。
もしかしたら本人もまだ、気づいていないのかもしれない。まあ、あんなことがあったのだから、なおさら認めたくないはずだ。
それでも、自分だから許してくれていると思うと、余計に興奮して、腰の動きが激しくなってしまう。
「ぅんっ、ふぐ、ンッ! ンンッ!!」
飲み込めない白濁した液体が、口から溢れ、胸元を汚していく。苦しいはずなのに、歯を立てないように頑張っているのも、いじらしくてたまらない。
「ッ……ふ、んんっ」
そして、涙目で見上げてくる瞳は、苦しさを訴えるというよりも、何かを切望しているように見える。
(あ、イキたくてたまんないんだ……)
ダイキは頭を抑えつけていた手のひらで、愛崎の首を撫で、喉奥に突き入れると同時に、彼の喉を絞めるように掴んだ。
「~~~ッツ!! おぇっ! げほっ! ぇっ──ハァ、ハッ……!」
「……今日は何しても、イっちゃいますね」
震える背中を撫でてあげると、そのままダイキの胸元に頭を預けてくる。
「はぁっ……っ……」
何度も達しているせいか、どこかぼんやりとしている。
(かわいいな……どうしよう、やったら絶対嫌がるだろうけど、今日なら、いけるかな……)
ダイキは自身の中にある昏い欲望に忠実に従うことに決めた。
「飲み物、持ってきますね」
「? ぅん……」
ダイキは冷蔵庫から冷えたウーロン茶のペットボトルをいくつか取り出し、適当なコップに氷を詰め、バスタオルも数枚一緒に持っていく。
「はい、どうぞ」
「ん……」
タオルで汚れた口元をふき、渡されたウーロン茶をごくごくと飲み干していく。
「……手、もういいだろ? 外し」
「最後に一つだけ、付き合ってください」
「まだやるのかよ」
そう言ってあきれたようにため息をつくが、本気で嫌がる素振りはない。
「はい。薫さん、まだ体力余ってそうだし」
「ねーよ、もう……つーか、トイレ、いきてーんだけど……」
「ダメです」
「ん? は?」
なんで?と言わんばかりにポカンとしている。
「まだ、喉渇いてますよね?」
そう言ってもう一本のペットボトルを開け、考えがまとまっていない愛崎に、口移しで飲ませていく。
「んぅっ!? っつ、っつ? なに? なに考えてんだよ?」
「なんだと思います?」
そう言って再び押し倒し、しつこいくらいに口移しで飲ませる。
「ンッ! ちょ、おまえ、だから俺はトイレに──」
「ここでしてください」
伝えた瞬間、愛崎が青ざめる。
「は……な、に言ってんだお前、冗談だろ?」
愛崎の頭の整理が追いつかないうちに、再びヘッドボードに括りつける。
「ちょ、おいっ!」
逃げられなくなって焦る愛崎の内ももを、水滴のついた冷たいペットボトルでゆっくりと撫でていく。
「はっ……やめろ、まじで、何考えてんだよっ! おかしいだろっ!」
「俺、ちゃんと言いましたよね? 〝あいつよりひどく抱きたい〟って。それなのに薫さん、感じて、受け入れちゃうから──嫌な記憶にならないと、意味がないじゃないですか」
「……っ……」
絶句する愛崎をそのままに、ダイキは彼の下にバスタオルを敷き詰めていく。それの意味するところを理解して、さらに愛崎の顔から血の気が引いていく。
「さあ、これで、いつでもいいですよ」
「い……っ、できるわけねーだろっ、まじでふざけんなっ、はな……ひぁっ!」
柔らかくほぐれている中に指を入れ、内側から前立腺を刺激していく。
「ぁあっ、やめっ、ぁ、うっ!」
冷たい指に身震いする身体が愛しい。早く、ひどい記憶として、上書きしてあげたい。ダイキはさらにコップから氷を一つ取り出し、彼の下半身に滑らせていく。
「アッ! やめろ、ソレッ!」
肌を冷たい氷が滑り落ちていく感覚に、ぞくぞくと肌を粟立たせる。同時に冷えた指で中を刺激すると、愛崎が涙声で懇願する。
「ひぁ、あっ! だめだっ、ほんとに、やばい、からっ!」
「うん、いいですよ、全部出して」
「ッツ……やだっ……おまえにっ……きらわれたく、ないっ」
そう言って横を向き、背中を丸めてしまう。
(あーもう、ほんとにかわいいな……)
めちゃくちゃにしてしまいたいほどに──。ダイキは後ろから抱きしめ、やさしく頭を撫でる。
「なりませんよ。俺が見たいんですから」
「…………」
「というか、出すまで終わりませんからね」
「へん、たいやろうっ……」
涙目で睨まれて、自然と口角が上がってしまう。
「俺の方が最悪だって、忘れないでくださいね♡」
「ッツ!? ぁ、や、ぁぁっ」
横抱きのまま、ゆっくりと後ろから貫くと、愛崎が身体を逃がすように身じろぐ。だが、手首は縛られたままな上、ダイキに後ろから抱きしめられているせいで、逃げようがない。
「勃ってきちゃいましたね」
くにくにと悪戯に中心を揉むと、なんとか逃れようと身をくねらせるようにする。
「やめろ、ばかっ、まじでっ」
「……イッたら、勢いで違うのも出ちゃいそう?」
「っつ、ぁ、だめだっ、うご、くなっ」
「暑いから、氷、気持ちいいでしょ?」
「つ、めたっ」
氷と一緒に下半身を撫でまわしながら、ゆっくりと、焦らすように、腰を動かしていく。
「ぁっ、う」
じりじりと痺れるような甘い快感と、刺すような氷の冷たさに、愛崎は翻弄されているようだ。
「だい、きっ、な、もう、十分だからっ、ここで終わろ、な?」
「…………」
まるで子どもをあやすような言い方がダイキは気に入らない。
(まだ、そんな余裕あるんだ……)
「アッ! ちょっと、だ、め」
氷と一緒に前を握りこんで扱くと、愛崎の身体がびくりと跳ねる。
「はぁンッ♡ ぁ、やだぁ!」
冷たくて、熱くて、イキたいのに、イキたくない──愛崎の葛藤が限界に近づいていくのがわかる。ダイキもそろそろ限界だ。横抱きをやめ、なんの予告もなく、おもむろにいったん引き抜く。
「ひぁっ! バカっ」
あやうく出しかけたのか、焦る愛崎を正面から押し倒し、貫く。
「ぅんっ! ぁああっ♡!? だめえっ!!」
「薫さんッ」
「ンッ! ん、んはっ! アッ! やぁっ」
乱暴にキスを繰り返しながら、そのまま奥を突き上げるように何度も揺さぶっていく。
「アッ! もういいってっ! お前の方が、ひどいから! だからもうやめ──ァッ♡、ダイキッ、話聞けよっ!」
悲痛な叫びに、ダイキはいったん動きを止め、余裕のない愛崎の瞳を真っすぐに見つめる。
「薫さん……俺は、あの男の記憶を上書きできるなら、あんたに恨まれてもいい」
「ッツ……」
「ね、だから、全部見せて……」
「……ッツ……」
覚悟かあきらめか、唇を噛んで黙った愛崎を、今度こそ激しく貫く。
「んぁあ゛ああ!」
限界なのか、愛崎の中が震えるように絡みついてくる。
「ね? 薫さんのプライド、ぐっちゃぐちゃにしてあげます」
「あ、おまえ、ほんとに!? ひぁ、ぁあ゛♡、あ!」
「イキそう?」
「あぁ、やめろってぇ! ばかあっ」
かぶりを振る彼の乳首をぎゅっとつねり上げ、うねる中を奥めがけて貫く。
「出して」
「ひっ! ぃあ゛っ♡、ぁあ゛、やらっ、うそ、やだ~~見んなぁ゛~~♡♡!」
ビクビクと身体が跳ねる度、中心から、潮が吹きだし、続けて色のついた液体が、下半身を濡らし、タオルを汚していく。
「ハァッ、ハァッ……ッツ……」
屈辱と羞恥で濡れた顔を、なんとか縛られた腕で隠そうと横を向く愛崎の頭を、ダイキはやさしく撫でる。
「上手にできましたね」
「ッツ……触んなっ! シネッ!」
「え~ひどい」
「っつ……もう……片付けろよ~……」
怒ったかと思えば、今度は泣き声交じりに弱々しくなる。さすがに限界のようだ。ダイキは急いで彼の身体をキレイにしてベッドまわりを片付け、全自動洗濯機をまわす。
「あ」
ふいに手首を縛っているネクタイを外し忘れていることに気づくが、愛崎はそのまま眠ってしまったようだ。
「悪夢見るなら……俺の夢、見てくださいね」
ちゅっと額にキスをし、そっと戒めを解く。冷房で身体が冷えないようにタオルケットをかけると、ダイキもその隣で眠った。
ともだちにシェアしよう!

