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第21話完結!
㉑
愛崎を襲った男の死刑が確定した。
あの後、ダイキは捜査一課に残ることになり、愛崎は組対へ異動となった。
「良かったんですか?」
人事異動の張り紙を見ながら確認すると、愛崎が晴れやかに笑う。
「ああ。もう悔いはねーよ」
「……ですね」
ダイキも微笑み、頷く。
それを見た愛崎が少し照れたように頬をかく。
「ダイキ、引っ越しする予定なんだ。その……新しい家、一緒に見に行かないか?」
「それって……」
「一緒に住みたい。ダメか?」
「大賛成ですっ!!」
それから慌ただしく月日が過ぎて無事に引っ越しも完了し、二人は新しい生活をスタートさせた。
「うわっ! 薫さんっ! 冷蔵庫をヨーグルト(無糖)と納豆とブロッコリーと鶏肉(ささみ)で埋めないでくださいっ あとオートミールは常温ですっ!」
毎度毎度買い物を愛崎に任せるとコレしか買ってこないから困ったものだ。
「献立考えるの面倒だろ?」
「さすがに飽きますって~」
ここ数か月、同じものしか食べていない気がする。仕事から帰宅したばかりで買いに出る元気もない。
ダイキは出前を取るかどうか迷う。実はここ最近、とある理由で金欠なのだ。
(でもさすがに飽きたな~)
しばしの葛藤の末、ダイキは天ぷらがたっぷり乗った天丼を注文した。
「ハハッ、相変わらずいい食べっぷり」
すぐそばで食べていても、物欲しそうな素振りがまったくないのだからダイキは感心してしまう。
「ほんとストイックですね」
「食にあんまり興味ないからな」
管理職になってからも定期的にジムに通っている愛崎は相変わらずスタイルがいい。
「……薫さん、今日何の日か知ってます?」
「ふ、毎年騒ぐから覚えたよ。付き合って五年目だろ?」
そう言って嬉しそうにする。
「はい、まあそうなんですけど」
「なんだよ」
反応が鈍いダイキに不服そうな顔が可愛い。
ダイキはご馳走様を言い、どことなく硬い表情のまま続ける。
「いつもプレゼント交換するじゃないですか」
「うん。ちゃんと買ってる」
「……え、と、今日はその五年目だし……いいかなって」
「ああ、ナシでも?」
「いや違くて」
しどろもどろになるダイキを愛崎は不思議そうに待つ。
「その、もしかしたら重いっていうか、嫌かもですけど……俺はやりたくて……」
「なんだよ。どうした?」
「あのっ、コ、コレッ!」
握りこんだまま出してしまったせいで、何なのか愛崎には見えないようだ。ダイキはゆっくりと拳を開く。
「まさか……指輪?」
「は、はい」
ダイキは震える手で蓋を開ける。パコっと小気味良い音を立て、落ち着いた輝きを放つ銀色のリングが二つ姿を現す。
「マジか」
愛崎は驚いているようだ。ダイキは緊張で苦しくなる。職場に付けて言ってほしいとはさすがに言わないが、休みの日に二人で出掛ける時には付けてほしいと思う。
「まいったな、まさか」
愛崎は困ったように笑い、ソファから席を立ってしまった。
「や、やっぱり……ちょっと重かった……ですよね……」
ダイキは箱を持ったまま固まってしまう。じわじわと後悔が押し寄せてくる。
(うう……めちゃくちゃ高かったし勇気出したのに~……)
「いや、まさか被(かぶ)ると思わなくてさ」
「……え?」
そう言ってカバンから同じくらいの小箱を取り出し、気まずそうに戻ってくる。
「え──嘘でしょ……」
「ほら。中見てみろ」
無造作に渡された小箱の蓋を開けると同じようにパコッと音を立て、美しい銀色のリングが目の前に現れる。
「え? え……ほんとに?」
男らしさを失わない洗練されたシンプルなデザインが施され、一目でダイキのモノより数段上等なモノだと分かる。
「お、俺の買ったヤツより明らかに」
カッコいい! そして絶対高い! ダイキは嬉しいやら恥ずかしいやら複雑な気分になる。
「ごめんて」
そう言ってこちらも気まずそうに笑う。
「でも、超カッコいいです……」
「お前のも可愛くていいな」
「ふふ……」
「ははっ」
二人でしばらく笑い転げ、どうしたものかと頭をひねる。
「一緒に買いに行けば良かったですね」
「男同士でか? まあ今時気にしねーかもだけど」
さすがに勇気がなかったと愛崎が独り言ちる。
「…………」
しばしの沈黙の後、同時に口を開く。
「「二つ付ける?」」
綺麗に声が重なり、また二人は笑う。
「ははっ、そうするか。別にいいだろ、何でも」
愛崎はそう言って自分で買ったリングをおもむろにダイキの左手の薬指に嵌め、自分にも嵌める。
「ッツ……」
「ふ、照れ臭いっつーか、何気にテンション上がるな」
言いながら互いの左手の指と指の間に自分の指を互い違いに差し込んでいく。
(っつ……えっろ……)
「次、お前の番」
「ッツ……は、はひっ」
「ぶっ……声引っくり返ったな」
「き、緊張してるんですっ、動かないでください」
笑うせいで震える左手を力任せに掴み、ダイキは指輪を通す。
(やば……なんかすごい所有欲が満たされるっ!)
ドキドキしながら愛崎を見ると、今まで見たこともないほど幸せそうな表情をする。
「ふ……お前のモノになったって感じする」
「ッツ……!」
「お前も自分の付けろよ。写真撮りたい」
(あ~~~! 可愛いッ!)
ダイキは急いで自分にも嵌め、二人は手を並べて写真を撮った。
「ついにやったわね。あんた達」
いつもの居酒屋で紅と愛崎とダイキの三人で飲むことになったのだが、開口一番、紅からツッコミが入った。
「何が?」
「何がって愛崎あんたっ、とぼけてんじゃないわよっ! お揃いの指輪二つもつけてっ! 一つならまだしも二つは目立つ! 職場で噂になってるって!」
信じられないとビールを一気飲みする紅は、呆れながらもどこか嬉しそうにも見える。
「聞かれるの私なのよ? なんて説明すりゃいいのよ……」
そう、結局あの後俺達は指輪を付けたままなのだ。あまりにも堂々と付けて行ったせいか、周囲が戸惑っているのが分かる。
なのでこうも真っ向から言われるとダイキは恐縮してしまう。
「す、すみませんっ」
「てきとー言っときゃいいだろ」
そして腹を括っている愛崎は絶対にブレない。ダイキはそこを頼もしいと思う。
「適当って……もう」
世話が焼けると言いたげに二人を見てふいに微笑む。
「まあ、吹っ切れたのはいいことか。おめでとう」
「ご、ご迷惑をお掛けしました。今後ともよろしくお願──イテッ」
「両親への挨拶かよ」
「みたいなもんですよっ! 元奥さんに許可を──」
「やめろっ、恥ずいっ」
「あははっ! 熨斗(のし)付けてやるわよ!」
楽しそうに笑い飛ばす紅に愛崎も微笑む。
「紅、結婚おめでとう」
「な、なによ改まって」
「そのための飲み会だろ?」
そう言うと紅が再び声を荒げる。
「あんた達の指輪でそれどころじゃなかったけどね!」
「ごめんて」
「すみませんっ」
「もうっ!」
愛崎が苦笑し、ダイキが謝り、紅が矛を収める──何気ない日常がキラキラと輝き、ダイキは幸せを噛みしめた。
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