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最終話※ また明日

 従順に開かれた脚の奥を、官能に溺れかけてもなお淑やかな美貌が見下ろす。  丁子油を纏わせた指が肉の隘路に沈み込んできて、由利は思わず眉根を寄せた。  痛みは無いが、違和感が凄まじい。  調教の苦しみを愛撫で和らげてやろうと、佐久良は由利に寄り添うように上体を倒すと喉を甘噛みした。  命を握らせているも同然だが、由利は微笑んで佐久良の髪を撫でる。  佐久良が由利の命を狙うことは永遠に無いと知っているからだ。  中指が拓いた道に二本目の指が侵入してきたのを感じ、由利の全身がぎくりと跳ねた。  戦場では瞼を斬られようが腹を刺されようが気力で立ち続ける豪傑が、閨では恐怖を隠すことなく普通の青年で居られる。  珍しく弱さを見せてくれる由利が可愛く、佐久良は彼に再三のくちづけを贈っていた。  互いの唾液に濡れた舌で、今度は由利の頬の傷をなぞる。  淫らな舌遣いに翻弄されて喘ぐ由利の体内が不随意に指を食い締めるのを楽しみながら、佐久良は意地悪く微笑んだ。 「可愛い……。  明日も明後日もいっぱい躾けたるから、口の中も、この傷跡の若い皮膚も『性感帯』ってやつにしよな」 「佐久良に触れられとるってだけで十分気持ち良いのにっ……これ以上?」 「うん。キスだけでスペースと同じくらい気持ち良くなれるようになろ」 「それで佐久良が喜ぶんやったら……っ、ぎ、い……!?」  話している間に丁子油を足して、突き入れる指を二本に増やしたのだが、さすがに苦しいらしい。  無垢な薄い皮膚を引き裂かれそうな恐怖と圧迫感で、由利は水のような汗を流して震える。 「裂けはせえへんから、悪いけど耐えてもらえるか」  着物の袖で汗を拭ってやりながら佐久良が訊ねると、由利は泣き顔をこくこくと縦に振った。  また後孔から気を逸らせてやろうと、佐久良は由利の胸に舌を這わせた。  尖らせた舌先の可愛らしさに反して、与えられる感覚はじりじりと由利の乳嘴に沈殿していく。  昨日のプレイで淫らに萌芽しかけた箇所を佐久良の舌に、或いは唇に甚振られて由利は喃語じみた声しか出せずに悶えた。  ただ目論見は当たったようで、どうにか緊張の取れた体内へ押し込む指を増やすことが出来た。  弾力のある襞を優しく解し、ここは佐久良を受け入れる場所なのだと、まだ狭く頑なな肉筒に教え込む。  指を推し進めていくと、ある地点で由利が柳腰を捩って激しく悶えだした。 「あ、何かそこ変!」  風呂場では準備に徹しており、こんな風に中をまさぐりはしなかった。  未知の感覚に、由利は珍しく甲高い声を上げて泣き喚く。 「ごめん、痛かった?」  変、というのを悪い方に受け取った佐久良は慌てて指を引き戻し、再び浅い所を捏ねるのみとなる。  程なくしてその手を由利が掴み、再び奥へと誘った。  伴侶の手指を使って自身の悦い所を擦り上げる由利を前にして、佐久良は血が下腹部にますます凝るのを感じた。 「いや、その……ちゃうくって、気持ち良すぎてびっくりして……」 「へえ……」  恥じらいつつ弁解する由利の自涜じみた行為を暫く堪能してから、佐久良はやっと手の主導権を奪い返し、ぐちゅぐちゅと前立腺周りの粘膜を耕してやる。  天蓋には甘い呻き声が断続的に響き渡る。 「こんだけとろとろやったら入るやろか……」  菊座の蕩け具合に納得し、佐久良は指を抜くと、着物の帯を解いて裾を割った。  現れたものを見て由利の顔は引き攣った。  これまでも着替えや湯浴みの折に目に入ることはあり、体格に見合った立派なものをお持ちで、とは思っていた。  しかし今それは、佐久良の優美な風貌に似つかわしくない凶器と化していた。  赤ん坊の腕と比べたらどっちが太いやろ、という馬鹿げた感想の後に、じわじわと恐怖が由利を襲ってきた。  入るかこんなもん、と喉元まで出掛かったのを、由利は呑み込む。  決して繋がりたくない訳ではないのだ。  その逡巡を佐久良は見抜いていた。 「びっくりしただけ、やんな?」  数分前に由利が言ったことを引用しながら、佐久良は由利の股座に腰を押し付ける。  弱々しく首肯する由利に、コマンドが与えられた。 「touch(触れ)」  命じられた由利は恐る恐る手を伸ばし、佐久良の陽物に指を這わす。  他人の急所を触るなど初めてで、性交の準備が整った状態など自身のものでさえ見たことがない。 「っはは……なんか硬いし、濡れてる」  由利は緊張を紛らわせようと笑み混じりに呟いたが、撫でているうちに掌中で更に反り返って硬度を増したのを感じて戦慄いた。  被虐的な本性が全身のSub神経をざわめかせる。 「Goodboy(良い子)」  佐久良は自身の体液に塗れた由利の右手を取ると、指先を甘噛みした。  同時に怒張を宛がい、由利の体内へと圧倒的な支配を捩じ込んだ。  由利は断続的な呻き声を上げながらも、育ち故に肉付きの悪い身体で健気に佐久良の猛る陽物を食む。  少し腰を進めるごとに相手の存在が脳の奥底にまで浸食してくる。  指で触れられてぞくりと疼いたあの一点を、今度は指とは比べ物にならない質量で圧し潰され、由利の呻き声は甘さを帯びた。 「ゔゔ……あ、案外どうにかなるもんやな。  入ったやん……」  初めての感覚に必死で慣れようとしながら、由利は嬉しそうに笑う。 「せやな。半分は」  佐久良の宣告に、由利の笑みは一瞬で消し飛んだ。 「半っ……」 「一番きつそうな所は過ぎとるから、いける」 「え、あぁ!?」  まだ侵入していなかったぶんを急に突き入れられ、由利の下腹部を襲う異物感はより拡大する。  結び付きを少し深めては由利を宥め、やっと佐久良のものが殆ど由利の中に収まった。  今にも由利を抱き潰さんとする衝動を理性で抑え込む佐久良と、愛欲に縫い留められて反射的に藻掻く由利は、荒い息を吐きながら暫し見つめ合う。 「なあ、もう……」  続きを言う代わりに、由利は佐久良の着物の袖にじゃれついた。  それが合図となって、佐久良は箍をかなぐり捨てた。  由利は佐久良の逞しい体躯の下に埋もれ、揺さぶられて啼くことしか出来なくなる。  色事に熟れていない処女地をこじ開けられる圧迫感が、由利の被虐性を満たす。  それ以上に「何か変」と表現した箇所へ叩き込まれる局地的な刺激は鮮烈だった。  腰を遣っているうちに、佐久良の着物が摺り落ちていく。  左肩には鶯山での戦闘で刻まれた最も深い刀傷があった。  現代の医療と佐久良の回復力ならば、近いうちに傷は跡形も無くなる。  勿論、この新雪のような肌を踏み荒らす傷など無い方が良い。  ただ、佐久良本人が忘れたとしても自分だけはこの傷の大きさを覚えておこうと、止めどない法悦の中で由利は誓った。  由利の脇腹を鷲掴み、あられもなく乱れる姿を高みから見下ろしながら後孔を穿っていた佐久良であったが、ふとあどけない表情を見せると由利に訊ねる。 「抱き締めながらしたい……良い?」  肛虐で加虐欲を満たすだけでは飽き足らず、全身で人肌の温もりを感じて甘えようとしているのだ。  とんだ暴君だな、と思いつつ、由利は手を広げる。 「良えよ、おいで」  許しが出るなり、佐久良はそっと上体を倒した。    互いの腹も胸も密着し、頭もぐっと近くなる。  佐久良は打ち付ける腰を一切緩めないまま、由利の唇を舐り、手を探り当てると指を絡ませた。  結び付きを求めるあまりに器用なマルチタスクを熟してしまう佐久良が愛しくて、由利はつい自分から佐久良の舌を吸っていた。  肌に浮いた汗が、ひたりと二人を引き合う。  由利の脚は殆ど無意識のうちに佐久良の胴へと絡んでいた。  前立腺を先程よりも小刻みに突かれているうちに、佐久良から与えられるこそばゆさとも脱力感ともつかないものは耐え難い域へと達していく。 「ああっ、さくらぁ……なんかおかしなりそお」  涙を零し、呂律の回らない状態で由利が訴えるのを佐久良は聞いてやる。  ただし、抽送が止むことはなかった。 「そう、おかしなんの?」 「んっ、ん……スペースとちゃうくてっ、なんか熱くてっ……!」 「うん。悪いようにはならへんから、もう少しだけ、良え子で待ってよな」 「は、ひっ――」  閾値すれすれまで性感が昂っているのは佐久良も同じだった。  頬を赤く染め、恋人に自身を受け入れてもらっている悦びに夢中になっている。  隙間なく重なり合ったために、由利のちょっとした動きも佐久良へと伝わり甘美な波になる。  瞬間、由利の身体が幾度か跳ねては弛緩した。  とうとう後孔での絶頂を味わったのだ。 「っああ……!? も、きもぢい、はうぅっ」 「は、すご、可愛いっ……」  由利から漏れるのは戦友の前で自らを強く見せたいがための銅鑼声ではなく、生来の飾らない声だった。  佐久良は五感で由利を愛でながら容赦なく腰を打ち付け続ける。  泣き喚きながらいやいやをするように上体を捩る由利であったが、佐久良にしがみつく脚とうねる襞はむしろ、自身を貫く雄に媚びていた。  立て続けに忘我の境に入って収縮した肉筒に激しく食い締められ、佐久良は由利の体内に精を放った。 「精液ってやつ? 注がれてしもた……重たぁ」 全身蕩けきった由利が、腹を撫でながらへらへらと笑った。  その様子を見ていると再び下腹部が疼きだしそうだったので、佐久良は性急に腰を引こうとする。  すると敏感になった縁を雁首が捲り上げるように擦ってしまい、やっと落ち着きかけた二人に新たな火を灯した。  うっとりと上気したまま由利はベッドの上で起き上がると、佐久良の欲で濡れた秘所に手を這わせた。  白濁がどろりと由利の指や太腿に纏わり付く。  新人類の二人が腎水を目にするのは初めてだった。  単純な好奇心、達成感、羞恥など様々な感情が去来する。 「由利に搾り取られてしもた」  微笑みながら佐久良は、体内に放ってしまったものを風呂場で掻き出してやらなくてはと思っていた。  しかし由利の細い指が、硬度を取り戻しかけていた佐久良のものの浮き出た血管をなぞって擽る。 「明日、休みやんな……起きるの遅くなっても良えやろ?」  蠱惑的に誘われ、思わず襲ってしまいそうになったが、佐久良は鋼の理性でぐっと耐えた。  当の由利がまだ情交の余韻を色濃く残し、息を上げていたからだ。 「俺はともかく、受け入れる側は負担が大きい。  初夜から無理に何べんもやらんでいい」 「佐久良はいつも優しいな。やけどなあ」  由利は佐久良を押し倒して跨ると、自身を散々啼かせた屹立に会陰を擦り付けた。 「佐久良は御主人様やねんから、溜まったもん全部出しきるまで俺の身体使って良えねんで?   ほんまにあかんかったらセーフワード使うからさあ」 「っ……」  気遣わしげな表情とは裏腹に硬度を増す佐久良の陽物を感じ、由利は不敵に笑った。 「身体は正直やな。ごちゃごちゃ考えてんと俺の中にいっぱい扱き捨てて?」  由利は泥濘の中に佐久良を再び招き入れると、ゆっくりと動いて快楽を得始めた。  片手で自身の玉茎を掬い上げ、繋がっている様子を見せ付けながら淫蕩に舞う。  由利の存外献身的な一面がSubの被虐性と合わさった結果、彼は持てるもの全てを使って佐久良に奉仕することを覚えたのだ。  勿論、恥ずかしくない訳ではないが、それ以上に佐久良を悦ばせたかった。 「……由利から言い出してんぞ。俺は止めたからな」  佐久良がそう呟いたのを、自身から漏れる艶めいた声を隔てながらも由利は確かに聞いた。  佐久良は由利の腰骨を掴むと、主導権を握れると思い込んでいた華奢な体躯を突き上げた。  上に居れば一方的に佐久良を気持ち良くしてやれると考えていた由利は、一溜まりもなく体勢を崩し、後ろに手を突いて倒れまいとするのがやっとだった。 「そっ、そう来な……!」  予想以上の反撃を喰らいつつも、本能に忠実になってくれた佐久良を由利は満足げに見下ろした。  まだ充血を知らない由利の外性器は、彼が跳ねる度に佐久良の下生えへ押し付けられる。  毛が掠めるのをこそばゆく感じているうちに由利のものも芯を持ち始めた。  もっと酷くしてやろうと、佐久良は身体を起こし、座りながら由利を貫く体勢になる。  戦闘で培った筋肉を駆使して由利の尻を抱え上げ、上下にも前後左右にも揺さぶった。  自重によって、由利の腹はより深く串刺しにされた。 「やっ、めっちゃ奥、入っ……」  由利は佐久良の背中に手を回し、ぎゅっとしがみ付きながら叫んだ。  腹の奥深くをこじ開けられている。  準備段階で結腸のことは勉強していたので、そこを突き抜けられても問題の無いように浄めて来てはいたが、まさか初夜からそこを拓かれはしないだろうと高を括っていた。  二人の肉体の相性の良さに、由利は思わず苦笑した。  無意識で最奥を締め付け、佐久良が埋め込んだ切っ先をありありと感じてしまうのと同時に、由利の緩く兆した前も佐久良の腹筋に擦れてじんわりと心地良くなってくる。  しかし決定打は与えられず、その幹は中途半端に項垂れたまま、血が流れ込んで来る折のむず痒さを味わい続けていた。 全てが佐久良の思い通りに転がされている。 「由利のお腹の中、どんどん俺の形になっていってる」  佐久良は恍惚としながら、繊細な粘膜の収縮を愉しんだ。 「うん、佐久良のものにして……」  譫言のように呟きながら、由利は自身の乱れた前髪を後ろに撫でつけた。  威厳が無くて好きではないと言って普段は隠している顔の右半分も、しっかりと佐久良の眼前に晒される。  佐久良以外の前では絶対に見せないであろう気を許しきった行為だった。  そのうち、由利は声にならない悲鳴を上げながら絶頂する。  同時に、殆ど放置されていた秘裂からひとりでに弱々しく吐き出されたものが佐久良の腹筋を濡らした。  立て続けに最奥で熱い奔流を受け止め、由利は目の前の広い肩に凭れ掛かった。  両者とも、戦いでもこうはならないという程に息を切らしているが、触れ合う肌の火照りが充足感を伝えていた。  落ち着いてきてから、由利は浮かんでいた疑問を口にした。 「何で俺の、佐久良と出方がちゃうん?   どっかあかんかった?」  腹の中に注ぎ込まれた佐久良の腎水は、もっと激しく迸っていた。  それに比べて自分の吐精が力無いのが不思議だったのだ。 「それは由利が内臓まで俺に支配されてる証拠みたいなもんやねんで。  あかんどころか最高や」 「え、そう……?」  佐久良の答えだけで、由利は軽くスペースに入りかけた。  それを見透かして微笑んだ佐久良は、由利の髪を手指で梳る。  アフターケアの手付きだった。 「後ろ髪、久々に伸ばそかな」  頭の頂点まで響く優しいそよそよした感触にうっとりしつつ由利は溢した。 「梯子に出来るくらい長い髪になっても、こないして撫でてくれるか?」 「ああ。長くなろうが真っ白になろうが、ずっと」  釣られて、佐久良も望みを口にする。 「俺は由利と一緒に写真を撮りたい。  十年ぶりの家族写真や」 「良えな。楽しみや、凄く」  押し込めていた幼い夢を。  これに出会う為に生まれてきたのだと思えるような、綺麗なものを。  二人は互いに抱き締めた。                                    (了)

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