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第1話
横濱・夜の中華街――。
下調べを部下や他者に任せ無いのは、抑々他人何て信用為て居ないから(元々部下何て居ないけどね)。
変装すれば一見為て判別は不能、至近距離で凝視されても看破られ無い自信が在るね。
今日の標的は大物鷹派政治家。殺さなくては為らない理由なんて知らないし興味も無いけれど、ボスが云うのだから其れに随う。
行動類型なんて半月も追跡すれば充分。大体皆同じ行動の繰り返しだからね。如何やら此の先生は若い女の子が大好きな模様、週に五日はそういった店で酒を飲んで、金を握らせていけないおイタを為て居る。
だからそういう時こそ私の出番。先生の警戒が緩く為って了いそうな超絶美女に大変身。ゴヲジャスな金髪をくるくる巻いて、胸は贋物だけれど少し触られた程度じゃ見分けなんて附かない。限界まで胸元が空いた真紅の洋装は太腿に入った切れ込みも迚もセクシイ。
ほら、真っ赤な唇で少し口吻けを飛ばせば、先生は吸い寄せられる様に護衛も附けず建造物の薄暗い隙間に誘い込まれる。
其処を私がすかさず仕留める。何故自分がこんな目に遭わなければ為らないのかって先生は最期に云うけど、そんな事私にも解らないよ。唯私が貴方を殺した事で、貴方は此の先殺される不安に脅える必要が無くなる。――佳かったね、先生。
仕事の後、特に相手を酷い殺し方で殺せば殺す程、其の後に滾る熱が抑え切れなく為る。誰かの死を見て、自らの生を実感したく成るんだ堪らなく。
相手なんて誰でも佳い。唯一時の快楽を与えて呉れる相手ならば誰でも佳くて。幸い此処は歓楽街にも近い、慾を持て余した相手何て幾らでも見付かる。
――まあ、私が満足為たら証拠隠滅も兼ねて其の後殺しちゃうんだけど。
「ねえお兄さん、私とイイコトしない?」
如何にも雄臭い、精力が有り余った男を選んで声を掛ける。下手に拘りなんて無さそうな奴の方が善い。男でも女でも、挿れられる穴が有れば何でも善いって思っている様な相手が一番。
此れが若い子だったりすると胸に拘りが在ったりするからね。所詮な穴に棒を嵌めて腰振って慾を吐き出す丈の性欲処理。太くて硬くて永続きしそうな棒なら何でも佳かった。
少しだけ甘い言葉で囁やけば、雄の目尻はだらしなく下がり、其れが罠とも気付かずに、誘われるが間々暗く狭い路地へと誘い込まれる。
道化師の言葉を本気にする貴方が悪いのさ。
じっとりと汗ばんだ首筋に両腕を回して、五月蝿い鼻息は訊こえない振り。あゝ解るよ待ち切れないのだね。其の禍々しい慾の象徴を、私の中に容赦無く打ち込んで突き上げて、激しく揺さぶって御呉れ。
「……疾く、欲しいなァ……」
凡て忘れて、今は唯動物と為ての本能に従いたい。
耳許で慾を煽る様に囁き乍ら、今にもはち切れそうな其れを握り込む様に掌で揉み込む。疾く疾く疾く――。
其れは一瞬に為て私の目の前から朽ち果てた。眼から口から鼻から耳から、穴と謂う穴からどろりと薄汚い血を垂れ流して。
「今宵の相手を御捜しですか?」
そして訊き覚えの有る声が路地の壁に反響する。
壊れた玩具はもう要らない。崩れ落ちる男の身体を其の儘避ければ、どちゃりと肉塊が地面に叩き付けられる音がする。
其の一瞬の刹那、其れ迄彼の股間を揉み込んで居た手を、掴まれて、腕を捻り上げられて、建造物の外壁に押し付けられた。
人気の無い、薄暗い路地裏。勿論注目する人なんて居ないし、余程注視為なければ其れに気付く人なんて居ない。
「――本当に、誰でも佳いのですね貴方は」
失望為たような、倦れたような、其れでも抑揚の無い声が背後から投げ掛けられる。
ぐちゃりと死肉を踏み付ける音が訊こえて、〝彼〟の身体が重圧が背後から伸し掛って来る。
「だって、仕事の後は無性に身体が疼くんだ。此れがヒトの殻から逃れられ無いって事じゃない? ――ねえ、ドスくん」
「――其の本能に抗えない事が、貴方が未だヒトの檻に閉込められて居る、と謂う証と云う訳ですか」
「Правильно 」
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