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第30話 帰る場所
「さて、説明してもらおうか。金城と付き合っていたんだって? 聞いてないんだが」
「えっと……付き合っていたのは、事実だけど……これには、深い事情が」
「話して、今直ぐに」
あれは高校一年の秋頃のこと、僕たちはそれぞれモテまくっていた。透真は見た目も心もイケメンだし、運動もできた。
僕は他の人に比べて生まれつきフェロモンが強いらしく、無条件にαを引き寄せてしまう体質だ。
そのせいで僕たちは完全に、モテまくっていて嫌気がさしていた。僕たちは家で作戦会議をしていた。
「どうする? 正直、めんどくさい……入学して約半年で、十人以上だよ」
「提案なんだけど、付き合わね?」
「……はっ! そんな目で見てたなんて、ごめんっ! 気がつかなくて!」
「そんな、小芝居はいいよ」
バレたか……透真が僕のこと、好きなんてことはない。もちろん、僕が透真を恋愛感情で好きになることは絶対にないだろう。
「カモフラージュだよ」
「どういうこと?」
「俺らが付き合っていると思えば、告白されずに済むだろ? どっちかが好きな奴ができたら、その時に考えればいいよ」
「なるほど……いいねっ!」
そんな訳で僕たちは表向きは、付き合うことになった。正直、そんなの直ぐにバレると思っていた。
しかし高校どころか、大学四年間も全くバレませんでした。僕が花楓にそう説明すると、深くて重いため息をついていた。
「えっと……つまりは、好きって訳じゃないんだな」
「う〜ん、好きは好きでも……透真に対してのは、家族愛かな?」
僕たちの両親は全員が、高校の同級生だった。その頃からそれぞれの、両親が付き合っていたらしい。
それで僕たちが生まれて、必然的に仲良くなった。両親が亡くなった僕にいつも、本当の親のように接してくれている。
今だってたまに連絡をとっていて、僕の帰る場所をくれている。そこまで頼ることはなくても、そういう場所があるってだけで安心できる。
そこまで話していると、不意に彼に抱きしめられていた。その温もりがいつもよりも、暖かく感じて僕も抱きしめ返す。
「俺が湊の帰る場所になるから……湊も俺の帰る場所になって」
「何それ……プロポーズみたい」
「みたいじゃなくて、プロポーズだよ」
「うん、なるよ……帰る場所に」
僕たちはお互いの目を見て、微笑んで見つめ合う。僕が背伸びをすると、彼は少し屈んでくれた。
当たり前のように、僕たちは軽く唇を重ねていた。まるで結婚式の誓いのキスで、いつか本当にできたらいいなと思った。
「約束して、もう二度と……俺以外と嘘でも、付き合っていることにしないで」
「えっ?」
「返事は?」
「はい……肝に銘じます」
その時の彼の笑顔は、少し怖かったけど嫉妬しているように見えた。それから僕たちは、手を繋いで歩き出す。
もう、なんなのこの人……いい加減にしてほしい。優しく手を引いてくれて、僕の歩幅にも合わせてくれる。
カッコよくてスマートなのに、電柱にぶつかって痛いって言っていた。この変に天然っていうか、抜けている時があるんだよね。
――――可愛い。
「痛い……」
「大丈夫? おでこ、赤くなっているよ」
うずくまって痛がって涙目の彼が、マジで可愛くてキュンとしてしまった。おでこに触れてみると、少し熱を持っているようだった。
僕は近くの自販機から、水を買ってきておでこに当ててあげた。ほんとは薬局とかがいいんだろうけど……。
この涙目で見つめてくる人を、放置したくないから。僕が同じ目線で微笑んでいると、嬉しそうにしていた。
「もう、大丈夫ですよ」
「よかった。次は花楓が、行きたいとこに行こ」
「では行きつけの、お店に行きましょうか。お昼も兼ねて」
おでこが赤いままの彼に腰を支えらえて、体を密着させて見つめながら歩き出す。
周りからの視線が少し痛かったけど、気にせずに自分たちの世界に入る。
電車に乗ったことがないらしく、乗ってみたいらしい。それで駅前まで戻って来たんだけど、切符を買わずに入ろうとしたから止める。
「電子マネーとか、持ってるの?」
「電子マネー? それが必要なんですか?」
「……切符を買おうか」
僕の言葉に不思議そうに頷いて、着いてきて切符を買う。忘れてたけど、この人御曹司だった。
カフェも慣れていないし、電車にも乗ったことがない。一般人の僕には分からない感覚なのかな?
でもなんとなく、寂しいような表情をしているのが気になった。彼の心の中は、分からないけど誕生日にそんな顔しないでよ。
気がつくと電車を待っているホームで、僕は彼の頬を触っていた。彼も僕を見て微笑んでいて、そんな時に電車が来た。
そこで僕たちは目を合わせて、笑い合ったけど……周りからの視線が、痛かったけど気にしないことにする。
「電車来たから、乗るよ」
「あ、はい」
電車の中に入ると何やら、辺りをキョロキョロしている。どうしたのだろうと、思っていると小首を傾げながら言う。
「椅子はないのですか?」
「……はあ、ないよ」
「? そうなのですか」
不思議そうに聞いてきて、マジで可愛い。僕たちはドア付近で立っていたんだけど、しっかりと支えてくれていた。
当たり前のようにしてくれていて、通常運転でこれって……モテまくっているんだろうな……。
次の駅に着いた時に反対側から、大量の人が乗り込んできた。そのせいで、壁ドンみたいな感じになった。
「どうしました?」
「な、なんでもない」
必然的に目が合ってしまって、僕は思わず目を逸らしてしまう。そんな僕の気持ちを、知ってか知らずか耳元で囁く。
前言撤回……この人完全に僕を弄って遊んでる。肩で息をして笑っていて、ほんとにタチが悪い。
周りからの視線が痛い……そう思っていると、こっちを見ている透真と律さんと目が合った。
完全に死んだ魚のような目をしていた。僕は急激に恥ずかしくなって、次の駅で手を引いて降りる。
「どうしたんですか? 湊さん」
「いいから、来て……」
僕は何も考えずに駅から出て、歩き出すとニコニコ笑顔で着いてきた。もう恥ずかしすぎて、顔から火が出そうだよ。
そう思っていると、突然路地裏に引き摺り込まれた。僕が困惑していると、体を密着させてきた。
顎を持ち上げられて、支えられていた。もう……またいじって来たのかと思ったけど、顔を見ると真剣に僕のことを見つめている。
「さっき、電車の中に金城さんご夫夫がいたね」
「なっ! 気づいて」
「クスッ……可愛くてつい」
そう言って笑っていて、いつもなら可愛いで済むんだけど。なんか、ちょっとイラっとしてしまった。
僕は体を跳ね除けて、ツカツカと何も言わずに歩き出す。後ろからニコニコ笑顔で、僕の後ろを着いてくる。
その様子をちらちら見て、可愛かったけど……なんか、腹が立ってしまった。そんな時だった、急に腕を引かれて抱きしめられた。
「危なっ……だいじょ」
「か……えで」
引っ張られて直ぐに、自転車が爆速で通り過ぎる。助けてくれのか……僕がそう思って上を見上げると、みるみるうちに彼の顔が真っ赤になっていく。
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