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第62話 うさぎ

 早いもので僕の誕生日近くなった。結婚式について彼に聞いてみたら、用意するから待っててと言われてしまった。  結婚式のサプライズって、意味が分からない……とは思いつつも、僕のために段取ってくれている。 「楽しみに待ってよ」 「何が?」 「北海道、楽しみだなあって思って」 「そうだな」  僕たちは今、北海道行きの飛行機に乗っている。僕の誕生日に、札幌に旅行することになったのだ。  久しぶりの北海道で、彼とは初ということで必要以上にはしゃいでいた。案の定というべきか、僕は完全に飛行機に酔っていた。  彼に肩を貸してもらって、目を瞑っていた。一時間半とはいえ、中々に辛い……頭を撫でてもらい、柑橘系の香りもあってか少しマシになった。 「そういえば……新幹線は酔うのに、飛行機は酔わないんだね」 「まあ、海外に行ったり出張で乗ったりするから慣れた」  なるほど、そういうもんか……そんな感じで、まったりしていると着陸のアナウンスが流れた。  僕は体勢を整えると、彼に微笑まれて手を繋がれた。僕たちは立ち上がる時まで、見つめ合っていた。 「さて、行くか」 「うん、楽しみ」  人が少なくなってから、僕たちはゆっくりと飛行機から降りた。荷物を受け取ってから、僕たちは一旦ホテルに行くことにした。  タクシーでホテルに向かって、荷物を預ける。外観だけでも、かなり豪華なホテルであることは明白だった。 「こんな豪華なところに、泊まれるの!」 「ああ、湊に喜んでくれると嬉しいな」 「嬉しいよ! 夜が楽しみだね!」 「……夜ね」  僕がはしゃいでいると、彼が意味深にニヤリと笑っていた。夜ご飯が楽しみだねって、意味で言ったんだけど……。  絶対、変な意味で捉えられたような気がする。まあいいや、細かいことは気にしないでおこう。 「どこに行くの?」 「雪まつりっていうのが、やってるんだ」  聞いたことある……確か雪像とか、氷像とかを作って展示しているんだよね。それにしても、北海道は東京とは違って一面雪景色で綺麗だ。  手を繋いで首には、彼に貰ったマフラーを巻いている。暖かくて、寒さなんて吹っ飛ばせるような気がする。 「うわあ! 凄い」 「これは圧巻だな……夜には、ライトアップされるから」 「見たい!」 「ホテルから、見れるよ」  夜のライトアップされた銀世界か、幻想的なんだろうな。楽しみだなと思って、僕たちは他の雪像を見て回る。  アニメや映画などの、有名なキャラのもあって楽しめた。芸術的で細かくて、尊敬出来ると思った。 「初めて見たが、凄いな」 「日本人ならではって、感じがするよね。職人みたいな」 「確かに、職人芸だよな」  雪まつりを堪能した僕たちは、電車で次の目的地へと移動する。動物園に行くとのことで、僕はウキウキワクワクしていた。  ちょうどよく、席が一人分空いていたから座る。目の前には、優しく微笑んでくれている彼がいる。  僕たちは目的の駅に着くまで、見つめ合っていた。そこで僕は、気になったことがあった。  それは結婚したから、彼ではなく他の呼び方にするべきだろうか……んー、まあいいか。  時間はたっぷりあるんだし、無理に変える必要もないよね。駅に着くと彼に、手を差し伸べられたから手を取って降りた。 「行こうか」 「うんっ」  電車の中は暖房が効いていて、暖かかった。やっぱ、外は寒いな……でも隣に彼がいてくれるから、心がポカポカしてくる。  僕は彼の腕に抱きついて、目を見て微笑んで歩き出す。動物園に行くと、土曜日だからか混んでいた。  まあでもこうして、待つのも旅行の醍醐味だよね。そこで気になったことが、あったから聞いてみる。 「動物園に、来たことある?」 「仕事の接待ではあるな」 「なるほど、じゃあ楽しめないでしょ」 「まあな、実質今日が初めてだな」 「うんっ!」  自分たちの番になって、券を買って中に入っていく。人混みで混雑していて、僕たちは逸れないようにより一層強く体を密着させた。  一月の札幌は思っていたよりも寒くて、身震いしてしまう。それでも彼が隣で、笑っていてくれるから暖かく感じてしまう。  最初はカバやシマウマなどの、アフリカの動物たちを見る。寒い中、ひっついていて可愛かった。 「湊〜、寒いから、ひっつく」 「動物と同じだね」 「え〜なんの動物」 「ナマケモノ〜」  そんな感じでくっついてくる彼が、可愛くて頭を撫でてあげる。マジで可愛くて、甘えさせたくなってくる。  それはいいとして、流石に重たいから止めてほしい。温かいからいいけどね……とはいえ、完全に周りから好奇な目で見られている。 「人混みが多いから、進もうか」 「そうだな」  上手く誘導して先に進むと、更に動物たちが見えてくる。フラミンゴやキリンなど、様々な綺麗で優雅な動物がいた。  次に爬虫類館に行くと、暖かくて腕を組むのを止めた。少し寂しいと思いつつも、手を繋いで見始める。 「蛇とかがいるね」 「デカいな……ふむふむ」  マジマジと真剣に見つめている彼が、子供みたいで可愛い。だけどね……水族館でも思ったけど、自分の体の大きさを考えようよ。  周りの子供達や他のお客さんが、見れないじゃん。僕は彼が大変な思いを、してきてるのを知っているけど……。  他の人はそうじゃないんだから、僕は適当なところで彼の手を引いて歩き出す。渋々着いてきたけど、見足りないのかチラチラ振り返っていた。  その仕草や行動が、普段とのギャップで僕はやられていた。なんでこの人、こんなに可愛いの?  タッパがあって、イケメンなのに……爬虫類を真剣に見るとか、どこまで可愛ければ済むのだろうか。 「湊、どうした? あんまり、急ぐと転ぶぞ」 「だいじょ……うわっ!」 「ほら、言っただろ」 「うん……ありがと」  僕が周りを見ずに歩いていると、転びそうになった。すかさず、僕を後ろから抱きしめる形で助けてくれた。  助けてくれたのはいいんだけど、めっちゃ周りからガン見されている。まるでバカップルみたいじゃん。  そう思った僕は、再び彼の手を引いて歩き出す。何も言わずに、ニコニコして着いてくる彼が可愛く思えた。  爬虫類をひとしきり見終わって、僕たちは建物の外に出た。すると雪が舞っていて、寒くなってきて僕は両腕を擦る。 「寒いもんな。ほら、ちゃんとマフラーして」 「うん、花楓は?」 「俺は湊といれば、暖かいから大丈夫」  そんな甘いセリフを、微笑みながら言わないでよ。体が急にポカポカしてきて、熱を帯びてしまう。  急激に恥ずかしくなったけど、僕は転ばないように彼の腕を組んで歩き出す。彼は優しく微笑んでくれていて、更に体温が上昇していく。  動物に触れ合えるコーナーに行くと、うさぎの餌やりを体験することができた。彼が想像以上に、楽しでいるようだった。

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