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第63話 キュンとしてしまった
「うさぎって、飼えないのだろうか」
「どうなんだろうね」
真面目なトーンで聞いてくるものだから、僕も考えてしまう。すると飼育員さんに、説明してもらった。
「飼えないことはないですが、うさぎは体調管理が大変ですよ」
「……キツイか」
「うん、残念だけど」
本気で残念がっているから、僕は彼の頭を撫でてあげる。そこまで落ち込まなくても、いいのにな……。
なんでこの人、こんなに可愛いのだろうか……キュンとしてしまった。それから何枚も写真を撮って、満足した彼と次のエリアに向かう。
猛獣舎に行くと、ライオンやトラがいた。ただやっぱ、寒いようで縮こまっていた。寒くなってきて、両手に息をかける。
その光景を見た彼に、両手を包み込まれた。僕を見てにっこり微笑んできて、それがとても綺麗だった。
「花楓、もう大丈夫だよ」
「湊、寒い時は言えよ」
「うん、ありがと」
僕は彼と腕を組んで、残りのエリアも見て回った。ペンギンのコーナーに行くと、水族館での彼を思い出して笑ってしまう。
「どうした?」
「水族館で見たペンギン、可愛かったなって」
「湊の方が、可愛いだろ」
「もうっ、バカ……」
そんなことを、微笑みながら言ってくる……僕の頬は緩みっぱなしに、なってしまう。雪なんて気にならないぐらいに、体が火照ってしまう。
急激に、恥ずかしくなってしまった。そこでお昼になったため、僕たちはレストランへと向かう。
「お腹空いたね」
「ああ、何にするか」
土曜日だからなのか、午後二時でも混み混みだった。注文するのに、だいぶ待つことになるけどそれも醍醐味だよね。
並んでいる時に、僕たちは談笑していた。単なる世間話だったけど、彼となら何時間でも潰せると思った。
「そうだ。式の話だけど、六月でいいか」
「うん、いいね〜透真と律さんに、その……蒼介もいいかな」
「……湊がいいなら」
すごく不服そうにしていたけど、了承してくれてよかった。悩んだけど、やっぱ来て欲しいから。
親友であり続けたいから……身勝手かもしれないけど、これで疎遠になってしまうのは違うと思うから。
自分たちの番になって、ピザとカレーを注文した。料理ができるまでの間に、僕たちは空いている席へと座る。
「式だが湊側の親族席は、金城さん夫夫と小笠原さんと他に誰かいるか?」
「う〜ん、透真の両親は呼びたいな。最近会ってないけど、親代わりだし」
「そっか、分かった。人数の関係上、咲良と佐々木さんもいれるから」
「うん、分かった」
結婚式か……楽しみだなあ。自分が結婚するなんて、だいぶ先の話なんだろうなって思ってたのに。
彼と出会って一年も経っていないのに、早いもんだよね。そういえば、来月のバレンタインぐらいで一年だよね。
去年の僕の誕生日は、付き合ってなかったのに……人生って分からないものだよね。僕が彼の横顔を、見つめていると目が合った。
「どうした?」
「うん、去年の誕生日を思い出して」
「懐かしいな……湊を落とすのに、必死だった時だ」
そんなことを爽やかな笑顔で言うのは、止めて欲しい。カッコよすぎて、直視できない。
僕がそう思っていると、料理が出来たようだった。彼は上機嫌で鼻歌まじりで、撮りに行った。
僕を落とすのに、必死だったって……こんな周りに人がいる状態で、言うのは恥ずかしいから止めてよ。
周りから好奇な目で見られることは、慣れてきたから……いいけど、自分の顔が真っ赤になっていることは明白だった。
「持ってきたよ」
「あっ、うん」
マルゲリータと、カツカレーが来ていい匂いがした。半分ずつシェアすることになって、まずはピザから食べることになった。
口いっぱいに広がるチーズが、濃厚でほっぺが落ちそうになった。そこで彼からの、視線に気がついた。
「どうしたの?」
「美味しそうに、食べるなって」
「美味しいよ。はい、あ〜ん」
僕が口元にピザを持っていくと、パクリと食べていた。口に含んでモグモグしていて、やっぱリスみたいで可愛かった。
しかし次の瞬間、僕の指をペロリと舐めてきた。僕が反射的に睨むと、クスクス笑っていて可愛くなかった。
「もうっ、変なことしないで」
「湊が可愛くてつい」
「……もうっ」
甘い声と顔で言われたら、怒るに怒れないじゃん。ほんとこの人は、分かってやってるからタチが悪い。
僕たちはそれからも、談笑しながら食事を済ませた。お土産コーナーに行き、色々と見て回る。
彼が一生懸命何かを見ているなと思っていると、うさぎのぬいぐるみだった。そんなに真剣に見なくても、欲しいなら買えばいいのに。
そんなにうさぎが欲しかったのか。意外と可愛い一面もあるよね。僕がクスッと笑って見ていると、少年のような顔で聞かれた。
「このピンクか、クリーム色のとどっちがいい?」
「う〜ん、ピンクかな」
「なるほど、ピンクにしよう」
本気で悩んで結論が出たみたいで、上機嫌でレジに向かう。そんな彼を僕も追いかけて、うさぎのぬいぐるみを買った。
動物園を出て、僕たちは当てもなくブラブラとしていた。うさぎのぬいぐるみが、よほど気に入ったのか上機嫌だった。
鼻歌までしていて、嬉しそうな彼を見て僕もニコニコしていた。そこで屋外の、スケートリンクを発見した。
「スケートだ。花楓、やろうよ」
「ああ、まあいいぞ」
「経験は?」
「まあ、一通り」
煮え切らない態度の彼が、少し気になったけどスケート場へと足を運ぶ。ちょうどいいサイズのスケート靴を借りた。
靴の履き方が分からない彼を、不思議に思いつつも履かせた。なんか嬉しくなってしまった。
いつもは、やってもらっているのに今は彼のお世話をしている。それが無性に、嬉しくなってしまった。
「さあ、行こうよ」
「ああ、そうだな……」
乗り気じゃないのかな? でもそうなら、言ってくれると思うんだけど……煮え切らない態度の理由は、直ぐに判明した。
「うわあああ! 退いて!」
「花楓! 落ち着いて! 止まって!」
「止まり方が、分からない!」
お察しいただけただろうか……スケートの経験が皆無らしく、滑れないどころか止まり方も分からないらしい。
僕は必死に追いかけるけど、適当な滑り方をしているため追いつけない。周りに人がいて、危ないからなんとか止めたいけど。
そう思っていると、壁に激突して転んだ。その際に、左の手の甲を少し擦りむいてしまった。
「とりあえず、ここのベンチに座ってて。薬局で、薬と包帯買ってくるから」
「……面目ない」
シュンとしている彼に、ハンカチを渡した。僕はニコリと微笑んで、その場を後にした。
薬局に行って必要なものを買って、彼のいるベンチに向かう。はあとため息をついて、意気消沈していた。
「花楓、手見せて」
「ああ、うん」
僕が消毒液をかけると、痛そうに顔を顰めていた。少しだけど、血が出ていて少し気分が悪くなる。
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