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第72話 水も滴るいい男
「……花楓ってたまに、人の話聞かないよね」
「そうか?」
不思議そうに答えていて、なんか可愛くて笑ってしまう。そんな僕を見て、彼も笑っていて夕陽に照らされて綺麗だった。
彼に腰を支えられて、愛おしそうに見つめられる。僕は彼の首に腕を回して、背伸びをする。
彼はフッと微笑んで、しゃがんでくれた。優しく触れるだけのキスをして、僕たちは見つめ合った。
それからゆっくりと歩いて、ホテルへと向かう。部屋に入って、急激な眠気に襲われる。
「ふわあ〜眠い」
「寝る前に、風呂入ろう」
「うん、洗って〜」
「はいはい」
僕たちはお風呂に入って、彼に甘えまくる。浴槽に入って後ろから、抱きしめられていた。
眠くなってきて、こくりこくりと船を漕いでいた。そんな僕を見て、彼が支えてくれていた。
「時差ボケがあるから、眠いよな」
「ん……眠い」
彼の言葉に頷きつつ、半分寝てしまっていた。目を擦って欠伸をしていると、彼に体を持ち上げられた。
「このままだと危ないから、上がるか」
「んっ……」
それから半分寝ている状態で、彼に色々としてもらった。着替えさせてもらって、髪を乾かしている間も完全に寝ていた。
ベッドにお姫様抱っこで運ばれて、寝かされて頭を撫でられる。気持ちよくて、その手に自分の手を重ねる。
「おやすみ」
「おやす……」
気がつくと寝てしまったようで、目が覚めると彼の胸板が見えた。なんか急に、恥ずかしくなってしまった。
変なこと言ってないよね……眠すぎて、あんまり覚えてないんだけど。そんな時だった。
彼のスマホのアラームが鳴り響いて、目が覚めたようだった。目が合って恥ずかしくなって、目を逸らしてしまう。
「おはよう。ゆっくり寝れた?」
「あっ、うん……外暗いけど、もう起きるの?」
「これから有名な日の出を見にいくから」
日の出か……僕はよく分からないけど、彼に言われて着替えることにした。眠たい目を擦って、僕たちはタクシーに乗りこむ。
ホテルから十分程度で、スポットに着いたようだった。タクシーから降りて、ハワイとはいえ少し肌寒く感じた。
すると彼は何も言わずに、僕に上着をかけてくれた。僕と同じように寒いはずなのに、ニコリと微笑んでくれている。
僕は彼の腕に組んで、見上げて微笑む。身を寄せ合って近くの、石に腰掛ける。ゆっくりと、日の出を鑑賞する。
「綺麗」
「ああ……綺麗だ」
僕たちはお互いの目を見て、微笑んで自然にキスをしていた。毎度のことながら、僕たちは日の出を全く見てなかった。
しばらくしてから、僕たちはホテルに戻って朝食を食べる。バイキング形式で、それぞれ好きなものを取る。
「昨日。結構お腹いっぱいに、なったのに空くんだね」
「あるあるだよな」
日本食が多めで、よかったと思っていた。海外に行くと日本食を、食べたくなってくるから。
帝財閥の取引先ってことで、日本人が多いもんね。数人知ってる顔がいて、僕も彼も何度も会釈している。
知り合いが多いから、なんか急激に恥ずかしくなって来た。僕がため息をついていると、口にスクランブルエッグを入れられた。
「美味か」
「うん、美味しい」
「ならよかった。今日は色んなとこ行くから、しっかりと食べて」
「うん、分かった」
僕たちはいつもの通りに、イチャイチャしていた。周囲から見られているけど、僕らが新婚旅行中なのは分かるだろうから。
気にしないことにしよう。楽しく朝食をし終わって、僕たちは一旦部屋に戻ることにした。
「海行くの?」
「ああ、昨日買った水着に着替えて」
「うん、分かった」
着替えようと服を脱ぎ始めると、彼がこっちを見つめていた。着替えづらい……ため息をついて、彼を睨むとニコニコしてた。
気にしないことにして、僕は着替え始める。彼も着替えていたみたいだけど、その間も僕のことを見つめていた。
食い入るような目線を気にせずに、僕はビキニを着る。すると後ろから抱きしめられて、僕が持ってきた海パンを穿かされた。
「穿く必要あるの」
「ビキニ姿で、行くつもりか? 誰にも見せない」
「自分が選んだんでしょ」
「……いいから、穿いて」
耳元で囁かれると、体がビクンと反応してしまう。僕耳弱いんだから、止めてよ……。体が熱くなってくるのが、分かって恥ずかしくなってくる。
仕方ないから黙って穿くと、嬉しそうに微笑んでいた。もうっ……たったそれだけで、愛おしそうに見ないでよ。
「そろそろ、行こうよ」
「ああ、だな」
僕たちは上着を着て、腕を組みながら海へと向かう。その道中、僕は気になったことを聞いてみる。
「花楓は、泳げる?」
「まあ、人並みには」
「僕苦手だから、少し不安」
「大丈夫、俺がいるから」
目を見て微笑んでくれて、それだけで大丈夫だと思える。海に行って浮き輪を、買ってもらった。
思っていたよりも、人混みが多くて人酔いしそうだった。僕がそんなことを思っていると、パラソルを準備してくれていた。
「いつの間に……」
「湊がくつろげるように」
「ありがと」
パラソルの中のビーチベッドに、座って見つめ合って微笑む。そこで僕が上着を脱ごうとすると、彼に声をかけられた。
「後ろ向いて、日焼け止め塗るから」
「自分で塗るよ」
「いいから、後ろ向いて」
僕が素直に後ろを向くと、日焼け止めを塗ってくれた。少し冷たかったけど、丁寧に塗ってくれていた。
少し体を密着させてきて、お腹の方も塗ってくれた。耳元で囁かれて、体が急激に熱くなってしまう。
「もうこの辺でいいかな」
「う、うん……もういいよ」
ふふっと笑って、日焼け止めを塗るのは終わったようだった。後ろを向くと、嬉しそうに笑って自分に日焼け止めを塗っていた。
もうっ……ほんとに、僕のこと揶揄って遊ぶのが好きなんだろうね。僕が立ち上がって、浮き輪を持って海の方に向かう。
すると直ぐに彼が追いかけてきて、腰を支えられた。そのまま海に向かって、浮き輪を使って入る。
「ゆっくりね」
「うん……離さないでね」
「もちろんだ」
久しぶりに泳いでみたけど、体が覚えていたみたい。彼と一緒に泳いでみると、楽しくて時間を忘れて泳ぐことができた。
それでもふと、右脇腹にあるあの時の傷に目が行ってしまう。一生残る大きくはないが、深くて目立つ傷。
この傷を見る度、胸が張り裂けそうになってくる。それでも彼が笑っていてくれるから、泣かなくて済んでいる。
彼が濡れた髪を手で上げていて、水も滴るいい男だなと見惚れていた。するとクスッと笑って、次の遊びを提案してくる。
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