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第86話 帝湊
「湊、受付済ませたよ」
「うん、ありがと」
僕は隣に座った彼の肩に頭を乗っけて、柑橘系の香りに癒されていた。この香りを嗅ぐと、少し和らぐから不思議だ。
そんな感じで目を瞑っていると、名前を呼ばれて目を開ける。まだ若干慣れていない名前で、呼ばれて少し嬉しくなった。
「帝湊さん。帝さん」
「はい、ここです。立てるか?」
「うん……大丈夫」
彼に腰を支えてもらって、診察室へと向かった。椅子に座って診察を受ける。特に問題がないらしく、先生がう〜んと考えていた。
「もしかして……気持ちが悪いのは、病気じゃないかもね」
「そうなんですか……うっ」
「湊……病気じゃないとは、どういうことですか?」
先生の言葉を聞いて僕は問いかけるけど、気持ち悪くなってしまう。彼が背中を摩ってくれたから、少し和らいできた。
先生に言われて僕たちは、産婦夫人科に来た。ここってことは、もしかしなくても……妊娠したってことかな?
もしそうなら嬉しいな……そう思って顔を見上げると、彼も僕を見て微笑んでくれた。看護士さんに言われて、尿検査用の尿を採取した。
診察台に寝て、特殊なジェルをお腹に塗られた。くすぐったくて、笑いそうになったけどグッと我慢する。
「帝さん、この画面を見て下さい。少し小さい影が、写っていると思うのですが」
先生に言われて画面を見ると、小さい影が写っていた。この小さい影が赤ちゃんなのかな。
彼を見ると優しく微笑んでいて、安心できて微笑んでしまう。それから起き上がって、椅子に座って先生に注意事項を伝えられた。
「男性のΩですと、帝王切開が主流になります」
女性とは違い、お腹が大きくなりにくい人が多いらしい。見た目的に分かりづらいため、色々と大変な思いをするらしい。
タバコやお酒は禁止と言われたけど、僕は元々吸わないし。彼も吸わないから大丈夫そう。
ただお酒を飲まないのは、少々辛いかもしれない。でもお腹を摩ってみる。お腹の中にいる子を、守るためだもんね。
「七月の現在で、四週間ぐらいなのですが、Ωの男性だと早い人だと八ヶ月の方もいます」
もし早かったら、来年の二月ぐらいになるのかな。少し怖いけど、彼となら乗り越えていけると信じてる。
それからも色々と注意事項を聞いて、今日は仕事を休ませてもらうことになった。彼も仕事を休むと言っていたけど、社長は行かないとね。
「大丈夫だ。湊の方が優先だ」
「これから何かある度に、僕を優先したら困るでしょ。嬉しいけどさ、咲良さんにばかり負担かけれないでしょ」
「……分かった。でも、何かあったら連絡してよ」
家に帰ってきて彼が、行きたくなさそうにスーツに着替えていた。僕は可愛く思えて、ネクタイを結んであげた。
すると優しく微笑んで、おでこにキスをしてくれた。そして出かけようとしたから、僕は彼の頬に優しくキスをした。
「行ってらっしゃい」
「ただいま」
「まだ、玄関から出てもいない」
僕が声をかけると直ぐに、振り返ってきたからツッコんだ。すると少し不貞腐れて、口を尖らせていた。
しかし直ぐに笑顔になって、優しく抱きしめてきた。そして振り返って、玄関から外に出た。
「行ってらっしゃい」
「行って来ます」
今度こそ出勤してしまって、送り出したのはいいけど……少し寂しい気持ちになった。物凄い眠気に襲われて、僕はソファで少し仮眠をとることにした。
気がつくと寝てしまったようで、いい匂いで目が覚めた。目を開けると彼が鼻歌を歌って、料理をしていたようだ。
もう帰って来たの? と思って、リビングの時計を見ると既に七時になっていた。どれだけ寝てたんだろう。
起き上がろうとすると、薄手の毛布をかけてくれていた。僕は嬉しくなって、彼の後ろ姿を見つめていた。
それから早いもので、一ヶ月が過ぎようとしていた。そこで僕と彼は、透真と律さんを家に招待した。
「湊が妊娠か……俺も孫と子供ができるのか」
「何言ってんの……この人」
会話から分かるかもだけど、律さんも同じぐらいのタイミングで妊娠したらしい。ほんとにおめでたいし、吉報だけど……。
透真はガチ泣きしながら、おいおいと泣いている。律さんがドン引きしてたけど、彼は全く興味がないらしく僕に食べさせてくる。
この光景を、見慣れてきたような気がする。でもこれから、この四人で家族みたいになれるといいな。
「湊、あ〜ん」
「自分で、食べれるよ」
「お腹の赤ちゃんにも、食べさせないと」
そう言われたら、何も言えないじゃん。大人しく食べさせてもらって、モグモグする。
彼の作ったご飯は、最高だから美味しい。あっ、今お腹が動いたような気がする。僕はそう思って、彼に言ってみた。
「今、動いたよ」
「へえ〜もう動くのか。段々と大きくなってきたもんな」
「うん。Ωの男性だと、分かりづらいらしいけど。結構分かるもんだね」
僕たちはそんな感じで、ゆるっと談笑していた。そして今日呼んだのは、とあることがあったからなんだよね。
「あのさ、二人はもうベビー用品って買った?」
「あー、明日にでも買いに行こうかと思ってたぞ」
「それならよかった。実はさ……」
妊娠したことを彼がお義父さんに伝えた。その時、我が事のように喜んでくれたらしい。
初孫らしく、お祭り騒ぎだったらしい。あのお義父さん、彼のことガチ目に溺愛してるからね。
それからしばらくして、大量のベビー用品が送られてきた。
ベビーカーとか、授乳グッズなどが五つぐらい入っていた。紙おむつなどの消耗品や、服なども大量に入っていた。
まだ性別も分からないのに、送られてきても……嬉しいし、有難いけど……そう思った僕たちは、二人にお裾分けすることにした。
「流石にこんなにベビーカー、使わないからさ。二人に必要なもの、あげようかと」
「嬉しいけど、社長……いいんですか、貰っても」
「いいですよ。無駄になるのも、よくないので。父からは了承を得てます」
「お言葉に甘えて、貰います」
そんな感じで話していたんだけど、ずっと疑問に思っていたことがある。いつまで敬語で、話すつもりなんだろう。
これから何十年ってこんな感じで、お互いの家に行き来するだろうし。助け合ったりもするよね。
馴れ馴れしくする必要もないけど、もう少し肩の力抜いてもいいんじゃないかな。そう思って、僕は思ったままに口に出した。
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