慌ただしい日々が北風のように過ぎて行き、大晦日になった。ピースデパートもピース書店も今日の大晦日と明日の元日は休みだ。冬心は相変わらず6時に起きて、一昨日買ってきた野菜を取り出し、野菜炒めと味噌汁を作る。 冬心が幼い頃、祖母は特別養護老人ホームの調理室で働くために、朝5時に起きて家を出た。そのせいで祖母は今でも早寝早起きの習慣がある。その祖母のため、冬心も朝ご飯を早く準備するようになった。 スマホでフランス語のニュースを聞きながら手際よく料理をする。冬心は語学力が非常に優れていた。そのことで2学期の初めにジャンダ教授からフランスの交換留学を勧められた。でも、祖母のことが心配で来年に考えますと言って断った。 フランス人のジャンダ教授はヒンヤリした北風に吹かれてピース大学に出た。大晦日で静まった校庭と違って、図書館は勉強好きな学生たちで満席だった。49歳の独身のジャンダ教授はフランスロイヤル大学を卒業し、ピース大学の大学院で古代文芸コースの博士を取得した後、ピース大学で長年、フランス語の作文と文学を教えている。 世界から優秀な人材が集まった仏文学科の1年生の50人の中、並外れた冬心の才能は開講後1か月も過ぎない内に、教授たちや学生たちを驚愕させた。教授たちは成績優秀者奨学金をもらって首席で入学する冬心の噂を聞いていたので、学期初から注目した。皆は揃ってやっぱり只者じゃないと強く感心した。 それで、ジャンダ教授は冬心の才能を確認したく、冬心だけに昨年フランスの文壇で話題になったフランス歴史の理屈論を渡して読んで感想文を書いてくるように頼んだ。冬心は二日後、30枚のA4用紙で感想文を書いて来たから、ジャンダ教授は肝を潰した。1000ページの長文をどうやって早く消化したのか疑問だった。ジャンダ教授は丁寧に冬心の感想文を読んで深い思考力と博識に深く感銘を受けた。 ジャンダ教授はフランスロイヤル大学の恩師であるアーラン教授に冬心の感想文をスキャンして送った。一週間後、アーラン教授からフランスで一番難解といわれるベルメルドンの100年の孤独な戦争を冬心に読ませて批評を聞きたいとのメールが来た。ジャンダ教授は冬心を呼んで長編の5冊の100年の孤独な戦争を渡し、この本を読んで感想を書いてくれるかを訊いた。冬心は目を丸く開いてその本は高校の時に既に読みましたと言った。ジャンダ教授は成人のフランス人でも読み難しいこの本をどうやって日本人の高校生が消化したのかとまた吃驚した。さらに、冬心はバイトの時間まで少し時間が空いているので、今からすぐ図書館に行って感想を書いてくると言った。1時間後、冬心は37ページの立派な感想文を持って来た。 ジャンダ教授はすぐにその感想文を読んでアーラン教授にメールで送った。3週間後、アーラン教授から電話が来た。アーラン教授はフランスのテレビ番組『文学と散策』に出演して冬心の批評を紹介したら、反応が凄かったと言った。ぜひ、冬心がフランスロイヤル大学に来て一緒に討論したいとも言った。 それで、2年生から申請可能な交換留学を特別に1年生の冬心だけに斡旋したが、冬心は家庭事情があると言って断ったのだ。 さらに、冬心から小学生の頃から詩や小説を書いており、フランス語で書かれた小説もあると聞いたジャンダ教授は、ぜひ読みたいと頼んだ。冬心が高校1年生の時に書いたその小説は、ジャンダ教授の感性と知性を心底から打たれた。題名はnoir et blanc（黒と白）で、中世時代のヨーロッパの時世と恋愛の物語で、2000ページもあった。 ジャンダ教授は冬心を説得して8月のフランスブーゴー新人作家コンテストに冬心の作品を応募した。これはフランスだけではなく、世界で有名なコンテストで、フランス文壇に出られる始発点なのだ。結果発表は来年の2月26日、ブーゴーの誕生日だ。 冷たい北風はやみ、きらきらと躍る光の粒子がシルクのスカーフのように広く空気を包んでいて、穏やかな冬景色を醸し出している。開けた大きな窓からはアオジの清らかな鳴き声が心地よく聞こえる。 ジャンダ教授は冬心の期末作文テストを精読し、胸が熱くなった。5年前、恋人のパイロットだったポールが事故で亡くなり、無味乾燥な日々を送っていたが、今年、冬心に出会って胸をワクワクと躍らせた。冬心は今まで探していた自分の本物の弟子にしたい学生だった。 本と書類で山積みになっている机上の写真の中、パイロット制服の笑顔のポールが光のレースに包まれて素敵に輝いている。 元日、新しい年を迎え、世の中はウキウキと希望を抱く人々の朗らかなエネルギーで満ちている。冬心と祖母は朝飯を済まして、歩いて15分位の星空神社に初詣に行く。 星空神社は日本初のオメガだった天金星大御神を祀る日本最古の神社で、縄文時代に建てられたという記録が日本時代史に残っている。星空神社は既に参拝者で賑やかに波打っていた。祖母と冬心は新年のお祈りを捧げてから、気持ちよく星空町中を散歩する。 天命は朝早く、会長で祖父の宇宙太陽を筆頭にピースグループの役員たちと共に月道神社に行って初詣をした後、祖父の邸宅で親族皆で集まって朝食を取っている。インテリジェントで品格がある人々なので、食事のマナーは厳しいのだ。 「天命、京香とはいつ婚約するの」 贅沢で豪華な食材が詰まったお節料理で豊富なテーブルを囲んでいる皆は静かに食事をしていたが、その静けさを破って上品に着られた叔母が口をそっと開く。 「春過ぎがいいと思います」 天命の婚約話が火種になって話が盛り上がっていく。 「そうだ、4月くらいがいいじゃないか」 口数少ない叔父も話に乗る。 「少し、付き合ってみたいです」 「付き合う時間って必要ですか。 お互いに知り尽くしているから、早く結婚したらいいでしょ」 素っ気なく言う叔母に天命は無表情に唇だけ上げて微笑む。 「明日、デートですので、ご心配なく」 静かに食事をしていた気品のある祖母の宇宙秀子が重い口を開ける。 「天命、急がないでね。本当に好きな人と結ばれてほしいのよ」 天命は口を大きく開けて笑いながら言う。 「心遣い、ありがとうございます」 イセエビを美味しく食べた天命の父親の宇宙天誠が手をおしぼりで拭きながら口を出す。 「以前、橘から話は聞いていたが、未だに冬心の面倒を見ているのか」 「はい、これからも面倒を見るつもりです」 天命がすぐに答えた。 「じゃ、その珍しいオメガが好きですか」 女優出身の奇麗な伯母の甲高い声が天命の耳を障る。 「はい、好きです。それで面倒を見ています」 「じゃ、京香は何よ。そのオメガ、冬心が好きなら冬心と結婚したらいいでしょ」 叔母は鹿のような目を大きく開いて言った。叔母はお金持ちのお嬢さんだったので、甘えん坊な性質がある。 「そう簡単じゃない。明星がしたこと、忘れたか」 いつもは大人しい叔父が珍しく嫌な目付きで叔母を睨んだ。 「明星は若かったから咄嗟に非行もしたと思います。今は改心して勉強熱心です。もう、許してもいいでしょう」 自分の息子を庇う叔母に対し、天命はムッとした。 「でも、重い罪を犯したことは変わらない。 特に、被害者が未だに後遺症の潔癖症で苦しんでるぞ。 被害者の気持ちも考えなさい」 叔父の辛辣な発言で、天命の詰まった気持ちが少し緩くなった。 「でも、完全にやったことじゃないでしょ。 冬心に補償もしたし、明星も反省しているのでもういいでしょ」 叔母の厚かましい言葉で、天命の堪忍袋の緒が切れた。 「完全にやっていないって何の意味ですか。明星は挿入もして、冬心の貞節を汚した。世界で唯一の極優性オメガです。日本の法網は運よく逃がしたが、世界の法網はそう単純ではない。壁に耳あり障子に目ありというんでしょ。明星を許すことはできません」 語勢を強くして言う天命の確執な発言で、部屋はシンと静まり、重い雰囲気になった。 食事を終えた貫禄のある祖父は、天命に向かって優しく言う。 「冬心の面倒を見てくれるのはいいんだ。いい子だからずっと気の毒だった。一生かけても償いきれない。でも、結婚はだめだ。同じ屋根の下で加害者と被害者は一緒にいられない。冬心は日本で300年以上君臨しているピースの唯一無二の欠点であり弱点である。忘れるな。この秘密がバレたら、我々ピースの未来はないんだ」 食卓に囲んだ皆は重たい空気に飲まれ、頭を垂れる。 1月2日の朝、天命は京香の家を訪れ、新年の挨拶をした後、京香を連れて郊外の別荘に向かう。カラッとした冬晴れの日、彩雲が勿忘草色の透明な空を飾っている。 京香は長い黒髪を垂らし、薄ピンクのフリルワンピースに合わせて薄ピックのベレー帽を被り、丁寧に化粧をしている。ピンクのリップスティックがよく似合っている。 天命はラフなネイビー色のスマートカジュアルを着てサングラスをかけている。全部、ブランド品でオーダーメイドだ。直線のキリッとした眉毛、瞳がくっきりとした狭い二重で鼻筋が通っていて濡れたような艶がある薄い唇、黄金色に焼けた健康なつやつや肌、京香は天命のカリスマ性のあるハンサムな顔に見とれて無我夢中だ。 天命は運転しながら好きな食べ物、作家、映画、音楽、趣味、運動、ブランド等々、京香に質問攻めする。二人の共通点は好きなファッションブランドがルイスボトンとアルナニルのことだけだった。天命と同じく京香もブランド愛用者だ。京香は静かに天命の話を聞いているだけだ。 天命は自分の将来の宇宙事業の計画も熱心に語る。新しく開発している天光電磁波環境型人工衛星のことでマルセラ惑星を探索できると言われるが、宇宙やロケットなどに関して無知だった京香には理解し難い話だ。けれど、物静かな京香は微笑みながら熱心に傾聴する。 しつこいパパラッチを避けて郊外の別荘に行き先を決めたが、つきまとうパパラッチはまだいて、うんざりした天命は強くアクセルを踏む。 東京から離れた静岡県の別荘は木造軸組工法の伝統的な日本家屋で、広々とした日本庭園が素晴らしい。住み込みの使用人たちが6人いて、いつも奇麗に整えている。 門の前に管理人の中島を始め、5人の使用人が待っている。荷物を中島に預け、天命と京香はゆっくり庭園を見ながら居間へ入り、お茶を飲んで一息をつく。暫くしてキッチンから中島の奥さんの中島深雪が出てきて、挨拶をする。 「お待たせいたしました。お昼飯の準備ができましたので、どうぞ」 天命と京香はヒノキに飾られた古風で落ち着きのあるキッチンに入り、大きな食卓に座った。 「お口に合うか分かりませんが、よろしければお召し上がりください」 中島深雪はそれを言って、そっと奥の厨房に入っていく。食卓は日本各地から取り寄せた旬の食材で織りなされた料理の数々で彩られている。先に天命が箸を持って、筍とほうれん草の和え物を大きく取って食べる。それを見た京香も箸を持つ。静かに二人だけの食事の時間が始まった。 やっぱり京香は少ししか食べられなかった。でも、初めて会った時よりは少しは食べた方だった。秘書の橘から1月2日に天命と婚約者が訪れるとの託けがあった時から、中島深雪を含んだ使用人たちは緊張して手を尽くしていろいろと料理を準備しておいたのだ。 食事を終えた二人は2階の音楽室に入った。天命は大きな窓際にある大きなグランドピアノの前に座った。天命は大きくて長い指をリズミカルに躍らせてパッヘルベルのカノンを優雅に弾く。京香は微笑みながら天明の高雅な顔を見つめている。 冬らしく早く藍色に染まっていく空は、天命が風呂から出た時には勝色のカーテンが広げられていた。京香はお客部屋の浴室に入ったが、まだ出てこない。天命は大きな窓からギラギラと光る満天の星の宝石が眩しく、眉をひそめる。ソファに座ってブランデーの渋いウッディーな香りを楽しみながら、ゆっくりと飲む。冬心は今日から仕事かなどを考えながら、ゆっくりとブランデーを飲んでいる。 ノックがして、白いレースのドレスを纏った清爽な京香が入って来る。二人は今年5月5日に結婚することを話し合ったので、もう親しくなった。天命は京香に細かい泡が華やかに弾けて広がる薔薇の香りのスパークリングワインを渡す。京香も少しずつスパークリングワインを吟味する。 天命は京香の細い体を抱いてキスをする。京香の唇を舐めながら舌を入れて京香の舌を巻いて力強く吸い込む。京香は息を切れながら体を震える。天命は京香の小さなおっぱいを優しく愛撫する。 天命は京香をお姫様抱っこして隣の寝室に入って、京香を優しく大きなベッドに降ろす。京香は顔を赤くして全身を震えている。天命は容赦なく京香のドレスを脱がす。白くて薄ピックの細い体が震えるのが見えた。天命は京香のおっぱいを撫でて舐めながら片手で京香の今まで誰も触れたことのない太ももの間の無垢の陰地を愛撫する。 二人の息が段々熱くなり、京香は初めて経験する峻烈な感覚に飲まれていた。やっと、京香の陰部から愛液が出て、淡いラベンダーのフェロモンも部屋にほのかに漂う。 天命は大きく膨らんだ肉塊を京香の柔らかい薄毛の陰地に一気に入れる。京香が思わず嘆声を漏らして体を小刻みに震わせる。二人の初夜の愛のリボンはゆっくりと、でも激しく解けていくのだ。