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第3話
太古の昔からこの地球はアルファ、ベータ、オメガで構成されている。アルファは力強く戦闘的で戦争で功績を残し、国を導いて、オメガは繊細な感性で芸術で活躍し、美しい美貌でアルファのお番になった。有名な王族はアルファが多くて、そのお番としてオメガを迎えられた。
全体の20%だった形質者たちは時代の流れに煩悩されながら現代では約10%未満まで減っている。今は、全人類の中、アルファが6%位、オメガが3~4%で余りの90%がベータである。オメガは希有だったため、近世までオメガ狩りという制度があり、王様に献上するためにオメガを集める狩り班もあった。でも、日本は神道精神で、形質者を神の化身と見なして崇拝し、尊敬してきた。
だが、暗黒頂上の中世時代には黒死病や飢饉で苦しむ民衆の間でオメガの下り物が病気に効果があるとのデマが広がり、オメガ狩りに血が走ったことだった。貴族以外でオメガが発見されれば、高く売買され、形質子を宿らせてまた、その子を売買する悪風習もでた。オメガはデリケートな体質で無理やりな性交でできた子はなかなか出産が難しく死産や流産もあり、その結果、オメガの命をなくされる場合もあった。
1776年、アメリカではオメガ狩り反対運動に波のってオメガ人権保護法律が公布され、1789年、フランスではオメガを独占している貴族たちに反感が増して民衆が集まり、フランスオメガ革命が起こった。世界はオメガめぐり、戦争も多々勃発した。1807年、アフリカでは強制的なオメガ繁殖制度廃止と形質者貿易禁止令を出し、僅かな形質者を保護するため、動き始めた。その時代の波動の中、1945年、日本は WHRC(世界人権協力、World Human Right Cooperation) に加盟し、オメガなど、形質者の人権安全に努めている。
世界各地で絶滅危惧種のオメガ人権運動が盛り上がりを見せる中で、アメリカのクイーンズ牧師たちは首都ワシントンにおいて、リンダーのオメガ狩り禁止宣言100年を記念する大集会を企画した。アメリカの1963年8月28日に行われたワシントン大行進は参加者が30万人を超える大規模な集会で、著名な音楽家たちや芸術家たちなど多くの人々が参加した。その余波で日本でもオメガに対する法律を改善し、人道的な支援を図った。
世界の王系はアルファが占めており、日本の天皇系もアルファだった。近現代になり、オメガが減り、絶滅危惧種に定められて、オメガを探すのが難しくなった。昔なら、オメガは天皇系の嫁になる義務があったのだが、近現代に入っては、オメガの人権保護のため、オメガは自由意志で生活や結婚できるようになった。もう、法律でオメガを束縛するのは出来なくなった。
歴史をみれば、科学、天文界、スポーツ等分野ではアルファが活躍し、アインジュタイン、エジファー、ガリライなど世界を進化させた著名人たちがあり、音楽、美術、文学等分野ではオメガが貢献し、ダ・ヴィンラ、モーツァルル、ファン・ゴッロンなどが芸術界で花を咲かせた。世界は様々な試練と無知を乗り越え、徐々に調和と平和に向けて歩んでいる。
世界の大学ランキング3位に入っている日本の有名なピース大学では、ひんやりと澄んだ空気で燦々と光る太陽の光線が柔らかく噴射される中、生き生きとした学生たちで賑わっている。人文学部建物の前庭のお洒落なベンチでは冬心と愛子が暖かいコーヒーを飲みながら話の花を咲かせている。
「ふぁー 来週の期末のテストだけ終わったら冬休みだね。何か、計画あるの」
コーヒーコップを回しながらピンクのフワフワ毛糸帽子を被った愛子が質問する。コーヒーを一口啜りながら冬心がゆっくりと口を開く。
「バイトで忙しいそうだし、文芸創作コンテストの作文も書かないといけないし、本ももっと読みたいし、おばあさんと一緒に散歩もしたいし。。。」
「もう、冬心ちゃん、忙しいじゃん。私と一緒に遊んでよ。ね、先輩の友達も加わてソウルに行く予定だけど一緒に行かない?ちょー楽しいそう!」
「誘いはありがたいけど、バイト抜けられない。代わりに、休日で一緒に美味しいランチでも行こうよ」
「ねー大学1年生だから今が遊ぶチャンスだよ。書店じゃなくて、私の従弟の家庭教師やったら時間も金も余裕でしょ」
「ごめん。家庭教師はできない。私のフェロモンでいろいろ問題を起こしたくないし、今の書店のバイトは凄く気に入ってるの」
「私の従弟はベータだよ。まぁー冬心の顔見れば、変貌するかもしれないけど。。。
でも、家では家政婦や使用人たちもいて危ない真似はできないはずよ。すけー金持ちだから授業料も高くもらえるのに。。。」
「考えてくれてありがとう。でも、今の仕事が好き。好きな本に囲まれて働くから楽しい。ランチやコーヒーもただで貰えるし、人々も親切だし、凄く満足している」
「分かりましたよ!ねー冬心、着ているそのコートすけーいいね。凄く似合うよ!紫色なのによく消化してるね。ちょっと、ブランド教えて」
「分からない。ただ、鈴木先生の娘のお下がりもので手触りがよくて暖かい。いいもの貰ったから感謝している」
「ちょっと、見せて。首元のタグ。。。うわーこれ、やっぱりブランドだね。ルイスボトンじゃん。いいね。。。いつもいい服きてるから金持ちのお嬢様かなと思ったよ。でも、男だったね。フフフ」
「全部、鈴木先生から頂いたものよ。そんなに、有名なの。。。」
愛子は素早くスマホをタップしてブランド品の中古サイトを冬心の顔に近寄せる。冬心の顔は段々驚きの表情で沁みる。
「これ、中古の価格でもそんなに高いの。間違いじゃないのね」
「ねーここ、有名は中古販売サイトだよ。この日本でブランドキングマットを使わない子いるかよ。私もこのフャンシーバック、10万円で買ったの。可愛いでしょう。定価は15万円だよ。ここは、質もよくて色褪せもなく、満足度200%だよ」
「ねールイスボトンはなぜ、定価の表示がないの」
「ちょっと待って。これ見てね。ルイスボトンのホームページだよ」
「うん、凄く綺麗。素晴らしいね。でも、価格が書いてないね」
「そうよ。ちょ有名なブランドだから定価がないの。その都度の為替や状況によって価格が決められるの。また、オーダーメイドもあるよ。有名なイギリス王室のキャサリンナ妃やスーパーモデルのジュリアナ・ロバーツなどセレブたちの愛用ブランドだよ。その鈴木先生の娘はたぶん凄い金持ちだね」
「うん、ハリウッドの女優だって」
「何それ。。。なぜ、いま、いうの。名前、知ってるの」
「うん、鈴木先生のご主人様がウェイン・ワイズ博士だから独り娘の名前はアイリ・ワイズだったけど、2年前に結婚して今は、アイリ・クルーズだって」
「うわー鳥肌が立った。
ちょー有名な女優だよ。
ティファニーで夕食を。。。
エドモンド郡の橋。。。
パリの休日。。。
風の中に去りぬ。。。
愛のゴースト等々。。。
数え切れないほど、有名な映画いっぱいあるよ」
「うん、私も全部みた。。。
そうか。名前を見てもパット連想できなくて。。。
鈴木先生もただ、ハリウッドの女優だとしか言わなくって、詳しい話はしなかったけど。
凄いね」
「うん、うん、ねーサインもらえるの。私、中学生頃から大ファンなの。アイリって中学生でデビューした大スターだよ。雑誌で母親が日本人だとは見たけど、プライバシーは全然言わないから詳しくは知らなかった。さらに、ハーバー大学出身だよ。頭もいいし、ちょ美人。冬心と同じだね。そうだ、俳優のジョージ・クルーズと結婚したわ。結婚式も明かさずに秘匿でやったって。お願い。一生のお願いだから、サイン貰ってくれる」
「よくわからないけど、次の健診の時、鈴木先生に訊いてみるね。でも、できない可能性もあるからあまり期待しないでね」
「うん、ありがとう」
二人が楽しく話を盛り上げている中、後ろのベンチでは天命が仕込んだ二人のガードが静かに二人の会話を聞きながら、周囲に気を張っていた。
時間は変哲もなく過ぎて行き12月の期末テストも終わり、長い冬休みに入った。冬心はクリスマスを迎える町々の輝かしいイルミネーションや綺麗なクリスマスツリーで胸が弾み、ワクワクしながらバイトを頑張っている。祖母も凄く元気になってオメガ支援施設の掃除バイトを頑張っている。あと、三日でクリスマスだ。冬心は本日の17時までのバイトを終えて、祖母のプレゼントを探しにピースデパートを見回っている。あまり高いものには手が出せないから、手頃の品を探している。ピーズ書店は年末特別のボーナスとしてピースデパートの1万円商品券をスタッフ全員にプレゼントした。8月の祖母の誕生日にはシルクのお洒落な白帽子をプレセントしたら、凄く気に入れて貰って嬉しかった。ピースデパートは華麗なクリスマス飾りで見るだけでも楽しかった。どの売り場も人々の波でいっぱいだった。
手をつないでいる愛しいカップルたち。
ガヤガヤ騒いてるお洒落な女性たち。
ニコニコしながら見回る家族ぐるみ。
微笑みながらきょろきょろしてる老夫婦たち。
真剣な顔で品を選んでいる独りぼっちの人々。
その中、冬心は2階の婦人売り場のスカーフセールの表示に目を止める。近寄ってみれば、多様なデザインのシルクスカーフが1万円で売っていた。タグの下の定価を見たら、5万9千円と書いている。お得だと思い、祖母に似合いそうな物を探してる。全部、素敵でなかなか難しいなあと思いながら、楽しい気持ちで丁寧に探してる。その時、落ち葉が華麗に描いているワインカラーのスカーフが目に入った。広げてみると金銀色で葉っぱが華々しく光っている。うん、これがいいと思ったら、隣で店員さんが凄く見る目がありますね。いい買い物ですよ。と声をかける。店員の話によれば、3年前の在庫で今年初めてセールで売り出せたそうだ。ピースデパートの1万円商品券で勘定を済ませた冬心の心は嬉しさに踊り始めた。
クリスマスイブ、町々が楽しいきらきらメロディーに充満している中、冬心は相変わらず頑張って働く。今晩は祖母と美味しいチキンスープとイチゴケーキも食べる予定だ。17時まで書店は沢山の人々で忙しかった。アルバイトが終わり、冬心はピースデパートの地下1階の有名なケーキ屋さんによって注文したイチゴケーキを受け取る。ありがたいことに3千円から3万円までの幅広い美味しいケーキが売られていて一番安くて小さな3千円のケーキが買えられて嬉しかった。クリスマスケーキには可愛いサンタクロースのチョコレートの飾りがあり、イチゴで丸く円を描いていて凄く美味しいそうに見える。家に向かう冬心の愉快な足取りは楽しく弾んでいた。
瑠璃色の広い空に散りこまれた星々の宝石が美しいこの世のクリスマスイブを讃えて幽玄な光を放っている。
年末は色んなイベントやパーティーで多忙な日々を送り、疲れるだけで気持ちも沈んでいく天命はクリスマスイブのチャリティーパーティーに参加している。著名なセレブたちが政財界、学界、官界、芸能界などで集まっている。
天命は秘書橘から冬心が安全に帰家されたと報告を受けて一安心してシャンペンを楽しんでいる。その時、防衛大臣の愛娘の女優の小泉エリカが近寄って声をかける。
「久しぶりですね。天命常務。相変わらず恰好いいですわ」
派手なトレスを身に纏ってきらきらしたネメシアのフェロモンを出している日本最高の優性オメガ女優小泉エリカ。174センチの長身で30歳になった今もその優れた美貌と演技力で世界中のファンから熱愛されている。
エリカも天命も25歳の時、二人はチャリティーコンサートパーティーで出会って恋に落ちた。だが、3か月で別れてしまった。お互いに自己中心だったし、すぐ飽きちゃう性格なので熱く発火された濃恋は容易く弱い指一本ふっと触れたら冷めてしまった。ただ、3か月間セックスだけの恋だった。エリカも天命のセックスには大満足だった。だが、天命の利己的な態度には我慢出来なかった。
小泉家も裕福な政界の家柄で歴代首相も何人か輩出しているし、エリカを含む親族たちは有名なピース大学の卒業者が殆どだ。エリカは中学生時から芸能界に足を入れて今は日本でも世界でも名を成している。
「何の御用だ」
「相変わらず無愛想な言い方だね。先週、私の従妹とお見合いしたんでしょ。噂広がってる。
本気で結婚するつもり。京香は無垢で純粋な子なの。貴方にはもったいないわ。止めて頂戴」
「私も好きで出たことじゃない。祖父の頼みだから出た。その上に、私のタイプじゃない」
「じゃ、話が早いからいいね。断ってね」
「まだだ。政略結婚だ。利益が優先だ」
エリカの綺麗な顔が歪に痙攣した。
「貴方みたいな、女遊激しいクズ男に京香は必ず不幸になるだけよ」
「遅い。京香はもう俺に惚れ込んだ。毎日、ラインも送ってるぞ」
「京香は24歳まで恋愛もしたことのない純粋な子なの。バレエ一筋で生きてきたの。
大学卒業後、東京私立バレエ団に入って頑張っているのよ。京香から離れてよ!」
天命はちょっと細めの顔でげっそり痩せた極劣性オメガの京香を思い出す。悪くはないけど、華麗な美人だけ付き合ってきた天命にとってはちょっと地味な感じだった。170センチで48キロは痩せすぎだ。
ピースホテルのVIPルームであって昼食をともにしたが、京香の美味しく食べないで機械的にゆっくり噛んで飽満感を引き出して食べる癖が気に障った。京香は今まで、食欲を抑える薬を飲んでいたからいっぱいは食べられないと言った。メインの鮪料理も半分も食べず、デザートで出されたピスタチオのムースと自家製旬のフルーツアイスクリームの盛り合わせは全然口にしなかった。でも、普通の女性よりは綺麗で魅力的な上品のオーラがある。
13歳からオーストリアのウィーンの王室バレエ学校に留学されウィーン大学まで卒業した優れたバレリーナだ。また、祖父は日銀の会長、祖母はグロバール証券会社の会長、父は最高裁判所長官、母はピース大学臨床心理学科教授、伯父は防衛大臣、叔母はグロバール通信会社の社長など、無視できない背景だ。
天命はエリカの濃くメイクされた綺麗な顔を視線で堪能しながらゆっくりシャンペンを一口飲んだ。エリカは世間一般には綺麗だがこの上の魂レベルの美しさは感じられない。冬心みたいに魂が震える程の不思議で神秘的な深美感がないのだ。天命は今まで沢山の多様な人々と恋愛したり、千差万別の人々とビジネスでも会ってきたので、人を探る目が鍛えられていた。
「エリカ、お節介だな。京香が決めることだ。失礼」
ブルブル震えるエリカを置いて天命はホテルのテラスに出る。12月24日、珍しく寒くない清らかな夜だ。澄んだ空気をともに、細い煙草に火をつける。天命はピースグループの将来を考えるのだ。今まで、自由に恋愛してきた。それは祖父の配慮だった。若い内に自由奔放に遊んで適時が来たら、お勧めされる相手と結婚すること。無言の約束だった。
もう、30歳で、来る来年は31歳になる。段々、短く消えていく煙草を吹きながら、藍空を見上げるときらきら光っている星々が目に止まった。綺麗だなぁと思ったら、綺麗で優雅な冬心の顔が夜空に浮かんだ。冬心は19歳、俺と11歳差だ。優性アルファの天命、優れた頭と身体能力で小さい頃から皆の注目を浴びた。16歳にピース大学に進学し、医学部に入って神経外科医師の免許を取った。
23歳の時にはアメリカのハーバー大学の大学院で経営博士もとった。順風満帆なキャリアだ。色んな美人と恋愛し、セックスも堪能してきた。今まで、強制的にセックスしたことはない。必要な時には秘書を通して相手を探した。それが、安心で安全だからだ。費用は相手が頭を下げるほど、十分に謝礼した。
芸能界の女優たちやモデルたちは天命の指名をもらいたくてそわそわしていた。指名後はいつもピースグループの広告やスポンサーの映画、ドラマに出られるチャンスが与えられるからだった。ハリウッドの女優とモデルも付き合った。天命は芸能界で有名なのだ。ピースグループ傘下のJ&Jエンターテインメントは天命の遊び場であり、縄張りだ。
天命は冬心の名を昔から知っていた。世界の唯一無二の極優性オメガ。天命が15歳頃、父親と祖父の会話を偶然拾ったのだ。世界で30年ぶり、日本では50年ぶりの貴重な極優性オメガ。祖父は将来、孫たちのお番として貰いたくていろいろと手を回していた。でも、政府の厳しい政策で連絡すらできないそうだった。
冬心の父親はエンライトメント公立大学研究所の契約研究員で形質者の脳神経発達を研究していた。母親は韓国からの留学生でエンライトメント公立大学形質者心理学部の助教をしながら特別奨学金を貰って博士課程を勉強していた。写真をみたら母親はアメリカ人と韓国人のハフで凄く美人だった。冬心の母側の祖父はアメリカ人空軍だった。その故、冬心の母親は韓国人の国籍なのにアメリカ人にも見えた。母親の研究は世界から注目されていて前途有望な人材だった。二人は恋に落ちて直ぐ冬心を授かり、貧乏でも幸せに暮らしていたそうだ。それ以後は話を聞いてなかった。全世界で形質者人権を尊厳する風潮が広がり、密かに暮らしたい形質者の意思を尊重することが当たり前の社会になった。
天命、27歳の時、明星の不品行で実際に冬心に出会った。パニック障害を起こしている冬心は意識が朦朧としていて天命の顔をはっきり覚えていない。後の手続きは秘書の橘が直接に冬心に会って処理してくれた。その時、橘が調べた報告によれば、冬心が10歳の時、両親は車事故で命を落とした。原因はトラック運転手の居眠り運転。トラックドライバーも即死しちゃった。不幸なことに、トラックは保険も入っておらず、トッラク運転手一人で下請けして荷物を運んでいたそうだ。身寄りもなく、13歳息子一人を支えていたトッラク運転手側に金一銭も話すことができなかったそうだ。トラック運転手の息子は国営の孤児園で引き取られたそうだ。
冬心の両親は公立大学で薄い給料を貰って研究のために殆どのお金を使っていたので、貯金も50万円で少なかった。冬心の両親が亡くなった後は、祖母のバイト代と年金で何とかやりくりしていた。両親を亡くした冬心はいつも面倒を見てくれる祖母と二人だけの暮らしになっても悲しむことなく笑顔を見せる芯の強い子だった。母親からいつも何かあって母親と父親がいなくなっても祖母を助けて逞しく生きるようにと言われたからだ。母親は優性オメガらしく予知能力があったみたいだ。一般的に優性オメガはシックスセンスが秀でると言われてる。
成績が優秀だった冬心は13歳頃、文部科学省から大学の進学をお進められたが、学校の生活を楽しみたいからといって断り、普通の学校生活に集中した。実は、世間から注目されたくない気持ちで断った。中学校2年生頃、祖母の体調が悪くなり、病院を転々した結果、エンライトメント公立大学付属病院で脊髄管狭窄症の手術を勧められた。だが、国からの補助金も少なく、次回に回してしまった。祖母が働くなくなり、祖母の年金を崩しながら節約して暮らした。高校は全学年成績優秀者奨学金をもらってピース大学付属ピース私立高等学校に入学した。学校では誰でも仲良く過ごし、勉強も運動もできる子だった。天命は冬心が毀傷で入院している間、冬心の祖母の病歴の件も知り、橘を通し冬心の祖母が脊髄管狭窄症の手術を受けられるように手配した。
天命は冬心が好きだ。でも、世故に長けている汚れた自分は純正で高雅な冬心には釣り合わないと分かってる。だから、裏で見守ってあげたい気持ちだ。テラスで渋い冬愁に浸っていたら、いつの間にか、正直日報の林社長がテラスに出てきた。
「宇宙常務。いい風ですね」
「はい、空気がいいです」
「小泉最高裁判所長官の愛娘の小泉京香さんと婚約される予定だという噂が広がっています。真実でしょうか」
「まぁーそうなる可能性はあります」
「じゃー恋愛結婚ですか、若しくは政略結婚でしょうか」
「ハハハ、想像力に任せます。では、先に失礼」
天命はそのまま、賑やかなホテルの会場に入ってしまった。
30年以上の記者生活で感が鋭い林社長は天命が女遊び特にオメガ遊びが酷いだという噂は知っていた。でも、その噂だけで叩き潰すのは物足りなさそうな感じがしてずっとアンテナを張っていた。誰でも必ず落ち度があると思い、探しまくった。でも、家柄もルックスも学歴も コネクションも慈善事業も全てが完璧なので簡単に手を出す真似はできない。ホテルのホールからは静かなアンサンブルクラシックの演奏が心地よく流れていて、テラスの寒風の中、林は清々しい気持ちになり、苦く笑った。
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