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第1話
その昔、世界は混沌としていて人も魔も何の区別もなく暮らしていた。
けれども平穏とはほど遠く人も魔も関係なく争い暮らしていた。
そんな状況を憂いた一人の若者が争いのない平和な世界を、と天に祈り哀れに思った天が二匹の龍をつかわした。
若者はこの二匹の龍とともにこの世界から争いを無くしていった。
その二匹の龍の白い方。
いわゆる白龍と云われるのが私、―――自分の血筋だ。
割と由緒正しいと云えば由緒正しいのだけど、そんなことがどうでも良くなることが一つ。
まあ、気のせいだと云われたらそれまでなんだけど・・・・・・。
私の血筋の対となる血筋―――翠龍の血筋の現当主。
先代から名を継いだ今の翠龍になってからどうも様子がおかしいのだ。
最初は先に白龍を継いだ私に対して敬意を払っているのかと思っていた。
どれがおや? と思うようになったのは一体いつだったろう?
まるで女性をエスコートするかのような態度に違和感を覚えはじめたのは?
・・・・・・まあ、だからといって明確な何かがあったわけじゃなく、気のせい、自意識過剰と云われればそれまでだ。
でも何か嫌な予感がするんだよなぁ・・・・・・。
ふーと息を吐き出すとコンコンとドアがノックされた。
「どうぞ」
「失礼します」
入ってきたのは少女めいた顔立ちの栗色の髪の青年だ。
名をショウと云う。
ショウは手にした書類をこちらへ差し出しながら口を開いた。
「主上が祭りの時の舞姫と剣舞の方、両方とも白龍様が良いとおっしゃっているそうですよ」
「え、やだ」
つい反射的に答えてからはあと頭を抱える。まったく主上は・・・・・・。
この祭りとは五穀豊穣や平穏を天に祈り捧げる行事で舞などを奉納するのだ。
そこで舞を奉納する乙女を舞姫と呼び、たいていはどこぞの姫がつとめたりする。
一度だけふさわしい姫がみつからず、代役として白龍を継ぐ前の私がつとめたことがあるのだが、それ以来主上がことあるごとに持ち出してからかってきたりするのが一種定番化していたりする。
「やってよー」「やだよ」というやりとりをいちいちやる面倒というものをわかってもらいたいものだ。
「主上は白龍様のお顔がお好きだから・・・・・・ま、オレもですけど」
クスクスとひとしきり笑ってからショウが「ところで」と話題を変える。
「稀人が現れました。今はご隠居の屋敷にいます」
稀人とは異世界からの訪問者のことで、我ら一族の血が濃くなってくると自動で喚ばれる仕組みだ。
ちなみにご隠居は先代の白龍の側近で物腰は柔らかだがなかなか喰えない爺だ。
「ご隠居の所なら安心だ―――で、今回の稀人は?」
「男女一名ずつです」
「へえー二人か。珍しいね。それともそれほど今回は酷いということかな。様子は?」
「女の方は特に問題なく。食事も普通に摂っていますし、ただ男の方はちょっと警戒気味のようです」
「なるほど・・・・・・なかなか聡いのかもしれないね。なら決して無理強いはしないように・・・・・・そういえば稀人の身体がこの世界に馴染むのはだいたい3ヶ月ぐらいだったね?
「? はい」
そうか、3ヶ月・・・・・・あっ。
「いいこと思いついた」
「え、駄目です」
「まだ何も云ってないよ?」
「だって白龍様の良いことっていつもろくでもないと云うか・・・・・・無理無茶って云うか・・・」
「そんなこともないと思うけど・・・」
「・・・・・・ちなみに念のためにお聞きしますけど、放置しておくのも怖いので、どんなことを思いつかれたのですか?」
「うん・・・・・・引退しようかと思って」
「はあ!? 正気ですか!?」
「うん、大丈夫。次代が決まるまでは私が代理をやるし、問題ないでしょ」
そうしたら面倒な主上とのやりとりもしなくてよくなるし、何を考えているのかわからない翠龍もかわせるかもしれない。
うん、一番いい手な気がしてきた。
「頭痛くなってきた・・・・・・」
「大丈夫? 薬ならあるよ?」
「っ誰のせいだと・・・・・・」
「それでね、選考方法なんだけどせっかくだから彼女に選んでもうらおうか」
「彼女・・・・・・?」
「稀人のさ」
「・・・・・・」
「今から身体が馴染んだ3ヶ月後、彼女が相手が次の白龍だ。そう手配を」
「・・・・・・どうせ駄目だって云っても勝手にやるんだろうから止めませんけど、そう上手くいきますかねぇ」
「いくさ」
いってくれないと困る。
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