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第2話

 ぐすっ・・・・・・ぐすん・・・・・・。  鼻を啜る音が聞こえる。  稀人の情報を聞いて今回はどういう子たちだろうと様子を見に来たのだ。  場所は聞いていたのでふらりと寄ってみると縁側で抱えた膝に顔を埋めた少女がどうやら泣いているようだった。  うーん、これは・・・・・・思ったより幼い子を連れてきてしまったのかな。  子供が親から引き離されるのは可哀想だとは思うが、その時々に血筋に必要と思われる人物を自動で召喚するシステムだから仕方ない。狙えるわけじゃないのだ。  どうしたものか・・・・・・。  さすがに泣いている所に突撃するほど悪趣味じゃないし、出直すか・・・・・・。  「・・・・・・だ、れっ・・・・・・?」  また来ようと踵を返しかけた時、涙まじりの声をかけられた。  うーん・・・・・・と悩んだのは一瞬で、泣いている少女の傍に寄って行った。  「何かあったの? 泣いていたようだけど・・・・・・」  正直、泣いている女を慰めるのは苦手だ。  とりあえずハンカチを手渡す。  「べ、べつに・・・・・・泣いてねーし・・・・・・ただ帰れなかったらヤバイなって思って・・・・・・」  「・・・・・・」  「まあ、帰ったところで俺がいなくても良いんだけど・・・・・・母親は姉貴に夢中だし・・・・・・あ、姉貴がいるんだけど、これがもうすげー頭が良くて自慢の娘なワケ・・・・・・だからさ、別に俺がいなくてもいいっつーか・・・・・・でもいざ帰れないかもって思うとモヤモヤするっていうかザワザワするっていうか・・・・・・」  ・・・・・・まあ、そりゃあ帰りたいよね。親離れもまだな幼い子供ならなおさら。  でも、ごめんね? 残念ながら一方通行なんだ。  「―――じゃあ、探してみる? 一緒に」  「えっ?」  「帰り道。君がどこの子か知らないけど迷子なんでしょ。だから探してみる?」  「いいの・・・・・・?」  「うん」  とか云いながら探す気もないけど。そんな無駄なこと。ごめんね。  息抜きがてら稀人たちの様子を見たりして過ごしているうちに奉納祭が来てしまった。  主上を中心に、左右に翠龍、白龍が座し、その下には貴族たちが並ぶ。  だから私の向かいには翠龍がいるんだけど、何かめっちゃ見てないか、あいつ・・・・・・!  じっとまるで監視するがごとく見てくるから目の前に置いてある軽食を気軽に摘まむことも出来ない。  「・・・・・・なあ、何であいつこっち見てくんの? 私、何かした?」  扇子で口許を隠しながら今日のお供のリョウに愚痴る。  「さあ・・・・・・あんたがすぐサボるから見張っているんじゃないのか?」  「云うほどサボってないと思うけどなぁ・・・・・・」  「そうか?―――ああ、ほら見てないと主上に感想を求められた時に答えられないぞ」  「わかってるけど・・・・・・」  渋々視線を舞台に戻す。  ―――けど、剣舞がどうも迫力がないのだ。つまらない。今年はハズレだ。  せめて迫力があれば、あいつの視線も気にならなかったかもしれないのに。  いつだっけ? 凄く迫力のある年だったのは?  その時の舞手は・・・・・・あいつだ。  今、私の対面に座ってこっちをガン見しているあいつだ。  ふう・・・・・・しばらく我慢していたけど、もう無理、駄目だ。  「・・・・・・リョウ、気分が優れないから私は抜けるよ。後はよろしく」  「はあ!?」  「結構、頑張ったよ」  「・・・・・・いや、頑張ったとかそういう問題じゃなく―――」  「文句ならあいつに云ってよ。あいつのせいなんだから」  広場に造られた特設の舞台。  それを囲うようにして置かれた場所から抜け出し、ふうと息を吐く。  ―――さて、これからどうするかな・・・・・・。  一応、気分が優れないという設定だから自分の執務室にでも行って昼寝でもしているかな。  「―――白龍殿」  げっ・・・・・・何でこいつが。  しかめそうになった顔を慌てて戻す。いやだってほら人間関係、人間関係。  「これは翠龍殿、どうなさいました?」  「いや・・・・・・席を外されるのが見えましてどうされたのかと」  お前がずっと見てくるのが意味不明で嫌になったんだよ! とは云えないので。  「ああ・・・・・・人の気に当てられたのか少し気分が悪くなりまして・・・・・・休ませてもらおうかと・・・・・・」  「気分が・・・・・・」  翠龍は一瞬、目を見張ると手を差し出してきた。  「では、お部屋まで送りましょう」  はっ? 何で!?  「いやいや、翠龍殿の御手を煩わせるわけには・・・・・・一人で大丈夫ですので」  「いくら宮中でも体調の悪い白龍殿を一人にして何かあっては大変ですから」  「そんなことは・・・・・・」  いやいや、そんなという意味のない会話を繰り返していると  「まだそんなところで何を・・・・・・翠龍様」  様子を見に来たらしいリョウが呆れた表情から慌てて礼をとる。  ―――おいおい、私にはあらたまった態度を滅多にとらないのに。  内心、面白くないとぶすったれていると翠龍から事情を聞いたリョウがちらっとこっちを見、口角を上げた。  あ、こいつ、笑ったな。  それか翠龍に再び向き直ると  「そういうことでしたら是非、送っていただけますと私も安心して主の名代をつとめられますので」  「そうだろう?」  「なっ・・・・・・」  なんてこと云いやがるっ!!  あまりのことに二の句が告げられないでいるとリョウがそっと耳打ちしてきた。  「あまりエサをやらないでいると後で困るのはあんただぞ?」  「エサ・・・・・・? どういう・・・・・・?」  「―――では、翠龍様よろしくお願いいたします」  そう云ってリョウはさっさと戻って行ってしまった。  ええー・・・・・・。  「こちらも行きましょうか、白龍殿」  手差し出してくる翠龍に、どうしろとっ!? と頭を抱えたくなるが、そもそも体調不良という話にしたのは自分だった。終わった。  仕方なく手をとって腕に縋らせてもらう。必要ないけどな!  ・・・・・・あ、でも細身に見えるけど割とたくましい腕をしている・・・・・・って当たり前か。剣舞に出たこともあるくらいだし。  「・・・・・・そういえばあなたが剣の舞手の時は見事で、先代の翠龍殿がどことなく自慢げだったのを覚えていますよ」  「っ!?」  「―――ああ、ここでもう充分です。送っていただきありがとうございました」  腕を離して頭を下げる。礼儀は大事だからね。  さて、昼寝でもするか。
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