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第1話
街はクリスマスに向けて、あちらこちらイルミネーションで華やかに彩られ始めていた。
唯斗 が今いる場所、何キロにもなる通りの街路樹ももうすぐ点灯されようとしていた。そこに集まった人々は騒めき、今か今かと待ち遠しそうにしている。カップルや友達同士、家族連れ、それぞれがまだ薄暗い街路樹を見上げる中、唯斗も一人そこにいた。
去年はここでかつての恋人と一緒に点灯の瞬間を心をときめかせながら待っていたのだった。
すると今まで薄暗かった街路樹が一斉に魔法をかけられたようにシャンパンゴールドに煌めいた。合わせるようにあちこちで人々の歓声が沸き起こった。唯斗もその瞬間はアイツとのことを忘れて、キラキラと輝く街路樹に見入っていた。
「遅れてごめん」
唯斗は急に後ろから抱きしめられた。
「えっ…?」
唯斗は一瞬、アイツかと思った。
絶対そんなはずはないとわかっているのに、そしてゆっくりと後ろを向いた。
「うわっ、お前…誰や」
抱きついてきたのは、見知らぬ男だった。その男は振り向いた唯斗の顔を見るなりそう言った。
「なんだよ。抱きついてきたのはそっちだろ。お前こそ誰なんだよ」
唯斗はその男の腕を掴んで振り払った。
「あっ…ごめん。間違えてしもたわ」
関西弁のその男は全く悪びれもせず、唯斗の顔をジッと見た。
「後ろ姿は、ホンマそっくりやってん。ごめんな…間違えて男に抱きついたんバレたら、怒られんな」
その男は唯斗とよく似た白いニット帽を被っていた。抱きつく相手、おそらく彼女もお揃いのニット帽を被っているのだろう。それで間違えたにしては、少し間が抜けていると思った。その思いが顔に出ていたのか、男は言った。
「あぁ、アホな奴やなって思ってるやろ…まぁ思われてもしゃあないけど…なぁ、悪いけど、この場所ここで合 うてる?」
男はスマホの画面を唯斗に見せた。唯斗はムッとしたまま、差し出したスマホの画面を見た。
「あぁ、ここか…この通りのもっと先に行ったとこ」
「うわぁ…マジか…ありがとう。ホンマにごめんやで」
その男はそう言うと、人混みをすり抜けるように走っていった。
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