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第7話

 地下鉄の車窓に映る健吾は唯斗の頭一つ分以上背が高かった。アイツより高いんだ、と思った。今はもう背比べ以外の感情はなかった。  車内でスマホの連絡先の交換をした。25日の待ち合わせ場所はまだ決めていなかったなと唯斗は気付いた。またスマホで連絡をすればいいかと思っていると、車内アナウンスが流れた。  唯斗は健吾に、次の駅だよ、と伝えた。健吾は頷いた。  ゆっくりと電車が減速し駅に着いた。扉が開きかけ、唯斗は、じゃあ、また、と言おうとした時、健吾は唯斗の腕を掴んで、引っ張るようにして電車から降ろした。無理やり降ろされて呆気にとられている唯斗に向かって健吾はニヤつきながら言った。   「次会う約束してんから、最後まで見送ってえな」  全く悪びれる様子もない健吾だったが、唯斗は、さては、と思いついた。 「なぁ、ここから新幹線の駅まで行けるか不安なんだろ」 「ちゃうし…」  図星の様だった。自分よりも大きくて逞しい健吾が唯斗にはなんだか可愛く見えた。 「しゃあないな…ほな行こか」 「やめろ、そのエセ関西弁。気色悪いねんて」  健吾は唯斗の頭を軽く小突いた。  新幹線のりば、と表示されているところまでくると、ちょっと待っててや、と言って健吾は唯斗を残して自動券売機に向かった。  唯斗はまだ乗車券を買っていなかったんだ、と思っていたら、戻ってきた健吾から、入場券を渡された。 「せやから、さっき最後まで見送ってって()うたやろ」 「子供か…お前は」  唯斗は苦笑しながら入場券を受け取った。  ホームへの階段を上がる途中で、唯斗は25日の待ち合わせの場所をどこにするか訊いた。 「せやなぁ…あっそうや。ホームで待っといて。そや、それが一番ええわ」  健吾はいい案を思いついたようで、嬉しそうに言った。  ホームには健吾が乗る新幹線が、既に清掃も済ませて停まっていた。しばらくすると扉が開いた。 「また、新幹線が着く時間連絡するし、このホームで待っといてや」  そう言って乗り込もうした健吾に唯斗は、到着はこのホームじゃないかもしれないよ、と言おうとしたが、まぁ、いいか、今度は俺が健吾を見つけて後ろから抱きついてやるよ、と心の中でつぶやいた。  そして新幹線の扉が閉まった。  健吾は車内から唯斗に向かって悪戯っぽく投げキッスをした。それを見た唯斗は、べぇっと舌を出した。またその様子を見た健吾は、拳を振り上げる仕草をして、そのまま唯斗に手を振った。唯斗も笑いながら手を振った。  健吾を乗せた新幹線はホームから静かに動き出した。  唯斗は心の中がほんわかと温かくなっているのを感じた。一足早いクリスマスプレゼントをもらったような気分だった。  走り去っていく新幹線の赤いテールライトが見えなくなるまで、唯斗はホームで見送っていた。                 おわり

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