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第6話

 笑いが収まると、健吾は腕時計を見た。唯斗は健吾が帰りの時間を気にしたんだと思い、声をかけた。 「そろそろ、出ようか」  健吾は頷いてから唯斗に訊ねた。 「なぁ、この前の道をあっちに行ったとこにある降り口の地下鉄乗ったら、新幹線の駅に行けるやろ?」  唯斗は健吾は絶対に方向音痴だと思った。 「その地下鉄に乗ったら、一生新幹線には乗れないね」 「うそ…ここで唯斗のこと見かけへんかったら、俺一生新幹線乗られへんかったんか…マジか…こわっ」  唯斗は少し照れ臭い気持ちもあったが、健吾に言った。 「俺の話しをたくさん聞いてくれたから…俺もそっち方面だし一緒に行くよ」  健吾はパッと表情を明るくさせた。 「うわっ、助かるわ…ほしたらここの変な名前の飲み物代は俺が払うし、抱きついた慰謝料込みにしといてな」  健吾は二人分のモカジャワの会計を済ますと、美味しかったわ、と笑顔で店員に言った。    イルミネーションで煌めく通りはまだ人で溢れていた。 「すごい人やな…」 「クリスマスまで、毎日こんな感じだよ。あぁ、新幹線の駅に行く地下鉄はここを少し歩くんだけど」  今の時間なら新幹線の下りの最終時間までは余裕があった。 「ええよ。ホンマに助かったわ。ちゃう方向に行こうとしてたんやな俺」 「健吾ってさ、方向音痴だろ」 「…やかましいわ」  健吾は唯斗を軽く睨んだ。それを見て唯斗は、図星なんだと思って笑った。  しばらく人混みの中を歩いていると健吾が訊いてきた。 「なぁ、唯斗。お前クリスマス、暇やろ」 「なんだよ、勝手に決めつけんなよ」  唯斗はそう言って、ポケットに手を突っ込んだまま健吾に肩をぶつけた。ぶつけられた健吾はビクともせず、唯斗の方がよろめいて、横を通り過ぎる人にぶつかりそうになった。すかさず健吾は唯斗の腕を掴んだ。 「お前、何やってんねん。危ないやろ」 「…ごめん」 「…で?」  健吾は唯斗の顔を見た。 「あぁ…今のところは予定はないけどさ」 「25日…唯斗に会いに来てもええか?」  唯斗は、この関西人はいとも簡単にこういうことをサラッと言えてしまうのは、本当にズルいと思った。返事は冗談で返した。 「ひょっとして、俺と遠距離恋愛したくなった?」 「ちゃうちゃう。このままやったらな、この街の印象があんまりええ場所やないって思ってしまうんやけど、唯斗にまた()うたら楽しなるやん…それにな、お前に話しのオチのつけ方も教えたろ思ってな」  唯斗はクスクス笑い出した。なんだか嬉しくなった。 「じゃあさ、健吾が抱きついた場所で待ち合わせする?」 「それはあかん。そこまで辿り着けるかわからん」  真顔で言う健吾を見て、唯斗はゲラゲラと笑い出した。 「お前な、笑い過ぎやろ」  健吾は唯斗の首に腕を回して、締め上げる振りをした。ダウンジャケットの袖が唯斗の顔の半分を覆った。唯斗は楽しそうに絡んだその腕を叩いた。

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