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第5話

 唯斗は大笑いした後、少し気持ちが軽くなったと感じた。そして話しを続けた。 「俺さ、自分から別れたいって言ったんだよね」 「浮気でもされたんか?」  健吾は本当に普通に話しを聞いてくれると思った。 「なんかさ、しんどくなったっていうかさ…言葉遊びみたいな駆け引きとかばっかりされて、で、背伸びして相手に合わせて」  唯斗は健吾の顔を見た。 「今、で?って言おうと思ったでしょ」 「で?」  唯斗はまた笑った。健吾も笑っていた。 「付き合い始めた頃は、背伸びしたり、相手に合わせるのが嬉しかったんだけどね。でもなんか違うなって思ってきたら気持ちが冷めてきて、でもまだ向こうが俺のこと好きなら続けてもいいかなとか思って、確かめるつもりで、別れたいって言ったら、そっか、わかったよって言われた」  健吾は何度か頷きながら、納得した様子で言った。 「それで、俺の話しに熱が入ったんか」  唯斗は肩をすくめた。  今まで誰にも話したことがなかったことなのに、何故かなんの躊躇もなく話せた。本当にただの通りすがりの男なのに、この関西弁のキャラのせいなんだと思った。今まで触れないように心の奥にしまっていた感情は、実は取るに足らない些細なものだったんだと気付き始めた。全て晒け出したら健吾は何て言うだろう。唯斗は続けた。 「俺は好きだって気持ちを伝えてもさ、同じ様に気持ちを返してくれないし、何か訳のわからない言葉を並べてはぐらかされて、その意味を理解しようと頑張ったけど、抱きしめられたり、キスされたりすると、まぁいいかってなってしまって…結局愛されて無いんだと思い至った訳だけど。でも最後に賭けてみたんだよね。別れたいとは思ってたけど、でもひょっとしたら俺のこと好きでさ、別れたくないって言ってくれるかもって。今さ、健吾と話してたら、賭けまでして好きだと言わそうとした自分がなんか馬鹿だったなぁって思えてきたよ」  唯斗は話して清々とした。 「健吾に抱きつかれた時さ、正直言うと痴漢どころか、元カレに抱きつかれたかと思ったんだよね。なんか腕の感じが似ててさ…もう去年のことなのに…女々しいよな」  自笑しながらそう話す唯斗に、健吾は真顔で言った。 「なぁ、俺の腕、一時間千円でレンタルしたろか」  唯斗はやっぱり健吾に話してよかったと思った。ありきたりの慰めの言葉より気が利いていた。 「いらねぇし…お前の腕なんか」 「そうか?…これでもラグビーで鍛えたええ筋肉ついてんで」  健吾は力こぶを誇示するようなポーズをした。そして笑い顔の唯斗をしっかりと見て穏やかに言った。 「次の相手とは楽しく付き合えたらええな…唯斗やったら、またすぐに出逢えんで…知らんけど」 「うわっ、出た。関西人の、知らんけど。初めて生で聞いた」 「人をゲテモンみたいに言うな」  二人で顔を見合わせて爆笑した。

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