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第4話

「なぁ、本当にそれでよかったの?」  たまらず、唯斗は訊いた。 「何がや?」 「だから、そんな一言で終わってよかったの?」 「ぎょうさん、話したところで(おんな)じやで」  健吾はカップの中のモカジャワを見ながら言った。 「もし俺がな、イルミネーションの点灯前に彼女と()うたとして、今日は別れへんかったとしてもやな、それは先延ばしにするだけのことや…それは付き()うてきたからわかるんや。またアイツは違う賭けをするだけのこっちゃ。それやったら、さっさと別れた方がええと思わんか?」 「……」 「なんや、納得できてへん顔やな」  健吾は苦笑した。 「でもさ、決められないことだってあるだろ…運任せにしたいことだってあるだろ?…それでうまくやっていけることもあるんじゃないかな」 「まぁな。それも一理あるけどな…でも人との付き合い、しかも恋人同士はあかんのちゃうか…大切な人にはちゃんと向き()うて自分で考えた気持ちを伝えな…それがしんどくても、付き()うていくってそういうことやろ、って俺は思ってんねん」  唯斗は元カレに健吾の真っ直ぐさが半分いや十分の一でもあれば、別れていなかったかもなと思ってしまった。 「唯斗もなんかしんどいことあったみたいやな」  健吾は唯斗の気持ちを推し量るように優しい顔をした。 「俺もさ、去年、付き合ってた人とこのイルミネーションを一緒に見たなとか想っててさ」 「で、別れてしもたんか?その彼女と」  唯斗は彼女と言われて、そのまま聞き流そうとしたが、その時はこの行きずりの関西弁の男に話してみたくなった。 「あぁ…いや彼女じゃなくて、彼なんだ。俺、ゲイでさ」  一瞬の沈黙の後、健吾が訊いた。 「…で?」 「?…でって…」  唯斗は聞き返した。 「だから、ゲイやからどうしてん。なぁ、話しにちゃんとオチつけてくれんと気色悪いねんて。まだ、実は俺は宇宙人やねんって言われる方が百倍オモロいわ」  唯斗はこの関西人の健吾の思考回路についていけなかった。 「別に笑わそうと思って話したわけじゃないから」  唯斗はムッとして言った。健吾はごめんごめんと唯斗に向かって片手を上げて謝った。 「俺も相手のことを彼女って()うてしもたけど、でも、敢えてゲイって言わんでもええと思わへんか?誰を好きになってもいいやん」    健吾は唯斗の目を真っ直ぐに見て言った。 「それに、最近なんかテレビでようやってるやんエスディージーズって」 「エスディージーズ?」 「せや。虹色の旗持って、同性婚を認めへんのは違憲やゆうて」 「それって、LGBTQのこと?」 「あっ!それや」  唯斗は噴き出した。健吾は照れ臭そうに頭を掻いた。 「間違うにもほどがあるでしょ」 「SDGsかて、持続可能な、なんやらゆうてんねんから、人を好きになんのも持続可能なことやろ」  苦し紛れに言う健吾を見て、唯斗はしばらくお腹を抱えて笑った。その様子を見た健吾はニッコリとして言った。 「なぁ、唯斗は笑ってた方がええで」  サラッとそんなことを平気で言える健吾に唯斗はドキッとした。元カレにもそんな言葉を言われたことがなかった。 「唯斗は、そこそこええ顔してんねんから、笑ってた方がええわ」 「なんだよ、そこそこって」 「ええやん。唯斗はイケメンって感じちゃうけど、可愛いそこそこええ顔してるって」  唯斗は照れながらも笑っていた。

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