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遠い空が呼んでいる

穏やかに輝く太陽が東京駅に集まった僕たちを照らしていた。 緑の匂いをはらんだ風が丸の内の街を通り抜ける。 休日ということもあって多くの人が集まったブティック街を見ると、まさしくこれが五月晴れの一日なのだと思う。 なぜ僕たちが東京駅に集まっているのかというと、それは一週間前まで遡る。 「もうすぐゴールデンウィークだよ!」 東が子供の様に目を輝かせてすり寄ってきた。 手には有名旅行代理店の『GWの家族旅行に!!!』と銘打たれたパンフレットを何冊も持っていて、次になにを言い出すのかの予想はなんとなくついた。 「旅行に行こう!!!」 「なんでぇ?いーじゃーん休みなんだから奏の家でまったりしてればー。」 いつもの部室のソファーでくつろいでいた僕は喧しいとばかりに東を追い払う。 だってぇ、せっかくの休みなんだからわざわざ疲れる旅行なんかいきたくないよー。 「くっ……なんで……」 「奏もそう思うよねー?」 だから……駄洒落じゃないんだって…… いつも本ばっかり読んでインドアなことばっかりやっている奏の事だ。 どうせ嫌がるに決まっている。 「いいんじゃないか?別に?」 ほら言った通…… えっ…… 「えぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」 奏の予想外の一言に僕は思わず声を上げた。 「うるさい、穂影……何?どうしたの。」 「だ、たって……あの本ばっか読んでて、アウトドアな旅行とは全く無縁の奏が?!りょりょりょりょ……旅行?!」 「人を引きこもりみたいに言うんじゃねぇよ。」 奏は冷たい視線で僕を見下し、持っていた本の背表紙でとんと僕の頭を叩いた。 「だって、間違ってないじゃん……」 「まぁ、そうだけど。」 「じゃぁなんで。」 不思議そうに奏のことを見つめていると、奏は窓の方を見て、寂しそうに呟いた。 「俺、休みの時に家族と旅行とか行ったことないからさ……たまにはそーゆーのもいいかなって。」 奏の両親は二人とも多忙な職業らしく、不在がちで、子供のころから一人になることが多く本ばかり読むことが多くなったという話を昔聞いたことがある。 だから奏の中には家族に対する憧れみたいなものが少しあるのだろうと僕は思う。 心なしか、いつも少し寂しそうな表情をしているのもそのせいかな。 「……わかったよぉ。行けばいいんだろぉ。」 「やった!!旅行だぁ!!!」 そんな件があって現在に至る。 そのあと、部室で日が暮れるまで、行き先をほぼ喧嘩になりながら決めたのは言うまでもない。 結果、採用したのは奏提案の『北陸新幹線、金沢ツアー』 まぁ、予算的にも妥当でなんとも奏らしい。 僕の提案した『ドキドキ?男だらけの!沖縄ビーチツアー!!!』もなかなかいいと思ったんだど、流石に飛行機は旅費が嵩むと却下されてしまった。 無念…… 「金沢かぁ……魚いっぱいたべようね!」 小学生のような純朴な瞳を向ける、東。 ほんと、毎回言ってるけどかわいい。 でも、東……今回の旅行は絶対そんな穏やかな旅行じゃないよ。 ほら、奏を見てごらん。 目の奥がぎらついているよ。 そう、恋人で旅行なんて言ったらやることなんて一つしかない。 ふふふふふ。 そう、えっちだよね!!!! 今回僕は、この旅行でなんとしても成し遂げたいことがある。 それは……奏を抱くこと! いつも奏に主導権を握られてばっかりだったけど、今回の旅行でそれを逆転してやるんだ…… そして、奏にあんなことやこんなことを…… 「おい、穂影。置いてくぞ。」 「うわぁぁ!ちょっとまって!」 変な妄想をしている間に、置いて行かれそうになる。 ふふ、そうやって主導権を握っていられるのも今のうちだぞ…… こうして、僕らの長い長いゴールデンウィーク旅行は幕を開けることとなった。 東京駅の新幹線の改札をくぐり、ホームへ着くと、ホームに停車する様々な新幹線が目に入る。 鮮やかな赤色の秋田新幹線や、よくわからない緑色の東北新幹線など色取り豊かで男心をくするられる。 「すっごーい。ワクワクする!」 東の子供のような感想がいちいち胸にキュンキュン来る。 「北陸新幹線もかっこいーよなぁ。シュッてしてて。」 まぁ確かにわからなくもない。 男の子って、新しい乗り物とかに憧れるもんだよなぁ。 「来るときに写真撮らなきゃ……」 デジタルカメラも用意して、電車の到着をそわそわしながら待つ東。 それを奏と二人で見守るのはまるで保護者にもなった気分だった。 「かわいいなぁ、東は。子供みたいで。」 「そうだな……」 いつものように冷たい声で返す奏。 その声のトーンに違和感を感じる。 あれ、どーしたんだろ。 「楽しみだな。穂影」 そういって微笑みかけた奏の顔はいつもより穏やかで、思わず胸が跳ねる。 なんだ、楽しそうじゃん。 「うん。そうだね。」 「いい旅にしような。穂影。」 周りの時間が止まったように奏の顔を見つめる。 静寂を切り裂くように、警笛を鳴らしながら、列車がやってくる。 その様子を嬉しそうにとらえる東を斜に、僕と奏はキスをする。 ゆっくりと唇を離し、自然と手をつなぐ。 「二人だけずるい……!」 そうして、写真撮影から戻ってきた東と三人で手をつなぎ列車へと足を踏み入れた。

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