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白彼岸花の章 壱節
――想うは貴方一人丈。
「……如何して」
何度も何度も同じ体験をする。
何度目を醒ましても、何度も同じ光景を目にする。
何度死んでも、何度も中也に殺されて目を醒ます。
まるで質の悪い悪夢を繰り返し見せられて居る様だった。
死を渇望し乍らも、漸く迎へた死の先に再び在る生。其れは永遠に逃れ切れぬ牢獄の中に居るのと同じで、唯生き続ける事依りもずっと残酷な現実だった。
万年床から身を起こすと綿の薄い掛け布団が衣擦れの音を響かせ擦り落ちる。
ぽたたと水が落ち同心円状の染みが重なり合って大きく濃く成って行く。太宰は其れが自らの眼から零れ落ちた涙で在ると謂う事に気付けなかった。
涙を抑える様に両手で顔を抑える。涙が掌に巻かれた包帯へ染み込みじわりと熱を増して行くのを感じて居た。
嗚咽の様に吐息は切々と成り、両手で顔を覆い隠した間々、背中は小刻みに震えて居た。
――まるで滑稽で仕方が無かった。
何度も何度も中也の手で屠られる。
唯死ぬ丈では駄目だった。
中也の手で殺される事で、其の断末魔の表情を中也の瞳へ何度も何度も焼き付ける事で、死した後でも一生中也の手には殺した其の瞬間の感触が、死する直前の表情が消える事は無い。
だって此れは復讐だから。
「……私の事を、一生忘れさせやしない」
死して尚貴方へ深く打ち付ける楔はまるで詛い其の物で、死後他の誰に惹かれ様が愛され様が其の都度何度だって死に顔を思い出して一生苛まれ続けて欲しい。
「簡単に忘れられる程度の気持ちで君の事を愛していた訳では無いのだよ……」
其の間々吸い込まれる様に布団へ倒れ込む。空虚な眸からは静かに涙が流れ続けて頬を傳う。
慢心だったのか、自分が中也に飽きる事が無いのと同じで、中也の気持ちが自分から離れる事も無いと思って居た。傍に居る事が何よりも愛して居る事の証明で在るのだと、ずっと想って居た。
自分の出来る凡てを以て、愛を傳え続けて居た心算だった。それなのに――。
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