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エピソード1−①
俺はわくわくしていた。
近所には年上か年下しかいない。もちろんそいつらとも遊んだりするが。
今度、道を挟んだ向かい側に同じ年の子が引っ越して来る。
数日前、うちに母親と一緒に挨拶に来た。
★ ★
初め俺は少しぶすったれていた。
日曜日の午後、のんびりと自分の部屋で好きなヒーローもののDVDを観ていた。自分の部屋にテレビとDVDプレイヤー。生意気だと思うだろう? これには深い理由がある。
俺のことが嫌いな父親が、俺が居間でテレビを観ているのがうるさいと言って怒鳴る。そしてその後必ず母親にもあたるんだ。俺のことを可哀想だと思った母親がこっそり俺の部屋に小さなテレビとプレイヤーを用意してくれ、俺はヘッドフォンをつけてこっそりと観ている。
そんな時に階下から呼ばれた。
行ってみれば、見知らぬ女の人とその陰に隠れている子ども。
「誰?」
と聞いたがたいして興味もなく、早く部屋に戻って続きを観たいと思った。
引っ越しの挨拶に来たのだと母が説明した。
「ななせくんていうんですって──樹と同い年よ」
(ななせ『くん』? 女の子じゃなかったんだ。俺と同い年?)
俺の中の彼の第一印象は『小さな女の子』だった。
俺は少し興味が出てその子をじっと見る。
向こうも俺のことをじっと見ていた。
黒目の大きな……おどおどしたような瞳。
(なんだ、これ。なんか見たことが……あ、そうだ。前に飼ってたハツカネズミに似ている)
『同じ学校に行く』と言った母の言葉に更に興味が湧く。
「へぇ~、同じ学校に行くんだ~」
そこで初めて俺はその子の間近に立つと、背中を丸めて彼の母親に縋りついていたが、確かに自分と同じくらいの背丈だとわかった。
(ななせ……ななせかぁ)
「おれ、樹。よろしくな、ななせ」
名を呼んで見ると、何故だかかなりテンションが上がった。
──これが、七星と俺との出会い。
★ ★
それから数日、今日か明日かと七星を待った。
どうしてそんなに気になるのか俺にもわからなかった。幼稚園では同じ年の子どもなんてたくさんいるが、近所では初めてだったし四月からは同じ学校にも通うことになるんだと、それが嬉しかったのかも知れない。
それに。
(なんか、かわいかったし)
俺は待ち望んでいた七星が引っ越してきた当日から、もじもじしている彼のその手をぎゅっと掴んで遊びに連れ出した。
それから毎日のように、保育園から帰って来た瞬間を待ち構え、少ない時間でも一緒に過ごした。
最初は戸惑っていた七星もそのうち慣れてきたようだ。
俺は七星を『ナナ』と呼ぶようになったが、『樹と呼べ』という俺の希望はなかなか叶えられず、なんとか『いっくん』と呼んでくれるようになった。
そんな変化にも俺は嬉しくなった。
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