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エピソード1−②

 俺の家は父・母・俺の三人家族だが、俺にとって父親はいないようなものだ。母しかいない時はともかく三人揃っている時は、ぴりぴりとした空気になる。  しかし七星の家は違う。父・母・姉・七星の家族全員が仲が良く、いつでも温かい。そんな中に俺も入れて貰えた。  俺にとって七星は特別になった。 ★ ★  四月になり、俺たちは同じ小学校に通い始めた。  運が良いことに一、二年は同じクラス。  俺には幼稚園からの友だちが同じクラスにも学年にもたくさんいた。そいつらとも今まで通りわいわいやっていたが、七星のことは最優先した。  七星は引っ越してきたばかりで友だちは俺一人。そして、自分でも『コミュ障』と言っているように、俺以外とは余り話さない。  でも、俺は知っているんだ。そんな七星と友だちになりたい奴はたくさんいるってことを。七星が気になり過ぎてイジメに走ろうとする奴もなかにはいたが、俺がすべて阻止した。  七星は俺が守る。   (俺はナナを守るヒーローになりたい!)    俺はいつも父親に叩かれたり蹴られたりしている母親を守るヒーローになりたかった。でも今の子どもの俺にはそれは無理だとわかっていた。  俺のそんな思いはすべて七星に向いた。    三年生からはクラスは別になったが、放課後や休日は変わらず一緒に過ごした。俺が小学校の野球クラブに入ってからは、放課後の練習もグランドの隅で待っていてくれたし、試合も俺の母と一緒に応援してくれた。俺は何故か七星に「かっこいい」と思われたくて、めちゃくちゃ頑張って六年になる頃にはチームの中心になっていた。  同じ背丈だった俺たちはいつしか十センチ以上の差が出来た。俺が七星を見下ろす。七星が俺を見上げる。  俺を見上げる七星にどきどきしたり、今まで何度なく自然に繋いできた手を意識し始めた。  俺はそれが何故なのかわからなかった。  俺としか話さないナナ。  俺にしか笑わないナナ。  ずっとそれでいい。  ずっと俺だけのものでいい。  中学は別になるが、それでも俺たちは変わらず一緒にいるのだと、そう信じて疑わなかった。別の市にある私立の高校に入っても大学に行っても。当時夢であったプロ野球選手になったとしても。  そう、『あの時』までは。  弱い者イジメや曲がったことが許せない。そんな俺の性質が顕著になり、そのせいで俺たちは──。

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