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エピソード2
きらきら綺麗な想い出だけなら良かったのに。
ただ大好きな『幼馴染』への想いだけなら良かったのに。
解 けかけた包帯をゆっくりと解 いて。
その額には生々しい傷痕が残っていた──怪我をしてからまだ一週間も経っていない。そんなことは想像出来たはず。
なのに。
実際に見た傷は想像を遥かに越えて、俺を打ちのめした。
(こんな傷が……。塞がっても……ナナの額に残る傷が……)
血が沸騰したかのように身体中が熱くなった。
七星を傷つけた奴らの顔が頭に浮かぶ。
(許さない……っ。ナナにこんな傷を残して……)
幾ら男だからと言ってすぐ見えそうな場所に傷があったら、今後どんな影響があるか。気弱な七星だったら、もしかしたら今以上に引っ込み思案になってしまうかも知れない。
まずそんな怒りが湧いた。
しかしその後に考えたことは自分でも恐ろしくなるようなことだった。
(お前らのこと……ナナの記憶に強く残るような傷……その傷を見るたび思い出す。例え俺のことは忘れても……。そんなことは許せない……七星に一生消えない傷をつけていいのは──)
「いっくん? どうしたの?」
どれくらい固まっていたのか、七星が不思議そうな顔をしていた。
「やっぱり巻けない?」
「……ん、や、大丈夫」
俺は七星の後ろに回った。
これ以上この傷を見てはいけないと思った。
俺はそれに吸い寄せられて、噛みついて新たな傷をつけてしまう自分を想像してしまったからだ。
噛みついて……その後舐めて……。
身の内が酷く熱くなるような気がした。
俺は包帯を巻き終えると七星からさっと離れ家を出た。余りの素っ気なさに七星が悲しそうな顔をしているのではないかと思いながら。
『俺はナナから離れなければならない』
その時からそう思うようになった。
俺自身が七星を傷つけてしまわないように。
なんでこんなことになったんだ?
あの時公園に行かなければ。
俺が妙な正義感を振り翳さなければ。
七星の手を離さなければ。
あいつらさえいなければ。
あいつらさえいなければ。
あいつらさえいなければ。
俺は俺自身の失態や性質をすべて、あの時いた中学生のせいだと思い込み始めた。
俺はもう七星といられないのに。
謝りにも来なかった。
あいつらだけなんの責任も感じずに生きて行くことが許せなかった。
──復讐してやる……っ。
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