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エピソード6

 高校二年生、二周目。  今年はだいぶ楽しそうだ。  別に悪ぶったり、サボったりしようと思っていたわけじゃないけど、せっかく入学した高校もなんだか刺激がなく、朝ベッドの上で今日は行きたくないなぁってぼんやり思ってたら、いつの間にか夕方だったりとか。登校している途中で急に海が見たくなって学校通り過ぎちゃったりとか。学校のすぐ近くに海があるとかいう、環境の良さも考えもの。  留年が決まっても、そんなものかと特に後悔も辞めようという気も起きなかった。これで樹と同じ学年になる、同じクラスになったらもっと楽しそうだ。  そんなふうに思っていた。  新学期が始まってしばらくして、もう一つ学校へ行く楽しみが増えた。 『ななちゃん』  お互い何も言わないけど。  どうやら樹と何かあるらしい。  興味もそそられた。   体育の時に話して以来、オレは七星を見掛ける度に『ななちゃーん』と手を振ったり、時には話し掛けたりもした。その度に樹にめちゃくちゃ睨まれて、オレを七星から遠ざけようとする。  そんな樹を見るのは初めてで。 (ぜったい何かあるに決まってるじゃーん)  遠ざけると言えば、七星の傍にいつもいる元気そうな子。 (あの子もオレを遠ざけようとしているよな)  あっちはけっこうわかりやすい。   (あの子はななちゃんのことが好きなんだ。LOVE的な意味で)    そんな可愛いい二人がいちゃいちゃしているところを見たら、ちょっかい出したくなるよね?  昼休み。『告白タイム』で樹を連れて行かれてしまったオレは一人寂しく昼食タイム。ふらっと立ち寄った二階テラスで二人が仲良くお弁当を食べていた。 (いいなぁ、仲間に入りたいたなぁ)  なんてほっこり眺めながらパンを齧っていたら、なんだかじたばた始まって『だいくん』が七星を押し倒していた。  勿論そういうつもりではないだろうけど『だいくん』のほうは満更でもない感じ。  気まずい空気が流れていたので。 (よしよしオニイサンが助けてやろう)  なんて野次馬根性的に上から覗いたら、倒れた拍子に前髪が揺れいつもは見えない額が現れていた。 (あれ……?──ああ、そうか。ななちゃんはこれを気にしていたのか……)  前髪に隠れていない可愛い顔に似つかわしくない傷痕。  オレはそこにそっとキスをした。 「気にすることないよ」 (樹はななちゃんの傷のことを知っているのかな)  下校時。隣でもくもくと歩いている樹にどうでもいいような話題を振りながら、そんなことを考えていた。  七星に対しては優しい気持ちがあったが、樹にはちょっと意地悪したくなってしまう。このポーカーフェイスがまた崩れるだろうか。 「ねぇ樹、知ってる? ななちゃんの額に傷があるの?」 「え」  反応はすぐに返ってきた。思いの外顔色を変えていた。 (おおーっ)  その反応にオレはちょっと調子に乗りすぎた。 「ボク今日見ちゃったんだ。それでね、すごーく気にしているようだったから、『気にしなくていいんだよ~』ってその傷にちゅーしちゃった」  てへっと笑って樹の様子を伺おうとしたのと、オレが腹にかなりキツい一発を食らったのとは同時だ。 「いつ……っ。おい、樹っ」  腹を押さえてしゃがみ込んだ。顔を上げたら彼奴はもう校門を出るところだった。 (くそっやっぱただのご近所さんじゃねぇーだろ)    
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